アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

CD

櫻井 哲夫 / ブラジル・コネクション VOL.14

BRASIL CONNECTION VOL.1-1 櫻井哲夫にはいいブレーンがいないようだ。企画が練られていないようだ。

 『GENTLE HEARTS』の後に『CARTAS DO BRASIL』。『GENTLE HEARTS TOUR 2004』の後に『BRASIL CONNECTION VOL.1』(以下『ブラジル・コネクション VOL.1』)と来た。またかよ〜。
 しかも『ブラジル・コネクション VOL.1』の3カ月後に『ブラジル・コネクション VOL.2』発売と来た。だったら初めから2枚組で発売してよ。値段は5000円でも買うんだから。中途半端だよ〜。

 事実『ブラジル・コネクション VOL.1』『ブラジル・コネクション VOL.2』の主役はフィロー・マシャードヴォーカルである。櫻井哲夫の存在感は希薄である。悔しいかな,櫻井哲夫は脇役でありサポートなのである。

 セットリストも櫻井哲夫のリーダー・アルバムには不釣り合いなオリジナル曲の少なさだし,楽しみだった櫻井哲夫ベース・プレイも2フィンガーばかり。
 櫻井哲夫はサポート・ベーシストでクレジットされるべき。若しくはナベサダみたいにプロデュースだけに専念するとか…。
 どうせなら『ブラジル・コネクション VOL.1』『ブラジル・コネクション VOL.2』は,フィロー・マシャードソロ名義で発売してほしかった…。

 そう思ったのは『ブラジル・コネクション VOL.1』発売後『ブラジル・コネクション VOL.2』発売までの3カ月の感想です。
 真に櫻井哲夫の「ブラジリアン・フュージョン」が爆発するのはライブ後半のお約束。『ブラジル・コネクション VOL.2』を聴いてみて『ブラジル・コネクション VOL.1』に対する印象が変化しました。

BRASIL CONNECTION VOL.1-2 管理人の結論。『ブラジル・コネクション VOL.1批評

 『ブラジル・コネクション VOL.1』は,櫻井哲夫が頭の中でイメージした「ブラジリアン・フュージョン」ではなく,櫻井哲夫がネイティブなブラジル人と同じステージで作り上げた「ブラジリアン・フュージョン」。

 地球の裏側同士の音楽が“混ざりあった”『BRASIL CONNECTION』。櫻井哲夫の“ブラジル愛”が結実した名盤である。

  01. SAUDADE DE VOCE
  02. UPA NEGUINHO
  03. A INDIA E O ATIRADOR DE FACAS
  04. REAL
  05. NAVEGANDO SOZINHO
  06. TERRAS DE MINAS
  07. VESTIDO LONGO

(サウンドバイブレーション/SAKURAVIBE 2006年発売/XQAZ-1001)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)

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ドナルド・バード / ザ・キャット・ウォーク5

THE CAT WALK-1 ドナルド・バードペッパー・アダムスデューク・ピアソン・ラインによる「リリカル・ファンキー路線」の集大成『THE CAT WALK』(以下『ザ・キャット・ウォーク』)が最高である。

 黒いファンキーではない,洗練されたファンキーだと分かっていても,それでもノッテしまうし,ノセられてしまう。ドナルド・バードデューク・ピアソンの共通する資質が気持ちよく融合し,味わい深さが増している。
 その意味でドナルド・バードを代表するファンキー・ジャズの1枚は『フュエゴ』ではなく『ザ・キャット・ウォーク』の方である。

 そう。知的な雰囲気にノセられてしまう,という「矛盾」を解決してくれるのが,フィリー・ジョー・ジョーンズドラミングレックス・ハンフリーズのPOP感覚なドラミングも,ハード・バップではなくファンキーでもない『フュエゴ』にはよく合っている。
 ただし『ザ・キャット・ウォーク』のレベルにまで,ファンキー・ジャズが洗練されてしまった今,フィリー・ジョー・ジョーンズの“豪快な太鼓の鳴り”にトドメを刺されてしまう。

 実はドナルド・バードを(デューク・ピアソンを)聴き続けていると,本当に素晴らしい曲ばかりだし,曲の質の高さに魅了されてしまって,ジャズとは言えど,音楽の楽しみはメロディーにあると思い込んでしまうのだけど『ザ・キャット・ウォーク』を聴き終わる度に「ジャズの醍醐味はリズムにある」ことを毎回思い知らされる…。

 別に管理人はフィリー・ジョー・ジョーンズの大ファンではないのだけれど『ザ・キャット・ウォーク』におけるフィリー・ジョー・ジョーンズドラミングだけは大絶賛。
 ドナルド・バードペッパー・アダムスデューク・ピアソンの絶品フロントを「つまみ喰い」しながら,曲想の端々を縦横無尽に駆け巡る〜。

 チャーミングな楽曲,耳に心地よいアレンジ,まとまりの良いソロ…。綺麗にまとめ上げられたドナルド・バードペッパー・アダムスデューク・ピアソンの専売特許を“豪快な太鼓の鳴り”一発で凌駕するとてつもない原始的なエネルギーの動きを感じ取る。個人の本能的センスが秀才的予定調和の世界を打ち破った瞬間の痛快さで満ちている。

ザ・キャット・ウォーク』のハイライトは,ファンキー・ジャズ史上稀に見る,デューク・ピアソンフィリー・ジョー・ジョーンズによる「知性と本能の対比」にある。

THE CAT WALK-2 基本大大好きなドナルド・バードペッパー・アダムスデューク・ピアソン・ラインだけがアレンジできる楽しさ満点のテーマに魅了された瞬間,スネア一発で土台が揺り動かされるほどの“ダイナミズム”ファンキー

 ドナルド・バードミュートを吹けば吹くほど,ペッパー・アダムスバリトンサックスらしからぬ,流ちょうなテーマを奏でれば奏でるほど,デューク・ピアソンが鍵盤で8小節に区切って,曲全体をまとめればまとめ上げるほど,フィリー・ジョー・ジョーンズドラムがまるで躍動する生き物のように呼吸し,囁き,叫んでいるように聴こえてしまう。

 結果,一周回ってドナルド・バードトランペットに「叙情性」が加えられて聴こえてしまう。(以前ならこう呼ぶのに抵抗があったはずなのに)ドナルド・バードこそがファンキー・ジャズだ,と叫んでしまいたくなる。管理人の愛聴盤の1枚である。

  01. SAY YOU'RE MINE
  02. DUKE'S MIXTURE
  03. EACH TIME I THINK OF YOU
  04. THE CAT WALK
  05. CUTE
  06. HELLO BRIGHT SUNFLOWER

(ブルーノート/BLUE NOTE 1962年発売/TOCJ-7128)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,岡崎正通)

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櫻井 哲夫 / GENTLE HEARTS TOUR 20044

GENTLE HEARTS TOUR 2004-1 『CARTAS DO BRASIL』の次に『GENTLE HEARTS TOUR 2004』がリリースされることになった。

 櫻井哲夫の「ブラジル路線」が気に入った後に,イマイチだった『GENTLE HEARTS』のライブ盤を出されても…。しかもフォロー・ツアーとは呼び難い,CD発売4年後にライブ盤を出されても…。

 だから『GENTLE HEARTS TOUR 2004』は,櫻井哲夫ファンとしては初めてとなるスルー。購入したのは翌年となった。
 購入のきっかけは櫻井哲夫ではなくグレッグ・ハウの『EXTRACTION』。『EXTRACTION』とは,ギターグレッグ・ハウドラムデニス・チェンバースベースヴィクター・ウッテンを迎えて制作されたギター・トリオ

 すなわち『GENTLE HEARTS TOUR 2004』は,ベーシストヴィクター・ウッテンから櫻井哲夫に交代したグレッグ・ハウギター・トリオと見立てることもできるわけで(実際にグレッグ・ハウの【EXTRACTION】も演奏されているし)『GENTLE HEARTS TOUR 2004』1枚で,櫻井哲夫ベース・トリオグレッグ・ハウギター・トリオの2枚分を楽しめる!

 聴く前は駄盤と思っていた『GENTLE HEARTS TOUR 2004』が素晴らしい。怒涛のテクニカル・パンク・ハードロック・フュージョン名盤である。
 事実『GENTLE HEARTS TOUR 2004』を聴いた後“本家”『GENTLE HEARTS』を何度,引っ張り出して聴き直したことだろう。

 それまではイマイチだった【SAMURAI FAITH】【BRAIN STORM】【GENTLE HEARTS】【THE INVISIBLE WAY】【WONDERLAND IN THE SKY】が名曲に聴こえる。← 眠りから覚めた今は名うてのセッション・ナンバーだと思っています。

 『GENTLE HEARTS TOUR 2004』の主役は『GENTLE HEARTS』でも主役を張ったグレッグ・ハウギターである。
 早弾きのテクニックはアラン・ホールズワースばりだし,スレーズがアウトする感じはジョン・スコフィールドばり。メタル系なのに明確にジャズ・ギターを意識している。
 『GENTLE HEARTSセッションのために櫻井哲夫本人が熱望したギタリストだけのことはあると思う。

 グレッグ・ハウの脇を固める櫻井哲夫のチョッパー・ベースがメロディアスに歌う。6弦ベースの高音弦でのパンチングは“ベースギター”と呼ばれるにふさわしい。ベースでもありギターでもある。

 デニス・チェンバースの暴走するドラミングは『GENTLE HEARTS』にはなかったライブならではのグルーヴ
 グレッグ・ハウジョン・スコフィールドが乗り移った瞬間,デニス・チェンバースの中の“野獣”が顔を出している。

GENTLE HEARTS TOUR 2004-2 しか〜し『GENTLE HEARTS TOUR 2004批評を記すにあたり,どうしても書いておかねばならないのは,サポートで入った小野塚晃キーボードである。
 グレッグ・ハウギターソロは,手癖が多くて?アドリブが少なめな分,小野塚晃キーボードソロがテンションアップのボタンを押している。流石は“超絶技巧集団”DIMENSION〜。

 『GENTLE HEARTS TOUR 2004』のハイライトは【PAVANE POUR UNE INFANTE DEFUNTE】と【GENTLE HEARTS】のバラード2曲。
 小野塚晃のバッキングが“歌もの”櫻井哲夫の奥深い演奏に色彩を添えている。

 小野塚晃が仕掛けで加わった『GENTLE HEARTS TOUR 2004』は『GENTLE HEARTS』とは別物なのである。

  01. SAMURAI FAITH
  02. THE INVISIBLE WAY
  03. PAVANE POUR UNE INFANTE DEFUNTE
  04. PUNK JAZZ
  05. EXTRACTION
  06. GENTLE HEARTS
  07. BRAIN STORM
  08. WONDERLAND IN THE SKY

(ビクター/JVC 2005年発売/VICJ-61265)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)

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ドナルド・バード / コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.24

AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 2-1 『AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 1批評でも書いたが『AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 2』(以下『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』)の主役は,ドナルド・バードトランペットではなく,ペッパー・アダムスバリトンサックスでもなく,デューク・ピアソンの“ファンキーな”ピアノで間違いない。

 そう。アート・ブレイキーの傍らにベニー・ゴルソンがいたように,ドナルド・バードの傍らにはデューク・ピアソンがいた。
 ドナルド・バードトランペットに絡むペッパー・アダムスバリトンサックスの相性の良さは「鉄板」なのだが,そんな「鉄板」を超えるドナルド・バードデューク・ピアソンの「新定番」が確立されたのが『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』と『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』での2枚のライブ盤なのである。

 『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』と『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』の2枚の違いについて書くとすれば,ライブ前半の1枚目はデューク・ピアソン1人が目立っているが,ライブ後半の2枚目に入ると,ドナルド・バードペッパー・アダムスデューク・ピアソンという感じに3人のコンビネーションが決まってきている。

 1枚目が「デューク・ピアソンファンキー・ジャズ」ならば,2枚目は「ドナルド・バードペッパー・アダムスの双頭コンボのファンキー・ジャズ」。ステージが進むにつれて演奏も会場も盛り上がっていく。
 「知性」と「ファンキー」。「可憐」と「野生味」がデューク・ピアソン一流の“黄金比”でブレンドされている。

 『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』と『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』の2枚で“天下を取った”三人組「ドナルド・バードペッパー・アダムスフィーチャリングデューク・ピアソン」の時代は短い。
 続く『THE CAT WALK』を最後にドナルド・バードの(右腕がペッパー・アダムスであるのなら)左腕であるデューク・ピアソンとの蜜月コラボレーションが突然終了。

 後日,この契約解消はドナルド・バード側の意向と知って更に驚いた。ドナルド・バードも『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』と『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』の2枚を繰り返し聴いて,デューク・ピアソンの真価をもっと評価できたらよかったのにぃ。

 ただし競合相手がハービー・ハンコックだったのだからデューク・ピアソンに勝ち目はなかった。デューク・ピアソンの真価はドナルド・バード以上にアルフレッド・ライオンが高く高く評価しております。

AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 2-2 管理人の結論。『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2批評

 デューク・ピアソンが,ドナルド・バードペッパー・アダムスの個性を引き出し描いた相反スケッチ。メンバー全員が突進することなく,それでいて芯があり,演奏にまとまりが感じられる。
 そう。ドナルド・バードの傍らにはデューク・ピアソンがいたのである。

 ライブ盤なのにスタジオ盤のような完璧な演奏に仕上がっている。
 この点をドナルド・バードの資質として素晴らしいと感じるか? ライブ盤っぽくないと残念だと感じるか?で『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』の評価は二分されるように思う。

  01. JEANNINE
  02. PURE D. FUNK
  03. KIMYAS
  04. WHEN SUNNY GETS BLUE
  05. BETWEEN THE DEVIL AND THE DEEP BLUE SEA
  06. THEME FROM MR. LUCKY

(ブルーノート/BLUE NOTE 1960年発売/TOCJ-7109)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,岡崎正通)

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櫻井 哲夫 / カルタス・ド・ブラジル5

CARTAS DO BRASIL-1 櫻井哲夫“生涯のライフワーク”となる「ブラジル大好き」の1作目となる『CARTAS DO BRASIL』(以下『カルタス・ド・ブラジル』)は,櫻井哲夫の既発オリジナル曲をヴォーカル・ナンバーに仕立てたセルフ・カヴァー集。

 カシオペアジンサクへの提供曲がここまでブラジルしてしまうとは! お見事です。MPBど真ん中です。
 『カルタス・ド・ブラジル』のこの感覚はT−スクェアの『ヴォーカル・スクェア』を聴いた時と同じであって,インストのメロディー・ラインに歌詞が乗っても全く違和感がない。

 …と言うよりも元はインストなのに,初めからヴォーカル・ナンバーとして作曲されていたかのような素晴らしい出来映えである。トータルの完成度からすれば『ヴォーカル・スクェア』以上であろう。

 もしや櫻井哲夫の「ブラジル路線」はカシオペア在籍時から始まっていたのか? そう思ってオリジナル音源と聴き比べたりしたものだが,どちらも甲乙付け難い。

 ズバリ『カルタス・ド・ブラジル』で初めて,櫻井哲夫の“歌心”に開眼してしまった。テクニカルなベースを弾きながらも,インストを演奏しながらも,櫻井哲夫はいつも心の中で「歌を歌っていた」のだ。
 超絶技巧のカシオペアのアレンジでは感じなかった,櫻井哲夫の中のMPB。そう言えばカシオペアって,ブラジル公演も行なったよなぁ。

 とにかく『カルタス・ド・ブラジル』は“超絶ベーシスト櫻井哲夫を聴くアルバムではなく櫻井哲夫の“サウダージ”を聴くためのアルバムである。
 極論を書けば,櫻井哲夫は『カルタス・ド・ブラジル』で自らベースを弾かなくてもよかった。現地ブラジルのミュージシャンをコーディネイトと譜面を渡しさえすればすればよかった。もうその時点で『カルタス・ド・ブラジル』は完成したも同然だったから。後はちょちょっと最後の仕上げをするだけで「一丁上がり」!

CARTAS DO BRASIL-2 それくらいの大らかな雰囲気が『カルタス・ド・ブラジル』の中にある。MPBからの大物ゲスト・ヴォーカル陣=イヴァン・リンスジャヴァンフィロー・マシャードホーザ・パッソスタチアーナヴァレリア・オリヴェイラ,そして日本はオルケスタ・デ・ラ・ルスNORAが歌う,櫻井哲夫の“サウダージ”に心癒されてしまう。すごくいい。

 ある日,完全に脇役に徹している櫻井哲夫ベースを追いかけていて気付いたことがある。櫻井哲夫は1曲毎にベースの表情を変えてきている。
 スーパー・ウルトラ・テクニックを封印してもベースにこれほどの手間と時間をかけているのだった。

 櫻井哲夫の「ブラジル大好き」は,本物を超えた本物です!

  01. ELISA
  02. CANCAO DO CORACAO
  03. REAL
  04. VENUS
  05. COM A PAZ NO CORACAO
  06. A ESTRELA NAMORADA
  07. SAUDADE DE VOCE
  08. NAVEGANDO SOZINHO
  09. LA MADRUGADA
  10. SONHO DE VERAO
  11. TEMPLO DA ILUSAO

(ビクター/JVC 2003年発売/VICJ-61127)

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ドナルド・バード / コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.14

AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 1-1 本来ならば『AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 1』(以下『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』)は(契約上の問題で)ドナルド・バードソロ名義ではなくペッパー・アダムスソロ名義になったはずのアルバムなのだから,ドナルド・バードの傍らにはペッパー・アダムスがいた,と書くべきであろう。

 しかし『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』のサウンド・メイキングを聴く限り『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』の主役は,ドナルド・バードトランペットではなく,ペッパー・アダムスバリトンサックスでもなく,デューク・ピアソンの“ファンキーな”ピアノで間違いない。

 そう。アート・ブレイキーの傍らにベニー・ゴルソンがいたように,ドナルド・バードの傍らにはデューク・ピアソンがいた。
 ドナルド・バードトランペットに絡むペッパー・アダムスバリトンサックスの相性の良さは「鉄板」なのだが,そんな「鉄板」を超えるドナルド・バードデューク・ピアソンの「新定番」が確立されたのが『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』と『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.2』での2枚のライブ盤なのである。

 長年連れ添ってきたドナルド・バードペッパー・アダムスの双頭コンボの蜜月関係に,デューク・ピアソンが初めて割って入ったのが『FUEGO』であったが,この時点でのデューク・ピアソンはまだ駆け出しのサイドメン。

 『FUEGO』『BYRD IN FLIGHT』でベニー・ゴルソン的な役割を果たしてきたデューク・ピアソンが,ついに『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』では,自ら先頭に立って「デューク・ピアソンファンキー・ジャズ」を謳歌している。
 バップ・ラインに捉われない多様なサウンド・メイキングがノリに乗っていく。

 ズバリ『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』におけるドナルド・バードペッパー・アダムスの存在価値とは,デューク・ピアソンの「持ち駒」であろう。
 デューク・ピアソンの指揮棒通りに演じられる,ドナルド・バードペッパー・アダムスのバトルとユニゾンとの塩梅が絶妙であって,結果,ゴリゴリしていない,都会的なファンキー・ジャズ=「デューク・ピアソンファンキー・ジャズ」が完成している。
 「知性」と「ファンキー」。「可憐」と「野生味」がデューク・ピアソン一流の“黄金比”でブレンドされている。

AT THE HALF NOTE CAFE VOLUME 1-2 管理人の結論。『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1批評

 デューク・ピアソンが,ドナルド・バードペッパー・アダムスの個性を引き出し描いた相反スケッチ。メンバー全員が突進することなく,それでいて芯があり,演奏にまとまりが感じられる。
 そう。ドナルド・バードの傍らにはデューク・ピアソンがいたのである。

 ライブ盤なのにスタジオ盤のような完璧な演奏に仕上がっている。
 この点をドナルド・バードの資質として素晴らしいと感じるか? ライブ盤っぽくないと残念だと感じるか?で『コンプリート・ハーフノートのドナルド・バード VOL.1』の評価は二分されるように思う。

  01. INTRODUCTION BY RUTH MASON LION
  02. MY GIRL SHIRL
  03. SOULFUL KIDDY
  04. A PORTRAIT OF JENNIE
  05. CECILE
  06. THEME: PURE D. FUNK
  07. CHILD'S PLAY
  08. CHANT

(ブルーノート/BLUE NOTE 1960年発売/TOCJ-7108)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,岡崎正通)

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櫻井 哲夫 / ジェントル・ハーツ4

GENTLE HEARTS-1 “超絶ベーシスト櫻井哲夫が“スーパー・ギタリスト”のグレッグ・ハウと“爆裂ドラマー”のデニス・チェンバースを迎えて制作された「フュージョン+ロック+ファンクの混血セッション大会」が『GENTLE HEARTS』(以下『ジェントル・ハーツ』)である。

 とにかく凄い。凄すぎる。弾きまくりのセッションCDのド迫力に圧倒されてしまう。確かに「パンク・ロック・フュージョン」であろう。
 しかし,冷静に聴けるようになると革新的な「パンク・ロック・フュージョン」の原動力は,櫻井哲夫ではなくグレッグ・ハウだと思ってしまう。

 『ジェントル・ハーツ』はベーシストトリオではなく,ギタリストトリオである。
 完全に櫻井哲夫グレッグ・ハウにリードされてしまっている。デニス・チェンバースの耳もベースではなくギターを聴いている節がある。

 恐らくは櫻井哲夫の紳士的で文字通りの『ジェントル・ハーツ』な人間性が,櫻井カラーを薄めてしまった原因ではなかろうか?
 いいや,カシオペア的なアンサンブルではなく,ジンサク的なアンサンブルでもなく,ジャコ・パストリアス的なアンサンブルを求めた結果,単なる“超絶バトル”で終わってしまった,というのが本音では?

 何はともあれソロ活動開始後,初めてとなる“超絶ベーシスト”としてのアルバムに歓喜したものだ。“音楽家”としての櫻井哲夫を聴き続けたいと願う反面,こうも“超絶ベーシスト”が封印され続けると「思いっきり弾いてくれ〜」とフラストレーションが溜まってしまうものですから…。

 そういう意味では『ジェントル・ハーツ』の本質は,櫻井哲夫にとっても櫻井哲夫のファンにとっても「ガス抜き」である。
 そういう意味では『ジェントル・ハーツ』の続編となる『GENTLE HEARTS TOUR 2004』や『VITAL WORLD』もアウトローな「ガス抜き」である。

GENTLE HEARTS-2 管理人の結論。『ジェントル・ハーツ批評

 「パンク・ロック・フュージョン」路線の『ジェントル・ハーツ』の真価は,メロディーの中でベースをどれだけ「弾き倒すか」で決まるのであって,高度なアンサンブルとか楽曲の完成度までは求めてはならない。

 その意味で『ジェントル・ハーツ』は今一歩。ジャケ裏に書かれた“侍”の大文字の如く,野生の本能の赴くままに感情の発露をベースに乗せてくれたなら…。

PS 【SAMURAI FAITH】を聴く度に,どこぞやにヒット曲を聴いている気分になる。ラジオの「パワープレイ」か何かで繰り返し耳にした曲に似ているだけなのだろうか? 喉元まで出てきているのに最後の最後で出てこない。【SAMURAI FAITH】を聴く度に,どうしても思い出せずに,モヤモヤさまぁ〜ず。

  01. SAMURAI FAITH
  02. BRAIN STORM
  03. PUNK JAZZ
  04. GENTLE HEARTS
  05. THE INVISIBLE WAY
  06. MAXIMUM
  07. WONDERLAND IN THE SKY
  08. DANDELION

(ビクター/JVC 2001年発売/VICJ-60735)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)

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ドナルド・バード / バード・イン・フライト5

BYRD IN FLIGHT-1 『BYRD IN FLIGHT』(以下『バード・イン・フライト』)は,ジャズを聴き始めた頃から,ドナルド・バードを聴き始めた頃からずっと好きだった。

 『バード・イン・フライト』のメンバーは,トランペットドナルド・バードテナーサックスハンク・モブレーアルトサックスジャッキー・マクリーンピアノデューク・ピアソンベースタグ・ワトキンスレジー・ワークマンドラムレックス・ハンフリーズである。悪かろうはずがない。

 「ブルーノートの助さん&格さん」ハンク・モブレージャッキー・マクリーンの色彩豊かなコントラスト。どちらが上でも下でもない。どちらを取っても,サイドに回った時に実力以上の名演を残す「B級の顔」らしい,最高に素晴らしい演奏である。
 オーソドックスなクインテットというのも悪くはないが,惜しむべきはなぜ3管で来なかったのだろう?

 『バード・イン・フライト』の全6トラックは【GHANA】【LITTLE BOY BLUE】【GATE CITY】【LEX】【“BO”】【MY GIRL SHIRL】の佳曲揃い。悪かろうはずがない。

 アフリカと見せかけておいて実はアフロキューバンな【GHANA】の疾走感が最高である。ブルーノートの名曲群の中に必らず名前が挙げられる【MY GIRL SHIRL】のおフランス的なアンニュイな雰囲気が最高である。

 そう。『バード・イン・フライト』は,全ブルーノート好きが選ぶ,そして全ハード・バップ好きが選ぶ,そして全モダン・ジャズ・マニアが選んだ名盤である。管理人の昔からの愛聴盤である。

 しか〜し,管理人が『バード・イン・フライト』を,本気でここまで好きになったのは近年のことである。この好きの感情は別の次元からやってきた。山中千尋である。

 そう。山中千尋ドナルド・バードの「裏名盤」として『バード・イン・フライト』を挙げていたのだ。
 恥ずかしながら管理人には,実はこんな経験がたくさんあって,今回も自分の気になるジャズメンがいいと言うから好きになるパターン。

 今回は山中千尋の発言を取り上げたのだから,ライバルである上原ひろみの発言を例に説明しよう。
 過去に上原ひろみが「私の選ぶ10枚」だったか何かで,管理人の“フェイバリットキース・ジャレットの『スタンダーズ・イン・ノルウェイ』を挙げていた。

BYRD IN FLIGHT-2 管理人はその事実に凄く驚いた。世評における『スタンダーズ・イン・ノルウェイ』の評価はキース・ジャレットトリオの『??』の出涸らし。無論,キース・ジャレットの場合は出涸らしであっても超ド級の一級品に違いはないが,やはりキース・ジャレットの他のアルバムと比較したらワンランク落ちると管理人も思っていた。

 そうして改めて聴いた『スタンダーズ・イン・ノルウェイ』! 上原ひろみよ,あなたは何故にそんなにジャズのことが分かっているのか! 抜群にいいではないか!
 そうして改めて聴いた『バード・イン・フライト』! 山中千尋よ,あなたは何故にそんなにジャズのことが分かっているのか! 抜群にいいではないか!

 だ・か・ら『バード・イン・フライト』が以前よりもっと好きになった! ドナルド・バードが以前よりずっと好きになった! 山中千尋ももっとずっと好きになった!

 ズバリ,山中千尋が教えてくれた『バード・イン・フライト』こそがドナルド・バードの「裏名盤」である。

  01. GHANA
  02. LITTLE BOY BLUE
  03. GATE CITY
  04. LEX
  05. "BO"
  06. MY GIRL SHIRL

(ブルーノート/BLUE NOTE 1960年発売/TOCJ-4048)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,原田和典,大西米寛)

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櫻井 哲夫 / TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS4

TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS-1 “スーパー・ベーシスト櫻井哲夫の「デビュー20周年記念」のライブ盤『TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS』とは,カシオペアジンサク時代の櫻井哲夫オリジナル集を“演奏しまくる”四部構成のライブ盤である。

 その四部構成の内訳とは…
・第一部は勝田一樹が入った「櫻井哲夫 & 勝田一樹 WITH カシオペア」。
・第二部は「櫻井哲夫 & 神保彰」による【FIREWATER】と【FUNKY PUNCH】でのジンサク100%』復活パート。
・第三部は「カシオペア FEATURING 櫻井哲夫」による【SAILING ALONE】。
・第四部は櫻井哲夫ベース・ソロBASS SOLO 2000】。

 ゆえに『TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS』のフォーメーションは“スーパー・ベーシスト櫻井哲夫が一人前へ出て,次にドラム神保彰が一人前へ出て,その次にギター野呂一生キーボード向谷実が二人前へ出て,四列目にサックス勝田一樹が控える構図であろう。

 そう。基本的には櫻井哲夫の「デビュー20周年記念」にかこつけた「第一期カシオペア」の復活祭が“狙い”である。危うくばこれを機会にカシオペアに復帰できるかも…。
 櫻井哲夫も,いいや,野呂一生向谷実神保彰も,心のどこかに否定できない“淡い期待”があったと思う。

 しか〜し『TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS』から飛び出してきた音楽は,どうにもこうにも“カシオペアっぽくない”。
 黄金期のメンバーで演奏しているのに,明らかにあの頃のカシオペアになりきれていない。

TLM20〜LIVE MEMORIES IN 20 YEARS-2 その最大の理由はサックス勝田一樹のブロウにある。
 勝田一樹サックスが鳴れば,バックがカシオペアなのにDIMENSIONに聴こえてしまう。勝田一樹は“物凄い個性”を持っている。

 もはやカシオペアには戻れない。櫻井哲夫本人も(そして野呂一生向谷実神保彰も)自覚したであろう「デビュー20周年記念」のカシオペアからの完全卒業ライブ盤である。

  01. CHAOS
  02. I'M GONNA CATCH YOU
  03. DISPENSATION
  04. ALISA
  05. FIREWATER
  06. FUNKY PUNCH
  07. SAILING ALONE
  08. RED ZONE
  09. BASS SOLO 2000
  10. YOU CAN DO IT!
  11. 45゚C

(ビクター/JVC 2000年発売/VICJ-60644)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)

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ドナルド・バード / フュエゴ5

FUEGO-1 ドナルド・バードの代表作にしてファンキー・ジャズ屈指の名盤と讃えられる『FUEGO』(以下『フュエゴ』)。

 『フュエゴ』の高評価に異論はない。ただし,管理人が評価する『フュエゴ』とは“踊れるハード・バップ”であり“POPなハード・バップ”としての『フュエゴ』である。
 ズバリ,ドナルド・バードファンキー・ジャズとは,アート・ブレイキーホレス・シルヴァーキャノンボール・アダレイからイメージする一般的なファンキー・ジャズとは一線を画している。

 例えば,アート・ブレイキーの【MOANIN’】。ホレス・シルヴァーの【SONG FOR MY FATHER】。キャノンボール・アダレイの【MERCY,MERCY,MERCY】。これらは躊躇せずに踊れる,と言うか本質として乗れる。

 一方,ドナルド・バードの場合はファンキーと言ってもまだまだ品の良さが漂う。
 『フュエゴ』の本質とはドナルド・バードの素朴で歌心のある演奏に,ブルーノート独特の“黒っぽい”サウンドエンジニアリングが相乗して合成されたファンキー・ジャズである。

 ズバリ『フュエゴ』の音楽監督はデューク・ピアソンである。デューク・ピアソンのゴスペル・ピアノが,デューク・ピアソンの“COOL”なソロ名義とは聞き違えるほどに乗っている。
 デューク・ピアソンの“HOTな”ピアノが『フュエゴ』を“踊れるハード・バップ”へと強烈に押し上げている。

 加えて,この流れで書いておかねばならないのは『フュエゴ』の主役は,ドナルド・バードトランペットではなくジャッキー・マクリーンアルトサックスである。
 マイナー・トーンを吹かせたら無双の強さを発揮するジャッキー・マクリーンが『フュエゴ』のアーシーな雰囲気に一役買っている。饒舌さはない。シンプルなロングトーンを多様した何とも情緒的なアルトサックスが延々と鳴り続ける。

 そんなジャッキー・マクリーンに脇役ユニゾンをとらせたテーマだけがドナルド・バードの出番である。ドナルド・バードの力強くもとっつきやすいトランペットがなかなかのもので,確かにドナルド・バードトランペットソロを聴いて「これぞ,ファンキー・ジャズの王道」と誤って思い込んでしまうマニアの気持ちも理解できる。

FUEGO-2 『フュエゴ』の全6曲のメロディー・ラインは耳に残るものばかり。キャッチーで覚えやすいテーマばかり。自然と口ずさめるのはホレス・シルヴァーベニー・ゴルソンの作曲したハーモニー・ラインに乗っている。

 ただし,ドナルド・バードの場合,この全てが天性のノリではなく計算されたノリで出来上がっている。一般的なファンキー・ジャズとの「アザトサのチラミセ」が,ハード・バップでもなくファンキーでもない“孤高の”ファンキー・ジャズたらしめる魅力なのである。

 もしかしたら『フュエゴ』というアルバムは,頭脳明晰なドナルド・バードが,当時のジャズ界の革新であったモードの楽譜を見つめながら,ああではない,こうではない,と演奏したのでは?

 管理人的には『フュエゴ』=ドナルド・バードファンキー・ジャズとして語られる風潮には反対ではありますが,まぁ,正直『フュエゴ』が,ハード・バップであろうとファンキー・ジャズであろうと,別にどっちでもいいんです。

 大切なのは『フュエゴ』を読者の皆さんにも聴くていただきたい,ということ。絶対にジャズが好きになりますよっ。

  01. FUEGO
  02. BUP A LOUP
  03. FUNKY MAMA
  04. LOW LIFE
  05. LAMENT
  06. AMEN

(ブルーノート/BLUE NOTE 1960年発売/TOCJ-7017)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,原田和典)

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ドナルド・バード / バード・イン・ハンド5

BYRD IN HAND-1 “最高傑作”『オフ・トゥ・ザ・レイシス』を軸として,一層細かな音楽表現を意識したハード・バップの名盤。それが『BYRD IN HAND』(以下『バード・イン・ハンド』)である。
 『バード・イン・ハンド』の“落ち着き払った”アレンジは,どことなく同じ3管フロント,アート・ファーマーベニー・ゴルソンカーティス・フラーによる「ジャズテット」をイメージしてしまう。

 ドナルド・バードは『バード・イン・ハンド』で,他とは一線を画す“知的なハード・バップ”を訴求していた。美メロと物悲しい音色の絶妙の組み合わせ1。すなわち3管フロントの再編となるテナーサックスの導入である。

 ドナルド・バードの音楽を聴くと,すぐに感じる丁寧に計算されたアンサンブルの妙。管楽器の中で一番高音域のトランペットと木管楽器の中で一番低音域のバリトンサックス。その中間のサックスアルトなのか? それともテナーなのか?

 基本的にはドナルド・バードが『バード・イン・ハンド』で下した選択は正しいと思う。3管フロントが最も輝くのはトランペットバリトンアルトではなくテナーの方だろう。
 チャーリー・ラウズテナーサックスが素晴らしい。マイナー調の曲想とチャーリー・ラウズの老練でダークな持ち味がズバリ。ペッパー・アダムスとの迫力あるユニゾンがきれいにまとめ上げられている。

 しかし“まろやかな渋みのトランペッタードナルド・バードの場合は「アルト OR テナー」の選択ではなく「ジャッキー・マクリーン OR チャーリー・ラウズ」の選択である。
 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』の3管と『バード・イン・ハンド』の3管を聴き比べると,ドナルド・バードと相性がいいのはアルトサックスジャッキー・マクリーンの方であろう。

BYRD IN HAND-2 気合い一発系ながらも朴訥なジャッキー・マクリーンアルトサックスドナルド・バードの憂いを湛えたまろやかなトランペットの音色が寄り添うことで,全体の厚みを保ちながら物悲しさを滲ませるという相乗効果を発揮することにつながっている。
 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』がジャッキー・マクリーンだし『フュエゴ』もジャッキー・マクリーンだし…。

 おおっと誤解のありませんように! 『バード・イン・ハンド』を『オフ・トゥ・ザ・レイシス』より劣るトーンで,チャーリー・ラウズジャッキー・マクリーンより劣るトーンで書いているが,10回中1回は『オフ・トゥ・ザ・レイシス』よりも『バード・イン・ハンド』が素晴らしい,と思う夜が来る!

 キレイ目ハード・バップの代表的な名盤として『バード・イン・ハンド』をお忘れなく…。

  01. WITCHCRAFT
  02. HERE AM I
  03. DEVIL WHIP
  04. BRONZE DANCE
  05. CLARION CALLS
  06. THE INJUNS

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-9099)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,小川隆夫)

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櫻井 哲夫 / 21世紀の扉4

A GATE OF THE 21ST CENTURY-1 カシオペアの脱退〜シャンバラの結成〜ジンサクの結成と,18年間行動を共にしてきた神保彰とのユニット活動が終了。

 晴れてソロ活動に専念することになった櫻井哲夫の13年振りとなるソロ・アルバムが『A GATE OF THE 21ST CENTURY』(以下『21世紀の扉』)である。
( 余談ですが櫻井さん。ジンサク始動前後から名前の漢字表記が桜井哲夫から櫻井哲夫になっております )

 ズバリ『21世紀の扉』の真意は『櫻井哲夫の扉』であって,櫻井哲夫のこれまで閉じられていたゲートをオープンの意!

 そのキーマンとして指名されたのが“爆裂ドラマーデニス・チェンバースであった。「世界の神保彰」と夫婦以上に“連れ添ってきた”櫻井哲夫にしてみれば,神保彰クラスの超大物=デニス・チェンバースとの共演は必然の選択であろう。

 ではデニス・チェンバースの「爆撃型」ドラム櫻井哲夫のスタイルに合うかと言われると,櫻井哲夫デニス・チェンバースの使い方を間違えたと思う。
 “猛獣”デニス・チェンバースを上手に使いこなすには,ジョン・スコフィールドゲイリー・トマスのような「ワイルドさ」がないとねっ。

 『21世紀の扉』では“紳士”を通した櫻井哲夫が“猛獣使い”へと成長するのは『VITAL WORLD』でのことである。『GENTLE HEARTS』もグレッグ・ハウに引っ張られていい感じではあるが,タイトルがまだ“紳士”していますから〜。

A GATE OF THE 21ST CENTURY-2 そう。『21世紀の扉』のハイライトはデニス・チェンバースではなく,やっぱり櫻井哲夫と来れば「歌もの」の【NEVER ENDING WORLD】である。
 何か,いつかどこかTVの主題歌として聞いたことがある感じ? 【NEVER ENDING WORLD】が流れ出すと,管理人,曲の最初から最後まで口ずさんでしまいます! 大好き!

 管理人の結論。『21世紀の扉批評

 ズバリ,デニス・チェンバースとハードなプログレ系リズム隊を組んだ『21世紀の扉』では『櫻井哲夫の扉』は開かなかった。
 ただし『櫻井哲夫の扉』には幾種類もの『』が存在することを確認できたのは収穫である。櫻井哲夫ベースだけ,フュージョンだけではない“総合的なアーティスト”である。

 個人的には『21世紀の扉』の出来のバラツキを聴く限り,櫻井哲夫ソロ活動は,温厚な「ゆるキャラ」路線がお似合いのように思う…。

  01. SHAKE YOUR HIP
  02. VITAL PEOPLE
  03. YOU CAN DO IT!
  04. ANGEL SMILE
  05. NEVER ENDING WORLD
  06. THE SUNSHINE
  07. SILENCE IN THE MOONLIGHT
  08. NOAH'S ARK
  09. A ESTRELA NAMORADA

(ガーデニアン/GARDENIAN 1999年発売/CRCI-20384)

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ドナルド・バード / オフ・トゥ・ザ・レイシス5

OFF TO THE RACES-1 『OFF TO THE RACES』(以下『オフ・トゥ・ザ・レイシス』)こそが,ドナルド・バードの“最高傑作”である。

 ブルーノートには1500番台でのサイドメンも含めてドナルド・バード名演が数多く残されている。セールス的には後年のファンキー路線の方が成功を収めている。
 でも,それでも,管理人にとってドナルド・バードと来れば,問答無用で『オフ・トゥ・ザ・レイシス』なのだ。とにかくカッコ良い。このカッコ良さは「花形」トランペッターとして活動することを許された,わずか数人だけが醸し出すことのできる“味”なのである。

 そんなジャズ・トランペット特有のカッコ良さがギッシリと詰め込まれているアルバムはブルーノートのコレクションを見渡しても,いいや,ハード・バップの歴史的名演を見回しても『オフ・トゥ・ザ・レイシス』以外には見つからない。

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は,アルトサックスジャッキー・マクリーンバリトンサックスペッパー・アダムスと組んだ3管フロントによる直球ハード・バップ。
 ことに3管,しかもバリトンサックスと来れば“コテコテの分厚いアンサンブル”をイメージするのだが『オフ・トゥ・ザ・レイシス』にはそれがない。3管なのに暑苦しさのかけらもない。
 ホッとできると言うか,小難しいところなんて皆無だし,軽やかにサクサクとアンサンブルが突き進んでいく。

 ズバリ,この独特なアンサンブルこそが“ジャズ・トランペッタードナルド・バード“特有の味”!
 例えば,同じクリフォード・ブラウン直系のリー・モーガンフレディ・ハバードであれば,熱くなると天井知らずのエモーションというか,トランペッターの本能ともいうべき強烈なエゴイズムを感じずにはいられないのだが,ドナルド・バードの場合は,どんなに熱く盛り上がろうとも,常に全体をクールに見つめている。
 まるでマイルス・デイビスのように…。あたかもウェイン・ショーターのように…。

 そう。ハイノートをビシビシとヒットさせるではなく,中音域を中心に組み立てられたメロディアスなフレーズが「金管」トランペットから連発する。
 感情表現だけではない“カラフルな展開と仕掛け”にこそ,ドナルド・バードの唯一無二の個性を強く感じてしまう。

 1曲目の【LOVER COME BACK TO ME】と2曲目の【WHEN YOUR LOVER HAS GONE】も相当に良い。
 しかし『オフ・トゥ・ザ・レイシス』のハイライトは3曲目の【SUDWEST FUNK】である。特に1分8秒からのハイ上がり! そこからさらにハイ上がる6分22秒からのハーモニーこそが,モダン・ジャズ史上「指折り」の“燃え&萌え”! このアンサンブル,カッコヨスギ!

 管理人は『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は3曲目から聴き始める。憂鬱な気分も1曲聴き終える頃には吹き飛んでしまっている。
 CD時代には,3曲目から聴き始めてそのまま6曲目までで聴き終えるのが常だった。しかしリッピングを行なうようになってからは1曲目と2曲目も聴くようになった。
 それまでほとんど聴いてこなかったから急速調の【LOVER COME BACK TO ME】と美しい音色のバラードWHEN YOUR LOVER HAS GONE】がめちゃめちゃ楽しい。
 この個人的な不思議体験が『オフ・トゥ・ザ・レイシス』を「1粒で2度おいしい」“特別な1枚”へと押し上げてくれる。

OFF TO THE RACES-2 管理人の結論。『オフ・トゥ・ザ・レイシス批評

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は絶対名盤である。【SUDWEST FUNK】は絶対名曲である。
 ドナルド・バードを「しゃぶり尽くしたいのなら」そしてジャズ・トランペットに「酔いしれたいのなら」『オフ・トゥ・ザ・レイシス』で決まりである。

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』の真骨頂を味わいたいのなら【SUDWEST FUNK】からアルバム全体を聴き始めることをお奨めする。
 「ジャズ批評家」セラビーの名とプライドをかけて,絶対に満足することをここに保証する。

  01. LOVER COME BACK TO ME
  02. WHEN YOUR LOVER HAS GONE
  03. SUDWEST FUNK
  04. PAUL'S PAL
  05. OFF TO THE RACES
  06. DOWN TEMPO

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-6465)
(ライナーノーツ/ジョー・ゴールドバーグ,高井信成)

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桜井 哲夫 / DEWDROPS5

DEWDROPS-1 『DEWDROPS』については,元カシオペア桜井哲夫ファーストソロと紹介するより,元シャンバラ桜井哲夫ファーストソロと紹介する方がふさわしいと思っている。

 『DEWDROPS』はテクニカルなインスト・メインではない。『DEWDROPS』のメインは歌ものである。ヴォーカルである。
 そう。桜井哲夫シャンバラで目指したのは『DEWDROPS』の“延長拡大バンド”だったと思う。『DEWDROPS』で完成させた“シティ系POPバンド”だったと思う。

 『DEWDROPS』の基本はカシオペアの16ビートではなく非カシオペアの8ビート。しかもバリバリのチョッパー・チューンはラストの1曲のみ。中にはベースを弾いていない曲もある。男女掛け合いのヴォーカル・ナンバーや和太鼓と琴のヘンテコな曲がクセになる?

 アルバムの方向性などはない。カシオペア・ファンが買いそうな内容ではない。いいんです。それでいいんです。
 なぜならば『DEWDROPS』は,桜井哲夫が仕事としてではなく,全くの“個人的な趣味”で作ったアルバムなのだから…。

 『DEWDROPS』のコンセプトは,自作のオリジナル曲を自分が弾いてもらいたい人に自由に弾いてもらう。
 例えばサックス伊東たけしジェイク・H・コンセプション高野正幹ギターシンセサイザー鳥山雄司ギター和田アキラ松下誠吉川忠英キーボード森村献井上鑑ピアノ橋本一子ドラム青山純宮崎全弘パーカッション仙波清彦浜口茂外也トランペット数原晋林研一郎トロンボーン平内保夫,そしてヴォーカリスト楠木勇有行堀口和男山川恵津子大野えりCINDYMARVINKUMI! 正に桜井哲夫の「100%趣味丸出し」なミュージシャン!

 1986年にカシオペアはバンドの充電期間の一環として,メンバー全員のソロ・アルバムをリリースすることになった。
 野呂一生の『SWEET SPHERE』。向谷実の『WELCOME TO THE MINORU’S LAND』。神保彰の『COTTON’』。桜井哲夫の『DEWDROPS』がそれである。

 この4枚「揃い踏み」を聴き比べて,1人桜井哲夫の『DEWDROPS』だけが浮いて聴こえたことを覚えている。
 桜井哲夫だけが,自分の得意技(超絶ベーシスト)を封印し,自分のカテゴラリー(フュージョンあるいはインストルメンタル)からも逸脱し“シティ系”を気取っていたが,当時は分からなかったその理由を今となっては理解できる。桜井哲夫の30年間をずっと追いかけてきたから理解できる。

 とにかく今となっては『DEWDROPS』こそが,桜井哲夫のルーツ,桜井哲夫の全てであった,と断言できる!

DEWDROPS-2 キーワードは作詞にある。当時は歌詞なんて聴いておらずヴォーカルも楽器の一部的な捉え方をしていたのだが,今では俄然,歌詞に耳が行くようになった。
 “スーパー・ベーシスト桜井哲夫が,こんなにも素直に表現していたなんて…。恥ずかしげもなく書いていたなんて…。

 桜井哲夫は「無垢な男」だと思う。桜井哲夫は「真面目な男」だと思う。桜井哲夫の真価は「歌もの」に如実に表われるのである。
 その実,ベース一本で生きていると思わせといて,それは仕事だからであって,素の桜井哲夫という男は一本の万年筆をベースに持ち替えて生きている。

 これほどまでに「歌もの」が好きななのだから,いつの日かまたシャンバラをやってほしいと思う。『DEWDROPS』バンドをやってほしいと思う。心からそう思う。

  01. REFRESH!
  02. IN THE DISTANCE
  03. NIGHT DEW
  04. KIMONO
  05. TENSION
  06. EARTH CALLING SPACE
  07. VENUS
  08. JESTER'S DANCE
  09. PROPHET VOYAGER

(ビクター/JVC 1986年発売/VDR-1181)

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ビル・チャーラップ・トリオ / ディスタント・スター5

'DISTANT STAR-1 ビル・チャーラップビル・シャーラップ。両名とも英語では「BILL CHARLAP」と書く。そう。同一人物である。
 こんなパターンはたくさんあって,思いつくままに書くと,ジャック・デジョネットジャック・ディジョネットとか,デヴィッド・サンボーンデイヴィッド・サンボーンとか,マイルス・デイビスマイルス・デイヴィスとか,その多くはレーベルとかレコード会社が変わると日本語表記が変わったりする。

 まっ,普段は“馴染みの”ビル・チャーラップ表記がビル・シャーラップ表記になっていたとしてもスルーするのだが,今回のビル・シャーラップ名義の『DISTANT STAR』(以下『ディスタント・スター』)はスルーできなかった。
 ビル・チャーラップと同一人物のビル・シャーラップが明らかに別人として響いてしまう。ここでも(よせばいいのに)書いておくとピアノビル・エヴァンスサックスビル・エヴァンスくらいに?別人として響いてしまったのだ。

 そう。ビル・シャーラップ名義の『ディスタント・スター』には,オーソドックスで“趣味の良さ”を直感させるビル・チャーラップの個性的なピアノがいない。
 ビル・シャーラップピアノベースショーン・スミスドラムビル・スチュワートを挑発している。ゆえにリスナーをも挑発している。

 あの「優等生」なビル・チャーラップが,もう1人の自分=ビル・シャーラップと対峙している。「ハードボイルド」なジャズ・ピアノの創造にチャレンジしている。
 ニューヨークトリオビル・チャーラップトリオを聴いてきた耳にはビックリである! ← 管理人のビル・チャーラップの順番はニューヨークトリオビル・チャーラップトリオビル・シャーラップトリオのROUND TRIP。

 こんなにもエキサイトしたビル・チャーラップを聴いたのは初めてである。悠々と拍を伸縮してグルーヴするショーン・スミスベース,チキリチキリとおかずを加えるビル・スチュワートのシャープなドラミングとのインタープレイが最高に素晴らしい。
 ビル・チャーラップのめちゃめちゃタイトなリズム感。そのタイミングでその音を置くのか,としか表現しようのない“ジャスト”タイプの個性炸裂の大名演

DISTANT STAR-2  丁寧なソフト・タッチで美メロを紡ぎあげさせたら当代随一のビル・チャーラップ。本当にこの人の弾くピアノは嫌味がない。
 だ・か・ら・ニューヨークトリオ名演の秘訣は,そしてビル・シャーラップトリオ名演の秘訣は,ひとえにビル・スチュワートの“やり過ぎる”ドラミングとの相性の良さにある。この2人にしか通じ合えない「調和の妙」がお見事である。

 「ソフト」なビル・チャーラップと「ハード」なビル・シャーラップの違いは,ビル・スチュワートドラムを「受けるか,攻めるか」の違いである。
 ジャズメンの個性は1つとは限らないのだから,たまには「硬派」なビル・シャーラップとしての“顔”も見せてほしいと思う。

  01. ALONG THE WAY
  02. WHILE WE'RE YOUNG
  03. LAST NIGHT WHEN WE WERE YOUNG
  04. HERE I'LL STAY
  05. DISTANT STAR
  06. BON AMI
  07. '39 WORLDS FAIR
  08. STARLIGHT
  09. THE HEATHER ON THE HILL

(クリスクロス/CRISS CROSS JAZZ 1997年発売/CRISS 1131 CD)
(☆直輸入盤仕様)
(ライナーノーツ/ビル・チャーラップ)

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マリーン meets 本田 雅人 B.B.Station / ジャズ&アウト4

JAZZ'N OUT-1 管理人的には100%=本田雅人目当てで購入した『JAZZ’N OUT』(以下『ジャズ&アウト』)だったのだが,やっぱり主役はマリーンであった。よって意図せずにサポートに回った本田雅人を聴いたことになる。

 …で,結論。本田雅人本田雅人だよなぁ。本田雅人はサイドで吹いても“存在感有り有り”なのである。

 「本田雅人B.B.STATION」はビッグ・バンドなのだから,本田雅人ソロは少ない。
 ではなぜ管理人が『ジャズ&アウト』に本田雅人を強く意識するかと言えば,このビッグ・バンド・アンサンブルこそが「本田節」の拡大版で響くから!
 そう。本田雅人のいつものフレージングが「本田雅人B.B.STATION」で完璧に表現されている。

( ただし「本田雅人B.B.STATION」名義にして,実際に「B.B.STATION」での演奏は正味5トラックのみ。残る5トラックは所謂,本田バンドでの演奏ですので,ビッグ・バンド目当てのジャズ・ファンはご注意を! )

 いつものように本田雅人一流の“凝りに凝った”アンサンブルで攻めてくると思いきや「B.B.STATION」での本田雅人は,意外にもシンプル仕上げなアンサンブル!
 「B.B.STATION」の音作りは,中低音をパワフルに鳴らす,古き良きスイングビッグ・バンドのスタイルを基本に,洗練でヒネリを効かせた都会的なアレンジなのは言わずもがな!

 なぜならば「本田雅人B.B.STATION」のソロイスト本田雅人唯一人!
 本田雅人がプレイするアルトサックスソプラノサックスフルートクラリネットの木管楽器と,トランペットフリューゲルホーントロンボーンの金管楽器が・映・え・る・か・ら・中低音をパワフルに鳴らす仕掛け。

 でもでもそんな“存在感有り有り”の本田雅人のスーパー・ソロをして,マリーンボーカルに全てを持っていかれている!
 まっ,アルバム・タイトルが『ジャズ&アウト』なのだから,本職のジャズ・ナンバーから兼業?のアウト(つまりポップスとかロック)までを網羅する人気ヒットパレードを歌う“歌姫”マリーンの独壇場!

JAZZ'N OUT-2 個人的には映画「キャバレー」の主題歌の再演となった【LEFT ALONE】と,やっぱりマリーンと来れば!の【IT’S MAGIC】を集中して聴いていたのだが,最終的に『ジャズ&アウト』のお気に入りは【SING SING SING】と【YOU’LL NEVER GET TO HEAVEN】。
 30代後半のある時期,この2曲ばかりを朝から晩までリピートして過ごしていた“メモリー”がある。

 思うに『ジャズ&アウト』の構図とは“歌姫”マリーンの生バンドとしての「本田雅人B.B.STATION」! 何となく,子供の頃見ていた「昭和歌謡の歌番組」を見て(聴いて)いるような気分がする。
 その歌番組のカット割りは7割がマリーン,2割が本田雅人でもう1割が「B.B.STATION」。

 とにかく威風堂々と歌い上げる“ジャズ・ヴォーカリストマリーンを前面に出しているようでいて,実は裏で回している「本田節」が“隠し味”として効いている。

  01. Sing Sing Sing
  02. It's Magic
  03. You'll Never Get To Heaven
  04. Can't Take My Eyes Off Of You
  05. Cafe Style
  06. Tennessee Waltz
  07. Dazzle The Night
  08. Left Alone
  09. I Was Born To Love You
  10. In The Quiet Blue

(BMG/BMG 2007年発売/BVCJ-34032)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,佐藤大介)

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ドン・フリードマン / サークル・ワルツ5

CIRCLE WALTZ-1 「エヴァンス派」の代表格とされているドン・フリードマン本人がビル・エヴァンスからの影響を公式に否定しているらしい。ドン・フリードマンのファンなら,ドン・フリードマンの独自性を支持する気持ちも分からなくはないのだが『CIRCLE WALTZ』(以下『サークル・ワルツ』)を聴いてもなおドン・フリードマン=「エヴァンス派」を否定する気持ちは全く理解できない。

 『サークル・ワルツ』のドン・フリードマンに,ビル・エヴァンスピアノが“乗り移っている”。
 出だしの数秒間で「エヴァンス派」だと分かってしまう,知的で繊細でリリシズムの音選び。胸を締めつけられるような美しいテーマ。一転して静かに自分の音を探りにいく展開。確かめるようにゆっくりと弾かれる和音の連鎖。ベースドラムとの対等なインタープレイ…。

 『サークル・ワルツ』のピアノを聴いて,ビル・エヴァンスピアノを想起しないジャズ・ファンがいるとすれば,それこそ“モグリ”であろう。
 仮にブラインド・テストを行なったとしたら,十中八九,ビル・エヴァンスと答えてしまう人が続出するだろう。

 では,なぜにドン・フリードマンは公式に「エヴァンス派」を否定するのだろうか? それはドン・フリードマンビル・エヴァンスに“先んじた点”があるという自負から来ているのだろう。
 『サークル・ワルツ』のベーシストチャック・イスラエル。そう。スコット・ラファロの“後釜”であるチャック・イスラエル“その人”である。

 ここでスコット・ラファロについても補足しておくが,スコット・ラファロも元々はドン・フリードマントリオのレギューラー・ベーシストだったという,2代続けてかっさらいの因縁有。
 そう。スコット・ラファロチャック・イスラエルも,ビル・エヴァンスと共演したことで名声が高まっただけで,元々はドン・フリードマンに見出されたベーシストだった。

 つまりドン・フリードマンが“先んじた”ジャズ・ピアノを“後出し”で完成させたのがビル・エヴァンス,という考え方もできる。
 そう。ビル・エヴァンスのような演奏スタイルは「エヴァンス派」と称されるのではなく「フリードマン派」と称された可能性があったのだ。

 だから似ている。似ていて当然。似ていてもしょうがない。ビル・エヴァンスドン・フリードマンも同じ時代に活動していたわけだから,互いに意識したとしても意識しないとしても,現実には「互いが互いに影響を与え,影響を受けた」ジャズ・ピアニスト…。2人とも分類すると同じカテゴリーに属するジャズ・ピアニスト…。

 さて『サークル・ワルツ』の評価であるが,仮にドン・フリードマンが『サークル・ワルツ』とは別にもう1枚の名盤を録音していれば,世間の目はビル・エヴァンスではなくドン・フリードマンに目を向けたと思うほどの大名盤である。個人的には“衝撃の1枚”にカウントしたい。

CIRCLE WALTZ-2  『サークル・ワルツ』はとにかく「儚い」。『サークル・ワルツ』の「儚さ」加減は,ビル・エヴァンスの「リバーサイド4部作」をも凌駕している。

 ビル・エヴァンスドン・フリードマンは同じレーベルメイトなんだし,リバーサイド側も『サークル・ワルツ』を『ポートレイト・イン・ジャズ』『エクスプロレイションズ』『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』『ワルツ・フォー・デビイ』と抱き合わせて「リバーサイド5部作」として売り出したら良かったのに…。永遠のライバルではなくWIN&WINの関係になっていたはずなのに…。

 唯一『サークル・ワルツ』の「リバーサイド5部作」を阻む理由はドラマーの違いであろう。後に弁護士に転身したピート・ラロカはさすがに構築的なドラミング
 ズバリ,ドラマーの違いはベーシストの違い以上に大きい。パーカッシブポール・モチアンがいなければ,ビル・エヴァンストリオの「耽美主義」は成立しないのだ。

 ビル・エヴァンスの凶暴性は「帝王亡き後の新帝王」ポール・モチアンでなければコントロールできやしない!

  01. Circle Waltz
  02. Sea's Breeze
  03. I Hear a Rhapsody
  04. In Your Own Sweet Way
  05. Loves Parting
  06. So in Love
  07. Modes Pivoting

(リバーサイド/RIVERSIDE 1962年発売/VICJ-60025)
(ライナーノーツ/ジョー・ゴールドバーグ,野口久光)

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カシオペア / LIVE HISTORY PART-14

LIVE HISTORY PART-1-1 管理人が初めて見たライヴコンサートは上京して間もない18歳のこと。1986年の何月のことだったのからもう忘れてしまったが,中学・高校時代の最大のアイドル=カシオペアであった。
 夢見た東京ライフの楽しみ事は両手にいっぱいあったのだが,多分,最大の楽しみとはカシオペアの生ライヴに行くことだったように思う。ちっちゃ〜。

 入社した某鉄道会社の同期はほぼ年上。本当にみんなが優しくしてくれた。東京採用のお兄さんお姉さんたちが遊び方も教えてくれた。コンサートのチケットは「ぴあ」で取ることも教えてもらった。
 「ぴあ」の存在を知ってからは底なしになってしまって,本当に音楽以外でも毎週土日は東京へ繰り出す生活パターン。仕事は残業月に70時間ぐらいしていたのに,土曜日の午前は昼間で寝ていて起きたらオールナイトで東京見物。バブルだったし。若かったし。週末遊ぶために生活していた。

 話を戻すと,そんな感じで「ぴあ」でチケットを取って初めて出掛けたライヴコンサートカシオペアの『SUN SUN』のフォロー・ツアー。場所は地元の習志野文化ホール(成人式もここ)だった。
 開演時間とか開場時間とか,もうとにかく初めてのコンサート体験だったので,大分早めに到着したのだろう。まだリハーサル終わりぐらいの時間だったのだろう。若さから来る「無鉄砲」は,ここでは全てを書けないが,生の向谷実に「どこかでお会いしましたかね〜」みたいなことを言われた。それ以来,MC中の司会屋実は好きだけど,素の向谷実をちょっぴり嫌いになったりもした。その頃の管理人は“野呂さん命”でしたら〜。

 …で,ここからが本論であるが,初めて見たカシオペアコンサートで,終演後に電話した女友達がいたし,興奮を手紙に書いて送った別の女友人もいたことを覚えているのだが,どこかで冷静に生のカシオペアを見つめる自分がいたことも覚えている。

 なぜならばカシオペアの生ライヴはすでに何度も体験済だったから! 楽器を弾きながら踊りを決めるカシオペアの映像をすでにLDTVで体験していたから,そこまでの衝撃は受けなかったように思う。

 そう。そんな諸悪の元凶?こそがLDリリースされていた『CASIOPEA LIVE』の存在にある。土日は「ぴあ」を片手に東京見物に勤しんでいたのだが,管理人のメインは京成沿線。たまに総武線の津田沼駅。東京と言っても新宿・渋谷より西には足を延ばさないタイプで,しょっちゅう行くのは上野とか秋葉原で,秋葉原の電気街の店頭でよく流れていたのが『CASIOPEA LIVE』のLDだった。

 『CASIOPEA LIVE』が流れていると店頭で足を止めて,食い入るようにみつめていたように思う。だから,あれほど憧れていたカシオペアの生ライヴにも興奮と興ざめ感が同居していたのだろう。

 そんなTVモニター越しに見まくった『CASIOPEA LIVE』と,人生初ライヴの会場違いの全曲収録『CASIOPEA PERFECT LIVE』のLD2枚が「2 IN 1」でDVD化されたのが『CASIOPEA LIVE HISTORY PART−1』! やったね!

LIVE HISTORY PART-1-2 ただし『CASIOPEA LIVE HISTORY PART−1』は購入後1回しか見ていない。
 1回見れば十分。全部次のシーンまで覚えていた。これが5年前なら星5つだったのでしょうねっ。

 正直,30年前の記録映像の感想は,なんて画質が悪いのだろう。そして動く向谷実に違和感が出てきた(ここ3年間見ている「CASIOPEA 3rd」では,向谷さん不在&末梢後の大高さんの独壇場!)。

 管理人はどうせ“動く”カシオペアを見るのなら『CASIOPEA AGAIN』を見ると思います。

 おっと『CASIOPEA LIVE HISTORY PART−1』には「DISC_1」にも「DISC_2」にも,特典映像「野呂一生インタビュー」がありました〜。野呂さんがカシオペアの歴史を熱く語っています〜。
 おおっと『CASIOPEA LIVE HISTORY PART−2』もそろそろ買わなくちゃ〜。

  DISC_1
  01. DOWN UPBEAT
  02. THE CONTINENTAL WAY
  03. FABBY DABBY
  04. TWILIGHT SOLITUDE
  05. MARINE BLUE
  06. LOOKING UP
  07. Drum SOLO
  08. Bass SOLO
  09. EYES OF THE MIND
  10. ASAYAKE
  11. GALACTIC FUNK

  12. 特典映像:野呂一生インタビュー

  DISC_2
  01. OPENING LOGO
  02. CONJUNCTION
  03. LOOKING UP
  04. STREET PERFORMER
  05. ZOOM
  06. DEPARTURE
  07. KEEPERS
  08. SAMBA MANIA
  09. GALACTIC FUNK
  10. SOMETHING WARKING (CHANGE IT)
  11. CHOOSE ME
  12. MI SENORA
  13. SUN
  14. MOTHER EARTH
  15. Drum SOLO
  16. Bass SOLO
  17. MISTY LADY
  18. HALLE
  19. SWEAR
  20. ASAYAKE
  21. DAZZILING
  22. COAST TO COAST

  23. 特典映像:野呂一生インタビュー

    CASIOPEA
    ISSEI NORO : Guitar
    MINORU MUKAIYA : Keyboard
    TETSUO SAKURAI : Bass
    AKIRA JIMBO : Drums

    YUKOH KUSUNOKI : Vocal

(ジェネオン/GENEON 2004年発売/GNBL-1004)
(DVD2枚組)

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ドミニク・ファリナッチ / ラヴァーズ,テイルズ,アンド・ダンス5

LOVERS, TALES & DANCES-1 『LOVERS,TALES & DANCES』(以下『ラヴァーズ,テイルズ,アンド・ダンス』)は,ドミニク・ ファリナッチ初のバラード集である。

 ドミニク・ ファリナッチのような「超正統派」なトランペッターの演奏は,全てが予定調和であって,聴いていて楽しいものではないのだが,その一方で端正な演奏から来る「豊潤な音密度」が楽しくてしょうがない。殊にバラード演奏が楽しくてしょうがない。

 基本,ピアノケニー・バロンベースジェームス・ジーナスマーク・ジョンソンドラムルイス・ナッシュの“いぶし銀”を従えたドミニク・ ファリナッチの,まろやかで,ふくよかで,柔らかいトランペットフリューゲルホーンの音色が,絶妙な甘さのバラード
 ズバリ『ラヴァーズ,テイルズ,アンド・ダンス』の真髄とは,ドミニク・ ファリナッチが歌い上げる「抒情歌」なのである。

 管理人には,こんなロマンティック・バラード集を作れるトランペッターと来れば,現在のところドミニク・ ファリナッチ以外には思い浮かばない。それぐらいイメージ通りのジャズ。トランペットに“ドハマリ”している。
 ドミニク・ ファリナッチの,静かに,でも熱くほとばしるパッションが清々しくて気持ち良い。

 時に“スムーズっぽい”ドミニク・ ファリナッチのワン・ホーンを“ツボを押さえた”ケニー・バロンピアノ・トリオが完璧にサイド役に徹し,テナーサックスジョー・ロバーノヴァイヴジョー・ロックが彩りをつけていく。いい演奏である。

 『ラヴァーズ,テイルズ,アンド・ダンス』を繰り返し聴いているうちに,ふとドミニク・ ファリナッチから意識が離れて,あるトランペッターを聴いているような気分に何度も襲われた。
 そのトランペッターとは,ドミニク・ ファリナッチを見い出したウイントン・マルサリスではなく,ドミニク・ ファリナッチのアイドルであるフレディ・ハバードでもなく,恐らくはドミニク・ ファリナッチとは「正反対の男」チェット・ベイカーであった。

LOVERS, TALES & DANCES-2 同じイケメンにして,ドミニク・ ファリナッチは「インテリな貴公子」キャラ VS チェット・ベイカーは「肉欲を尽くした破滅キャラ」。
 管理人はジャズメンの私生活は「必らず音楽性に表われる派」なのだが,一周回って,どうやっても結び付きそうにない2人が重なって聴こえる瞬間がたまらなく好き!

 最後に日本盤ボーナス・トラック【崖の上のポニョ】について書く。バラード・アルバムとしての統一感からすると不要なのだが,いつしか【ドント・エクスプレイン】と【ロンリー・ウーマン】目当てに聴いていたはずの『ラヴァーズ,テイルズ,アンド・ダンス』を手に取る大目的が【崖の上のポニョ】の存在へと良い意味で変わってしまった。

 管理人の愛妻は女優やアイドルだけはなくポニョにも似ていると言われたから! ですから! ポニョドミニク・ ファリナッチも感謝!?

  01. Don't Explain
  02. Libertango
  03. Estate
  04. Vision
  05. Ne Me Quitte Pas
  06. E Lucevan Le Stelle
  07. Erghen Diago
  08. Silent Cry
  09. Love Dance
  10. Bibo No Aozora
  11. Lonely Woman
  12. The Theme from The Pawnbroker
  13. Gake no Ue no Ponyo

(ビクター/KOCH 2009年発売/VICJ-61586)
(ライナーノーツ/都並清史)

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大坂 昌彦 / ウォーキン・ダウン・レキシントン5

WALKIN' DOWN LEXINGTON-1 管理人的には「マサちゃんズドラマー」である大坂昌彦であるが,世間的には「スイングジャーナル誌読者投票ドラム部門」16年連続第1位!のドラマー
 つまり,大坂昌彦こそが超大物「日本一のジャズドラマー」なのである。

 大坂昌彦の何がそんなに凄いのか? 管理人なら「音楽的なEM>ドラマーだから」と答えよう。
 大坂昌彦の“最高傑作”『WALKIN’ DOWN LEXINGTON』(以下『ウォーキン・ダウン・レキシントン』)は,そんな“音楽的なドラマー”としての資質がよく表現された名盤である。

 『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の基本は,ドラム大坂昌彦ピアノマルギュー・ミラーベースクリスチャン・マクドナルドとのピアノ・トリオ
 この超豪華ピアノ・トリオを“回している”のが大坂昌彦の変化に富んだドラミングである。

 ドラマーのリーダー・アルバムゆえ,どこまでドラムが前面に出るかを考えながらの演奏になるのだろうが,バラエティに富んだ楽曲に合わせてコントロールされた「音楽的」なアクセントが多彩で,どんな曲調でも大坂昌彦ドラムが「音楽のど真ん中」にドンと出る。
 それ位,大立ち回りのドラムなのに『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の印象とは,大坂昌彦ドラムではなく,大坂昌彦オリジナル曲の方である。

 『ウォーキン・ダウン・レキシントン』にゲスト参加したのは,トランペットフリューゲルホーンダスコ・ゴイコビッチアルトサックスフィル・ウッズソプラノサックスアルトサックスマーク・グロスボーカルキム・ナザリアンという,超ビッグなジャズメンたち。
 マルギュー・ミラークリスチャン・マクドナルドも含めて,ジャズメン足るもの,こんなにも凄腕のメンバーを与えられたら,パーっと打ち上げ花火的な演奏をしたくなるものだろうが大坂昌彦はそうはしない。

 『ウォーキン・ダウン・レキシントン』のポリシーというか縛りとは,演奏ではなくメロディー・ファースト。至ってフォーマルでオーソドックスな演奏に徹している。複雑なコードで曲が進むのだが,全編破綻なく自然な流れがカッコよい。ゆえにこの凄腕メンバーが揃ったということなのだろう。
 ダスコ・ゴイコビッチフィル・ウッズを主にボーカル・ナンバーの間奏として贅沢に使う意味も理解できるというものだ。

WALKIN' DOWN LEXINGTON-2 管理人の結論。『ウォーキン・ダウン・レキシントン批評

 『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の聴き所は,大坂昌彦の確かなドラミングとメロディーメイカーの才!

 「日本のキース・ジャレット・トリオ」=「マサちゃんズドラマー」にして「スイングジャーナル誌読者投票ドラム部門」16年連続第1位!という“音楽的なドラマー大坂昌彦のマルチな才能と持ち味が遺憾なく記録されたアルバムだと思う。

  01. CHATTE TROIS COULEURS
  02. WALKIN' DOWN LEXINGTON
  03. THE RIVER FLOWS INTO THE NIGHT
  04. CLOSE TO YOU
  05. AN ENGLISHMAN IN NEW YORK
  06. CHICK-A-DEE
  07. ONCE UPON A SUMMERTIME
  08. L-O-V-E
  09. ONCE UPON A SUMMERTIME
  10. UNCHAINED MELODY

(キングレコード/KING RECORD 1998年発売/KICJ-351)
(ライナーノーツ/小川隆夫)

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ドミニク・ファリナッチ / スマイル4

SMILE-1 ドミニク・ ファリナッチの存在を知ったのは市原ひかりの『SARA SMILE』だった。
 『SARA SMILE』でのドミニク・ ファリナッチはゲスト参加ゆえに,ドミニク・ ファリナッチの演奏は「控え目で端正でストレートな」生真面目なトランペットだった。

 気持ちとしては市原ひかりを立てる“恋女房役”を全うしていた。でもでもドミニク・ ファリナッチの“並外れた実力”は隠せない。サイドメンとして軽く吹いたつもりが剛速球。日本ハムの大谷翔平が軽く投げても140km出す感じ? 他の投手が全力で投げる147kmのストレートをフォーク・ボールで出す感じ? 
 その“並外れた実力”で市原ひかり2ndへと追いやり,リード・トランペットを吹くドミニク・ ファリナッチに一発で惹かれてしまった。

 『SMILE』(以下『スマイル』)を買ってみた。なになに。ライナーノーツを読むと,あのウイントン・マルサリスに「神童」と言わせた“お墨付き”の最高ランクと書かれている。
 やはりそうだった。ドミニク・ ファリナッチは「只者」ではなかった。ドミニク・ ファリナッチウイントン派だったとは,ちょっとイメージとは違ったのだが,とにかく素のドミニク・ ファリナッチとは“音色良しでテクニック良し”な「超正統派の本格派」であった。

 サイドメンでは感じなかった“風格”を感じる。スレート・アヘッドなジャズ・トランペットの世界観が深く,徹頭徹尾ふくよかな美しい音色と端正なフレージングでリスナーを酔わせてしまう&狂わせてしまう,ドミニク・ ファリナッチを絶賛せずにはいられない!
 「CTI時代のフレディ・ハバード」へのオマージュである【COME RAIN OR COME SHINE】が「イナセな」イナタイ8ビート。ヴィブラートの周波数がフレディ・ハバードへのオマージュである。

 サイドメンでは感じなかった“品格”を感じる。スレート・アヘッドなジャズ・トランペットの世界観が深く,こんな感じにアレンジされると「江戸っ子だねぇ。粋だねぇ」とドミニク・ ファリナッチを絶賛せずにはいられない!
 ウイントン派のルーツはクリフォード・ブラウンにあるのだが【I REMEMBER CLIFFORD】での叙情性が「イナセ」である。エレガントなバラードTHE NEARNESS OF YOU】と【SMILE】での歌心が「イナセ」である。

SMILE-2 ドミニク・ ファリナッチのポリシーとは,ギミック排除のウルトラ・オーソドックス。フレージングの個性に頼ろうとしない,さりげなく小粋な佇まいのジャズ・トランペッター

 『スマイル』でのドミニク・ ファリナッチトランペットは相当に「渋い」。クールでまろやかな音色のトランペットが決して熱くならずに美旋律を吹き切っている。

 そう。「神童」ドミニク・ ファリナッチ・クラスともなれば,ガツガツした自己主張など不要なのであろう。
 ただし,ウイントン・マルサリスには食指は伸びるが,ドミニク・ ファリナッチには食指は伸びない。ジャズ・トランペットの世界では「オール5の優等生」でも個性の差異は大きいものなのだ。

  01. WHO CARES
  02. THE NEARNESS OF YOU
  03. ESTATE
  04. JUST ONE OF THOSE THINGS
  05. I REMEMBER CLIFFORD
  06. COME RAIN OR COME SHINE
  07. THE GREY GOOSE
  08. RELAXIN' AT PETER'S
  09. SMILE

(M&I/M&I 2005年発売/MYCJ-30330)
(ライナーノーツ/都並清史)

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渡辺 香津美 / トリコ・ロール4

TRICOROLL-1 ギター渡辺香津美ベースヤネク・グウィズダーラドラムオベド・カルヴェールと,別パターンでドラムオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスと組んだ“2組のNEW・エレクトリックギター・トリオ”が『TRICOROLL』(以下『トリコ・ロール』)である。

 『トリコ・ロール』のタイトルから連想したのが,おフランスの「トリコロール・カラー」(ご丁寧にアルバム・ジャケットトリコロールしている!)だったのだが,これは渡辺香津美お得意のワルふざけのようで『TRICOROLL』のスペルが違う(おフランスの場合は「TRICOLORE」)。

 ズバリ『TRICOROLL』の真意とは「TRIO」+「ROCK’N ROLL」! 『トリコ・ロール』のタイトルに,エレクトリックギター・トリオのノリの良さや躍動感が“ミーニング”されている。

 個人的に『トリコ・ロール』のハイライトは,ベースヤネク・グウィズダーラ名演に尽きる。
 渡辺香津美ギターはいつも通り。曲ごとにインパクトを与えているのがドラムオベド・カルヴェールオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスになるのだが,自然と,知らず知らずのうちにヤネク・グウィズダーラベース・ラインばかりを追いかけてしまう。

 ヤネク・グウィズダーラのプレイ・スタイルが,音色でハッキリした主張するフィンガー・ベースであって,渡辺香津美と共演してきたベーシストでは,ジェフ・バーリンバーニー・ブルネルとイメージが被るから好みなのだと分析する。それにしてもヤネク・グウィズダーラの「キザミ」が凄い。安定したビートから「怪物」が幾度となく登場している。素晴らしい構成力は「バケモノ」である。

 『トリコ・ロール』のもう一つの“目玉”が選曲。『MOBO』収録の再演となる【上海】とYMOのサポートで弾いていた【ライディーン】。
 この2曲が大変興味深いのだが『トリコ・ロール』を【上海】と【ライディーン】目当てで聴いているうちに,その【上海】と【ライディーン】に間に挟まれた【メタボリズム】に完全KO。
 いつしか管理人の『トリコ・ロール』聴きとは【メタボリズム】を聴く行為を指すようになってしまった。

 そうしてヤネク・グウィズダーラジェフ・バーリンバーニー・ブルネルを重ねてしまうように【メタボリズム】を聴いていると,ジェフ・バーリンの『THE SPICE OF LIFE 2』(『THE SPICE OF LIFE』の方ではない)とバーニー・ブルネルの『KILOWATT』の2枚が脳裏に浮かんでくる。

TRICOROLL-2 これって何なんだろう。『トリコ・ロール』で今の渡辺香津美と昔の渡辺香津美が一気に「点ではなく線とか面とかで」つながったような感覚。
 出来としては完全に初演に負けている【上海】と【ライディーン】も,これはこれでイケテしまう感覚。

 『トリコ・ロール』がジワジワと来る。「TRIO」+「ROCK’N ROLL」の「ROLL」が来ている。

 惜しむべきは,渡辺香津美の狙いとしては曲調によって2人のドラマーを使い分けてみたのであろうが,ジワジワと来ている間に,こちらはオベド・カルヴェールではなくてオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスの方が良かった,そしてこっちはオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスではなくてオベド・カルヴェールの方が良かった,との雑念が入ってしまった。

 渡辺香津美にとっては「究極の選択」となったのかもしれないが,個人的にはオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスで通しても良かったかも…。

  01. SHANG-HAI
  02. METABOLISM
  03. RYDEEN
  04. ALGORITHM
  05. SEA DREAM
  06. PERFECT WATER
  07. THE SIDEWINDER
  08. AZIMUTH
  09. MOMENT'S NOTICE

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2011年発売/EWBS 0184)
(☆BLUE−SPEC CD仕様)
(ライナーノーツ/石沢功治)

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ダラー・ブランド / アフリカン・ピアノ5

AFRICAN PIANO-1 ダラー・ブランドの『AFRICAN PIANO』(以下『アフリカン・ピアノ』)は,できれば紹介したくなかった。
( アドリブログは現在アルファベット順にて紹介中。ABCD…DO )

 願わくばアドリブログの全投稿の最後の記事として紹介したかった。本気でそう思う,管理人「とっておきの一枚」にして,厳選の中の厳選“秘蔵盤”なのである。

 『アフリカン・ピアノ』をまだ聴いたことのない人は「幸せ者」である。知らないのが,正直,うらやましくてたまらない。
 これから先,何千枚とジャズを聴き漁り「もうジャズなんて聴き飽きた」という日が来たとしても,それでも絶対に「脳天をカチ割られるような衝撃」を受けることであろう。

 そう。『アフリカン・ピアノ』の真髄とは「マンネリ打破の1枚」「日常を非日常でリセットしてくれる1枚」「頭の中をクリーンにしてくれる1枚」である。
 『アフリカン・ピアノ』を聴けば,また次の日からジャズが好きになる。昨日よりもっともっとジャズが好きになる。だから「最後の1枚」なのである。

 リスナーは『アフリカン・ピアノ』が流れ出すとすぐに「打楽器」としてのピアノの強さを“嫌と言うほど”思い知らされることになる。
 ダラー・ブランドの左手から繰り出される執拗なアフリカン・ビートの“バケモノ”が音符を踊り喰いしていく。メロディーがリズムに“呑み込まれていく”。メロディーが「現われては消え,現われては消え」てゆく。

 結果『アフリカン・ピアノ』は,いつまでもいつまでも,どこまでもどこまでも,同じ曲想の演奏がまるでDJによるノンストップ・ミックスのようにつながっていくと思わせて,最後の最後だけストンと落とする。突然,大きな穴に落とされてしまう。あの瞬間が「た・ま・ら・な・い・快・感」なのである。

AFRICAN PIANO-2 そう。『アフリカン・ピアノ』の真実とは“音のブラックホール”!

 書きたいことはたくさんあるが,ここから先は是非,自分自身の目で見て,耳で聞いてみてほしい。ブラックホールの中に頭と体を突っ込んでみてほしい。新しい音世界,誰も見たことのない未知の世界,深く黒い穴の中に「吸い込まれる」ことが,いかに「心地良い体験」なのかを味わってみてほしい。

 意識の全てが「失われ,消え,呑み込まれていく」。こんな体験,そう滅多に出来るものではない。これこそが『アフリカン・ピアノ』のハイライトなのである。

  01. bra joe from kilimanjaro
  02. selby that THE ETERNAL SPIRIT IS THE ONLY REALITY
  03. THE MOON
  04. xaba
  05. sunset in blue
  06. kippy
  07. jabulani - easter joy
  08. tintiyana

(ECM/ECM 1973年発売/UCCU-6122)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

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渡辺 香津美 / MOBOスプラッシュ4

MOBO SPLASH-1 総勢14名での『桜花爛漫ライブを行なうまでに拡大した「MOBOバンド」。次に渡辺香津美が向かったのは「MOBOバンド」からの“削ぎ落とし”であった。

 具体的にはベースグレッグ・リードラム村上“ポンタ”秀一だけをピックアップした「MOBO」なるギター・トリオを“磨き上げる”ことで「MOBOバンド」とは“毛色の異なる”ダイナミック・サウンドの追求へと動く。

 やはりこの背景にはギター・シンセサイザーの技術的進歩に負うところが大きい。しかしそれ以上にギター・トリオだけで「MOBOバンド」を具現化できるまでに「ザ・渡辺香津美の音楽」が成熟してきたことの方が何倍に大きい。

 「MOBO」で活動していた渡辺香津美の頭の中には,表現したい音楽を幾種類も同時にアウトプットしようと試みた節がある。それこそジャズであり,フュージョンであり,プログレであり,ロックである。そしてそこに無国籍サウンドやハードコア,でも歌謡曲っぽいエンターテイメントにもそそられている。

 ゆえに,フットワークの軽い「MOBO」をベースとして『MOBO SPLASH』(以下『MOBOスプラッシュ』)では,フロントにマイケル・ブレッカーデヴィッド・サンボーンという“超大物”を迎えての“ぶつかり稽古”を敢行!

 マイケル・ブレッカーデヴィッド・サンボーンの「猟奇的な」変態プレイが効いている! マイケル・ブレッカーが「ブチ切れる」と渡辺香津美も「ブチ切れる」! デヴィッド・サンボーンが「荒れ狂う」と渡辺香津美も「荒れ狂う」!
 管理人は『MOBOスプラッシュ』でのトラウマが,後の渡辺香津美の変態プレイに影響を及ぼしたと想像する。

 鍵盤を置かずにギター・シンセサイザーやサンプラーを駆使した「MOBOバンド」と遜色なしの「MOBO」に,マイケル・ブレッカーでもなくデヴィッド・サンボーンでもなく,渡辺香津美の“色付けの個性”が感じられる。

MOBO SPLASH-2 さて,ここまで書いてきてアレなのだが『MOBOスプラッシュ』は楽曲の出来がイマイチ。個人的には【十六夜】と【シナプス】の2曲だけである。
 この2曲がどちらもスロー・ナンバーだという事実に「MOBO」プロジェクトの“終焉”を予感させる星4つ。

 それにしても【十六夜】である。【十六夜】こそが“客演”デヴィッド・サンボーン最大の名バラードである。【ドリーム】と同じくらい大好き!

  01. AFTERNOON IN THE PARK
  02. SPLASH
  03. IZAYOI
  04. SOMETIMES WE SAY MONK
  05. CRISIS III
  06. GOURD-TOP-MOUSE
  07. SYNAPSE
  08. BUSIEST NIGHT

(ポリドール/DOMO 1985年発売/UCCJ-4116)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/池上比沙之,石沢弘治)

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ボビー・ハッチャーソン / ハプニングス5

HAPPENINGS-1 『HAPPENINGS』(以下『ハプニングス』)のCD帯に,紹介文がこのように書かれている。
 「新主流派の一方の顔となった新感覚派ヴァイヴ奏者の代表作」。「ハービー・ハンコック参加,もうひとつの《処女航海》収録」。

 そう。ジャズ史における「新主流派の一方の顔」であり「もうひとつの《処女航海》」のコピー通りな「新主流派」について語る時に“絶対に外せない”名盤の1枚が,ボビー・ハッチャーソンの『ハプニングス』なのである。

 『ハプニングス』の評価を何がそこまで高めているのか? ズバリ「新主流派」のエッセンスが凝縮された“知的で繊細でクールなジャズ”!
 ヴァイヴという楽器自体がそもそも“COOL”なのだが,ボビー・ハッチャーソンのモーダルなプレイは“透明なCOOL”。鉄琴の硬質な音色がビブラートすることでリリカルに響き,幻想的な気分に誘われる。

 ヴィブラフォンボビー・ハッチャーソンピアノハービー・ハンコックベースボブ・クランショウドラムジョー・チェンバースによる緻密なインタープレイは「鉄琴の鉄板」!

 特にピアノハービー・ハンコックが『ハプニングス』のベクトルを大きく定めているように感じる。“目玉”であるハービー・ハンコックの再演となる【処女航海】以外の楽曲はボビー・ハッチャーソンオリジナルなのだが,アルバム全てにハービー・ハンコックの雰囲気が漂っている。

 いずれもモーダルな曲想の中にドライブ感が感じられ,過度な前衛にもコマーシャルにも傾かない「クールネス」な「新主流派」の王道を貫くスタンスがお見事。
 同じヴィブラフォン奏者でもボビー・ハッチャーソンヴァイヴは“ピアノ寄り”な感じで,ミルト・ジャクソンに代表されるブルージーでソウルフルなインスピレーションとは一味違ったシステマチックな「新主流派」のヴィブラフォンが新鮮に響いている。

 そんなボビー・ハッチャーソンが演奏するハービー・ハンコックの【処女航海】が最高である。巷で新常識っぽく語られている通り,ボビー・ハッチャーソンの極上のヴァイヴが,本家『MAIDEN VOYAGE』の【処女航海】を超えている!?
( …と思う日がたまにあるのも事実。でも管理人的には【処女航海】は,やはりフレディー・ハバードジョージ・コールマンをフロントに迎えたハービー・ハンコックヴァージョンの出来が上だと思う )

HAPPENINGS-2 ボビー・ハッチャーソンの美しい単音のヴァイヴと独特のグルーヴ感が【処女航海】の曲想にマッチしている。
 ハービー・ハンコック名義の【処女航海】が,暖かな海を悠々と航海に乗り出す雰囲気だとすると,ボビー・ハッチャーソン名義の【処女航海】は,氷山が遠くに見えるような厳冬の海に緊張感をもって航海する雰囲気に満ちている。

 ハービー・ハンコックというジャズ・ピアニストは,モーダルな演奏に徹したらあまりに妥協がなくなる。バッキングと短いピアノ・ソロの内省的なアプローチが,管楽器ではなく“ヴァイヴらしい”透明感の高い名演となっている。

 とは言え『ハプニングス』は,歴史に残る問題作とも衝撃作ともほど遠い,基本「オーソドックスなモード」である。普通と違うアプローチを挙げるなら「旋律的な部分とクールな雰囲気の調和を図ったメカニカルなアルバム」ということになるだろう。
 そう。『ハプニングス』の真実とは,ボビー・ハッチャーソンが取り組んだ「モードジャズの総決算」!

 浮遊感漂う不思議なムードに乗って叩き出されるボビー・ハッチャーソンヴァイヴが,演奏全体をクールに引き締め,非常に理知的な雰囲気を醸成している。張り詰めた緊張感と透明感溢れる不思議な空間が「新主流派」の音楽法則に従って秩序正しくまとまっていく。素晴らしい。

  01. AQUARIAN MOON
  02. BOUQUET
  03. ROJO
  04. MAIDEN VOYAGE
  05. HEAD START
  06. WHEN YOU ARE NEAR
  07. THE OMEN

(ブルーノート/BLUE NOTE 1966年発売/TYCJ-81027)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,マイケル・カスクーナ,後藤雅洋)

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ディック・モーガン / ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル5

DRIVE, PASSION, UNPRE-DICTABLE-1 「あっ,見つけた」! これがジャズ・ピアニストディック・モーガンの『DRIVE,PASSION,UNPRE−DICTABLE』(以下『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』)を初めて聴いた時の感想である。
 素直にうれしかった。こんな「ついに,見〜つけた」的な感動こそが,ジャズを,特に「B級」ジャズを聴き続ける楽しみに違いない。

 ディック・モーガンの存在は,管理人も「初耳」であった,マイナー・シーンのジャズ・ピアニストであるが,ディック・モーガンデビューには意外や意外,キャノンボール・アダレイという“超大物”の後押しがあったと言う。
 そう。ディック・モーガンの真髄は“ファンキー・キャノンボール”が惚れ込んだ「最高にハッピーなピアニスト」!

 『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』でのディック・モーガンジャズ・ピアノが“ノリノリ”である。ブルージーなフィーリングと寛ぎ与えるスイング感が“快感”なのである。
 『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』のような「屈託のない,明るく人懐っこい」アルバムは,それこそ細かく聴き込むのは逆に勿体ない。管理人なんかも『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』は,得意のヘッドフォンではなくスピーカーを大音量で流している。

 ゆえに,聴き終えた後の印象は,一番のメロディでもフレーズでもなく「とにかく明るく軽快であった」という全体の印象しか残らない。
 タメの効いたブルースの持続するGROOVEに「どうでもよくなってしまう」気持ち良さがある。肩肘凝らないリラックスした演奏に“ノリノリで癒される”という矛盾が成立している。
 どうして『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』クラスの大名演が,もっと世間で認められないのだろうか?

 この記事はディック・モーガン称賛キャンペーン! 欲を出して『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』を聴き込んでみる。す・る・と・ディック・モーガンジャズ・ピアノ・スタイルが見えてくる!

 ディック・モーガンが多様するのはシングル・トーン&ブロック・コード。こう来るとレッド・ガーランドが思い浮かぶが,ディック・モーガンの一番の売りは“能天気ムードな根明なノリ”なのである。
 特にテンポの変化を多用しがちで,1曲の中にスロー〜アップ・テンポ〜ミディアムが同居する,結構な変幻自在スタイルだけで“イチコロ”なのに,そこにホレス・パーラン的でレイ・ブライアント的な“ブルース・フィーリング”を混ぜてくる。だ・か・ら・好みなのだ。

DRIVE, PASSION, UNPRE-DICTABLE-2 ところで『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』には“もう一人の主役”がいる。ギタースティーヴ・アブシャイアである。
 個人的に『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』とは,スティーヴ・アブシャイア「あっての」ディック・モーガンであろう。

 ギターのミス・タッチが散見されるが「そんなの関係ない!」と思わせるニュアンス勝負のギターが,ディック・モーガンピアノと一緒に盛り上がる。スティーヴ・アブシャイアディック・モーガンを乗せまくり,ディック・モーガンスティーヴ・アブシャイアを乗せまくる“相乗効果”が絶大である。

 とにかく「最高にハッピーなピアノ」+「最高にハッピーなギター」=「最高にハッピーな」『ドライヴ,パッション,アンプリディクタブル』!

  01. The Boston Chicken I
  02. Alone Together
  03. How Deep Is The Ocean? / I Found My Love And It's You
  04. Honeysuckle Rose
  05. It's All Right With Me!
  06. I Never Knew At All
  07. Yesterdays / Yesterday
  08. I Will Always Love You / If Ever I Should Lose Your Love
  09. Salt Peanuts
  10. Autumn Leaves
  11. Young And Foolish
  12. The Boston Chicken II

(M&I/INTERPLAY 1994年発売/IPCD-8613)
(ライナーノーツ/白澤茂稔)

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デクスター・ゴードン / ゲッティン・アラウンド5

GETTIN' AROUND-1 『GETTIN’ AROUND』(以下『ゲッティン・アラウンド』)は名盤である。
 ただし,デクスター・ゴードン名義の名盤というわけではない。ジャズに崇高なアドリブ芸術など求めない,純粋に「リラックスして楽しむのがジャズ」と考える音楽ファンに打ってつけの名盤である。

 そう。『ゲッティン・アラウンド』には,気だるさというか,妙にフレンチっぽいというか『OUR MAN IN PARIS』以上に,ヨーロピアンな“洒落っ気”が感じられる。
 肩の力の抜けた“滋味溢れる”名演の心地良さが『ゲッティン・アラウンド』の中に詰まっている。

 ズバリ『ゲッティン・アラウンド』の「アンニュイ」の秘密は,ボビー・ハッチャーソンのお洒落なヴィブラフォンにある。
 ボビー・ハッチャーソンヴィブラフォンが,デクスター・ゴードンの「黒さ,重さ,野太さ,男気」の個性に風穴を空けている。爽やかなそよ風を吹き込んでいる。この“軽やかさ”も間違いなくジャズの魅力の醍醐味に違いない。

 ややもすればデクスター・ゴードンテナーサックスは押し付けがましくて,ぶっきらぼうなとこらがあるのだが『ゲッティン・アラウンド』では,いつになく陽気で翳りのないデクスター・ゴードンの“アンサンブル”に心躍るものがある。

 ボビー・ハッチャーソンヴィブラフォンが“開けっ広げ”なデクスター・ゴードンの丁寧なアドリブの間を取っていく。
 ヴィブラフォン特有の持続音が,感情の高まりを落ち着かせ,緩やかな演奏の波に乗せてくれる。デックスの雰囲気を“そっと”運んでくれる。

 デクスター・ゴードンが“朗々と”歌っている。ただそれだけで気だるさを超えた「忘我の境地」に入ってしまう。聴けば聴くほど“味わい”があり,くつろいだ空気感にいつでも身を置くことができる。
 そう。『ゲッティン・アラウンド』の音像とは,アルバム・ジャケットに写っているデックスの“ニヤケ顔”そのもの! 初夏の柔らかな風を受けた休日のサイクリングそのもの!

GETTIN' AROUND-2 “鼻歌を歌いながら”サイクリングにいそしむデックスという「大男」が最高にチャーミング! 管理人にとって『ゲッティン・アラウンド』とは,のどかでほのぼのとした田舎での休日で“乗り回す”サイクリングのBGM!

 気だるいことが気持ちいいと感じられるジャズ名盤群。その最右翼の1枚が『ゲッティン・アラウンド』なのである。

  01. MANHA DE CARNAVAL
  02. WHO CAN I TURN TO
  03. HEARTACHES
  04. SHINY STOCKINGS
  05. EVERYBODY'S SOMEBODY'S FOOL
  06. LE COIFFEUR

(ブルーノート/BLUE NOTE 1966年発売/TOCJ-6679)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,岡崎正通)

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渡辺 香津美 / 桜花爛漫4

OUKARANMAN-1 渡辺香津美が自慢の「MOBOバンド」を組んで,人生を謳歌(桜花)していた頃のライブ盤が『OUKARANMAN』(以下『桜花爛漫』)である。

 とにかく凄い「大宴会」である。『桜花爛漫』に『MOBO』や『MOBO倶楽部』のようなスリリングな演奏を期待してはならない。この雰囲気は「セッション大会」と言う名の「飲み会」なのだ。

 『桜花爛漫』と題された「飲み会」の参加者は,ギター渡辺香津美ベースグレッグ・リー渡辺建ドラム村上“ポンタ”秀一青山純れいち横沢龍太郎ドラムパーカッション仙波清彦キーボードヴォーカル橋本一子アルトサックスソプラニーニョ沢村満アルトサックス坂田明梅津和時テナーサックス片山広明トロンボーン向井滋春の計14名。

 14名の「音の呑み比べ」は「利き酒」なのか? 入り乱れたり分離しては,新しいジャズフュージョンの味を創造する実験の「お祭り」である(実際にステージ上には5台のドラムを支えるために櫓が組まれたそうである)。

 観客席はステージ上で咲き乱れる「満開の音桜」を見て&聴いて,最高の乱痴気騒ぎが行なわれたことであろうと予想する。こんなライブを聴かせられたら「踊らにゃソンソン〜」!

OUKARANMAN-2 …というわけで,自宅のオーディオ・ルームで,踊り狂うわけでもなく,静かにタテノリとヨコノリを堪能している管理人も早めに「お開き」。
 以下は管理人が『桜花爛漫』の打ち上げ会場で語ったであろうツイン・ベース談義…。

 スタジオ録音では違いが分からず,ただ分厚いベース・ラインに“喰いついた”だけの管理人だったが,ライブ録音を聴いてやっとツイン・ベースの意味が分かった〜。
 グレッグ・リーがフレッテッドで“リズムカル”なベース渡辺建がフレットレスで“メロディアス”なベース。全くタイプの異なるベーシストを自由自在に“ハベラカス”渡辺香津美の快感たるやMAXMAX〜!

 ただし一連の「MOBOプロジェクト」の中では,出来が散漫(爛漫)すぎ。渡辺香津美のアグレッシブを語るなら「MOBO」に限る。

  01. INTRODUCTION
  02. AMERICAN SHORT HAIR
  03. Σ
  04. 危険がいっぱい
  05. GOOD VIBRATION
  06. 遠州つばめ返し
  07. UNICORN
  08. 上海
  09. 風連

(ポリドール/DOMO 1985年発売/UCCJ-4115)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/青木誠,石沢弘治)

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デクスター・ゴードン / アワ・マン・イン・パリ5

OUR MAN IN PARIS-1 『OUR MAN IN PARIS』(以下『アワ・マン・イン・パリ』)の『OUR MAN』とはデクスター・ゴードン
 そう。『アワ・マン・イン・パリ』とはデクスター・ゴードンパリセッションのこと。

 だから『アワ・マン・イン・パリ』は,いつもの(アメリカの)デクスター・ゴードンの雰囲気とはちょっと違う。
 「芸術の都」と呼ばれるパリの空気を吸って,ジャズスタンダードを,ヨーロッパ調に?芸術っぽく?カッコヨク?吹き上げている,デクスター・ゴードンが“お上品”なのだ。

 デクスター・ゴードン・ファンからすると異色盤の『アワ・マン・イン・パリ』であるが,これがいいのだ。
 ジャズメン=アーティスト扱いのスタジオ録音で,生真面目にして弾んだ演奏&意気揚々と屈託のない演奏で,デクスター・ゴードンの「おめかしした演奏」と「リラックスした演奏」の両面が聴けるのは『アワ・マン・イン・パリ』だけである。

 良く知られたスタンダード集ゆえに,細かく途切れるように,語尾を伸ばさない“デックス節”が全開。
 テナーサックス本来の“低音の唸り”も迫力満点であるが,大らかな高音部の響きがどこまでも力強く,優しさに溢れた「ダンディな男」デックス。例の「後ノリ」が鳴りだすと「いよっ,待ってました」な「千両役者」の登場であろう。

 テナーサックスの音色についても,いつもと違う「ヨーロピアンな」雰囲気がある。いつもの豪放で男性的で野太いトーンはそのまんまにして,荒々しい感じだけが消えた「ダンディな男」デックステナーが「渋い声」で大鳴りしている。
 何とも言えない余裕というか大人の貫録というか「大物感」がある。これぞ最大の“PARIS”効果なのであろう。

 【チュニジアの夜】が最高である。本来熱いグルーヴが似合う曲なのに,デクスター・ゴードンの“ワンホーン”で延々と歌い上げられるこの演奏には,どこか透き通ったような寂しさを感じる。
 狂騒的な熱帯の夜の雰囲気はない。いい意味でムーディーでエキゾチックな夜という感じで,太くてたくましいがまろやかな音で,余裕しゃくしゃくの演奏に“うっとり”してしまう。本当に大好き。

OUR MAN IN PARIS-2 デックス自らが“最高傑作”と公言する『GO!』の中にデクスター・ゴードンの全ての魅力が詰まっているのは間違いない。
 レベル的にはデクスター・ゴードンの,というよりも,ジャズサックスを代表する,あるいはモダン・ジャズを代表する名盤の1枚であろう。

 しかし『アワ・マン・イン・パリ』での“余所行き感”を知ってしまうと,幸福そうなデクスター・ゴードンの笑顔が見えてくるように感じて,たまらない愛着を感じてしまう。
 『OUR MAN』=私たちの大男=アメリカを代表するテナーサックス奏者=デクスター・ゴードンを知って欲しいし,聴いて欲しい。

 そう。管理人が選ぶデクスター・ゴードンの愛聴盤は『GO!』ではなく『アワ・マン・イン・パリ』の方なのである。

PS 『アワ・マン・イン・パリ』に“ピンと来たら”やっぱり映画「ラウンド・ミッドナイト」を見てみないと! “俳優”デクスター・ゴードンが見事に“奇人”バド・パウエルを演じています。ベーシストピエール・ミシュロも“ちょい役”で出演しています。

  01. SCRAPPLE FROM THE APPLE
  02. WILLOW WEEP FOR ME
  03. BROADWAY
  04. STAIRWAY TO THE STARS
  05. A NIGHT IN TUNISIA

(ブルーノート/BLUE NOTE 1963年発売/TOCJ-9045)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,小川隆夫)

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デクスター・ゴードン / ゴー!5

GO!-1 デクスター・ゴードン自らが公言する“最高傑作”が『GO!』(以下『ゴー!』)である。
 デクスター・ゴードン自らが『ゴー!』を“最高傑作”と公言したくなる理由も理解できる。『ゴー!』こそがデクスター・ゴードンの“ジャズメン・シップ”の生きた証しなのだから…。

 ビ・バップからハード・バップへと移ろう50年代。第一線で活躍していたデクスター・ゴードンジャズ・シーンから突然消えた。よくある麻薬禍である。
 デクスター・ゴードンと同じパターンのジャズ・サックス・プレイヤーにアート・ペッパーがいるのだが,アート・ペッパーの場合は「前期」「後期」と呼ばれるように,麻薬休業の「以前」「以後」では音楽性がガラリと一変した。アート・ペッパーは監獄の中で聴いたジョン・コルトレーンから影響を受けてしまったから…。

 デクスター・ゴードンの場合は,麻薬休業中にハード・バップの洗礼を受けない「ガラパゴス」ジャズメン。ジャズの潮目が変わろうとも,カムバック後のデックスは引退前のデックスと同じ。
 そんな「浦島太郎」的なデックスだったから,時代がデクスター・ゴードンの“ジャズメン・シップ”に追いついた時,他の追随を許さない圧倒的な王者の演奏で輝くことができたのだ。

 基本,デクスター・ゴードンは,誰と共演しようが,ただひたすら自分のスタイルで悠然とプレイする。だからデクスター・ゴードンには,全てを受け止め,あの「ゴツゴツとした」テナーサックスを「丸く転がしてくれる」共演者を必要としている。

 『ゴー!』で共演したピアニストが“ブルーノートの秘蔵っ子”であるソニー・クラークである。主役に優しく寄り添いながらもブリリアントに響くソニー・クラークピアノが,デクスター・ゴードンテナーサックスの響きに立体感と奥行きをもたらしている。暗く“マイナー系”の独特の雰囲気が演奏に適度な粘りと黒さを与える“秀才”である。

 そう。『ゴー!』は“泰然自若”としたデクスター・ゴードンと“マイナー系”ソニー・クラークの「運命の巡り会わせ」無くしては成立することのできなかった大名盤である。
 デクスター・ゴードンが,以前と変わらぬビ・バップ気質を持ち合わせていたがゆえの「時代の巡り会わせ」というものだろう。

 デクスター・ゴードンの代表曲である【CHEESE CAKE】を聴いてほしい。哀愁溢れるマイナー・チューンが,程良くノリのいいテンポで演奏されるから余計に切なさが際立つ“切ない疾走系”の名曲である。
 ソニー・クラークピアノに「気持ち良く乗せられてしまった」デクスター・ゴードンが,軽快に駆け足するビートをバックに得意のやや遅れたタイミングで語りかけるようにブロウする。スピード感のある演奏なのに,たっぷりと息を吹き込んだデクスター・ゴードンの“可憐な”テナーサックスの音色にグッと来る。

GO!-2 デクスター・ゴードンテナーサックスが,いつにも増して朗々と伸びやかに響き渡る。ノン・ビブラートで発せられる力強い音には芯があり“大鳴り”している。

 デクスター・ゴードンの特徴である「後ノリ」が,これ以上遅れるともたついてしまうという“ギリギリの快感”を呼び起こし,一音一音に躍動感とインパクトを与えている。絶妙な「タメ」の存在がフレーズが滑らかに流れ過ぎないアクセントになっている。

 そう。デクスター・ゴードンテナーサックスを耳で追い続けるだけで,ドキドキ&ワクワクの楽しい時間があっという間に過ぎていく。
 アップ・テンポでは『ゴー!』と豪快にブロウし,スロー・テンポでは,微妙に陰りの情感を漂せて“たまらない”気分にさせてくれる大名盤である。

 ズバリ『ゴー!』の聴き所は,時代が一周回ってきた感じの「バップの雰囲気」にある。ソニー・クラーク名演とバップ期のイデオロギーへの揺るぎない確信がデックスの“無双”気分をプッシュしている。

 その実,豪快極まりない演奏なのだが,決して圧倒されることはない。奇をてらわないデクスター・ゴードンの“ジャズメン・シップ”が,これぞモダン・ジャズ的な雰囲気を持っている。大好物! 

  01. CHEESE CAKE
  02. I GUESS I'LL HANG MY TEARS OUT TO DRY
  03. SECOND BALCONY JUMP
  04. LOVE FOR SALE
  05. WHERE ARE YOU
  06. THREE O'CLOCK IN THE MORNING

(ブルーノート/BLUE NOTE 1962年発売/TOCJ-6479)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,皸羶成)

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DIMENSION / 294

29-1 2016年10月12日にリリースが決定していたDIMENSIONの『29』の発売日が延期になった。変更後の発売日は2016年10月26日。つまり2週間の延期とのこと。

 SMAPの解散が発表された時,解散は単純に5人だけ,あるいはジャニーズ事務所だけの問題ではなく,SMAP解散による“経済損失”は,直接効果,一次波及効果,二次波及効果を計算すると,たった1年間で636億円だという記事を読んだ。つまりはレコード会社やジャケット写真の撮影などなど,SMAPの周囲で働く何千人もの生活に影響が及ぶという事実。

 SMAPクラスでこの数字なのだから,DIMENSIONCDリリース延期による“経済損出”は1000億オーバー? DIMENSIONの周囲で働く何万人もの生活に影響が及ぶのを覚悟の上で2週間も延期するとは…。なあ〜んてね。

 でも冗談ではなく,一旦決まった発売日を延期するとは一大事である。その理由が公式Webサイトの説明によると「制作上の都合により」と書かれている。
 この文言だけでは何も分からなかったが,10月26日(フラゲした管理人は10月25日)に店頭に到着した『29』を聴いてみて納得。

 DIMENSIONCDはいつだって,練りに練り上げられており,徹底的に作り込まれたものばかりだが『29』に織り込まれた細かい無数のディテールを発見する時,こんな大仕事をよくぞ2週間の延期でまとめたなぁ,という感想しか出ない。作り“込み方”がとにかく凄い!

( 先の公式Webサイトには「楽曲制作にかなりの時間を費やしたとだけあって,今まで以上の練りに練られた極上のサウンドプロダクツに加え,随所に散りばめられた絶妙なメロディラインがアルバム全編を通して聴く者の心を捉えて離しません。聴くたびに新たな発見がある最上級のインストゥルメンタルミュージック...この秋,是非お聴き下さい!」との文言あり。やっぱり『29』のサウンドプロダクツはただごとではない )

 アッパレ! DIMENSION! アッパレ! 増崎孝司! アッパレ! 小野塚晃! アッパレ! 勝田一樹! さすがは『29』次元!

 『LE MANS』『FIRST DIMENSION』から『28』までDIMENSIONは一貫してメロディー良し。アドリブ良し。アレンジ良しの演奏良し。
 そんなDIMENSIONが『29』次元で勝負してきたのは,曲想とかAメロとかBメロとかサビといった大枠ではなく,メロディー自体が難易度の高いテクニカル・メロディーであろう。

 ズバリ『29』の聴き所は,このメロの展開だから放たれたと確信できるアドリブの完成度であろう。
 めまぐるしく展開していくメロディーから垣間見れる美しいアドリブが,何度聴いても新鮮で,何度聴いても「これしかない!」。
 個人的にはかつて本田雅人がそうであったように,何か新しいものが生まれるまでに何回も何回もアドリブを録り直したのではなかろうか?

 増崎孝司のロック・テイスト,小野塚晃ジャズ・テイスト,勝田一樹ファンクネスが,楽曲のカラーに合わせてテクニカルに混ざり合い,DIMENSIONらしい“深い色合い”で見事に表現されている。
 【THE ROAD TO PEACE】〜【3 FOCUS】〜【GROOVOLOGY】〜【THE SECOND PLACE】の流れが『29』の個性を特徴付ける,実にカラフルなアルバム・カラー!

29-2 これは“百戦錬磨”のスタジオ・ミュージシャンにとっては「至難の業」に違いない。
 大枠なんかはとっくに完成していたのだから「生みの苦しみ」とはちょっと違う。最後の最後“残りコンマ1秒のディテール探し”のために制作スケジュールがオーバーするまでに膨大な時間がかかったのだ。納得のいくアドリブが降りてくるまでに膨大な時間がかかったのだ。管理人はそう思う。

 こう考えるようになったのが『29』を聴き始めて3日後のこと。すでに全曲のメロディーが頭に入った状態でテクニカル・メロディーではなくアドリブを聴きまくって丸2日が経過した。その結果がこうである。

 管理人の結論。『29批評

 全ての道はローマに通ず。改め『29』の全ては【BLUE ROOM】に通ず。
 ラストの【BLUE ROOM】1曲を聴かせるがために【BLUE ROOM】前の9曲が伏線を張っている! アドリブの全てが実はハーモニーだった,という“大どんでん返し”!

 いや〜,2017年のノーベル賞はボブ・ディランに続いてDIMENSIONが受賞します。ジャズ通の村上春樹さん,お先にごめんなさい。

PS 逆に言うと“凝りに凝ったイントロダクション”の『29』はお目当て=美メロの少ない星4つ。CDと同じソロLIVEでは弾かないだろうから『29』がLIVEでどう演奏されるかが楽しみでなりません!

  01. The Road To Peace
  02. Night Bird
  03. Timeline
  04. Get Up With It
  05. 3 Focus
  06. Groovology
  07. The Second Place
  08. Hope
  09. Keep Going
  10. Blue Room

(ザイン/ZAIN RECORDS 2016年発売/ZACL-9094)
(☆スリップ・ケース仕様)
(☆BLU−SPEC CD2仕様)

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デクスター・ゴードン / ドゥーイン・オールライト4

DOIN' ALLRIGHT-1 デクスター・ゴードンと言うと“ワンホーン”のイメージが強い。映画「ラウンド・ミッドナイト」での,椅子に腰掛けながらの演奏シーンがイメージとして強く残っているから。
 映画「ラウンド・ミッドナイト」を見ていないデクスター・ゴードン・ファンの中にも,デックス=“ワンホーン”のイメージを抱いているのでなかろうか? なぜならデクスター・ゴードンの代表作である『GO!』や『OUR MAN IN PARIS』が“ワンホーン”だから。

 しかしデクスター・ゴードンについて回る“ワンホーン”のイメージは単純に編成の問題ではない。デクスター・ゴードンは,いつでも,どんな編成で吹いても“ワンホーン”のデックスのままなのである。

 『DOIN’ ALLRIGHT』(以下『ドゥーイン・オールライト』)を聴いてみて,デックス=“ワンホーン”と感じる理由を再認識することができた。
 『ドゥーイン・オールライト』は,デクスター・ゴードンにしては貴重なトランペットフレディ・ハバードとの2管フロント。
 フレディ・ハバードの“パリッ”としたトランペットは超個性的であるが,その隣りで鳴り響く“男性的で野太くゴツゴツとした”デクスター・ゴードンテナーサックスの存在感たるや,王将格のトランペットを「捻りつぶして」しまっている。

 ズバリ『ドゥーイン・オールライト』は事実上,2管ではなくデクスター・ゴードンの“ワンホーン”として楽しむべきアルバムである。
 このように書くとソニー・ロリンズのような“ワンマン”を連想されるかも知れないが,デクスター・ゴードンはそうではない。あくまで“ワンマン”ではなく“ワンホーン”のデックスである。
 デクスター・ゴードンテナーサックスが鳴れば,フレディ・ハバードトランペットでさえハーモニー楽器に成り下がってしまう。

 ソニー・ロリンズのような天才的なアドリブがあるわけではなく,ジョン・コルトレーンのような神々しさも無いのだが,明快で,颯爽としたテナーの胴鳴りを聴いていると「あっ,自分ってテナーサックスに一番ジャズを感じてしまうんだな」と自覚させられてしまう。
 この辺の感覚が“ジャズ・ジャイアント”の一人として,デクスター・ゴードンは「絶対に外せない」と思わせる魅力なのだと思う。

 なんだかフランク・シナトラのようでもあり,一転して演歌歌手のようでもある。ビートに対してほんのわずか遅らせて吹くから,あのゆったりしたノリが出てくる。ディレイがかって聴こえる。そこが何とも言えないデクスター・ゴードン特有の“味”だと思う。

DOIN' ALLRIGHT-2 デクスター・ゴードン特有の“味”に,ピアノホレス・パーランベースジョージ・タッカードラムアル・ヘアウッドが耳をそばだて聴き入っている。
 デクスター・ゴードンの大らかなスケール感がトランペットフレディ・ハバードをも説得し,場の空気を支配していく。

 読者の皆さんにも『ドゥーイン・オールライト』におけるデクスター・ゴードンの「アメとムチ」を聴いてほしい。
 デクスター・ゴードンの,ゆったりと包み込むようにブロウするテナーサックスの“味”にハマってしまうと,ソニー・ロリンズジョン・コルトレーンが繰り出す高速パッセージが,何だか無意味で過剰でせわしなく聴こえてしまうようになる。

 改めて思う。デクスター・ゴードンほど“ワンホーン”が似合う男はいないのではなかろうか? デクスター・ゴードンの,太く豪快にして,ほろりとくるテナーサックスがあれば,余計なものは要らないと思う。

 そう。デクスター・ゴードンテナーサックスの中に“ワンホーン”の醍醐味が全部詰まっている。ずっと聴き続けていたい…。

  01. I WAS DOING ALL RIGHT
  02. YOU'VE CHANGED
  03. FOR REGULARS ONLY
  04. SOCIETY RED
  05. IT'S YOU OR NO ONE

(ブルーノート/BLUE NOTE 1961年発売/TOCJ-4077)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,後藤誠,辻昇)

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渡辺 香津美 / MOBO倶楽部5

MOBO CLUB-1 「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」( by 踊る大捜査線 )と渡辺香津美も考えたのだろう。
 “時代の遥か先を行く音楽”『MOBO』を遠い将来でも近い将来でもなく,今,この現場で鳴らしたい! アメリカではなくここ日本で鳴らしたい!

 そんな渡辺香津美の「日本で,今,この現場で」欲求に駆られて作り上げたのが“セッション三昧”するための「MOBOバンド」。
 そんな「MOBOバンド」の貴重なセッションの記録こそが『MOBO CLUB』(以下『MOBO倶楽部』)である。

 「MOBOバンド」とは『MOBO』の“売り”であったツイン・ベースツイン・ドラム編成を踏襲した,ベースグレッグ・リー渡辺建ドラム村上“ポンタ”秀一パーカッション仙波清彦による“凄腕”純国産での『MOBO』の発展バンド。

 いや〜,ロビー・シェイクスピアスライ・ダンバーのジャマイカ隊とマーカス・ミラーオマー・ハキムのニューヨーク隊も凄かったけど「MOBOバンド」の超重量級リズム隊ももの凄い! 自由闊達,変幻自在,縦 横無尽の超弩級のセッション大会に一発KO!

 個人的にはグレッグ・リーベース・ラインが最高で,このベース・ラインを追いかけていると,いつでもあの頃の「MOBOバンド」。そして「MOBO」にTRIPしてしまう!
 ノリノリで大暴れな“和製”ツイン・ベースの躍動感こそが『MOBO倶楽部』の肝であろう。

 しかし『MOBO倶楽部』を聴いていると『MOBO』以上にカズミ・バンドの『GANAESIA』からの影響を感じてしまう。
 これって“怪人”坂田明アルトサックスヴォイスというよりもラップのせい? 『MOBO』の完成された世界観以上に,混沌と整然が絶妙に同居する抽象性に『GANAESIA』からの影響を感じてしまう。

 ズバリ『MOBO倶楽部』における「MOBOバンド」の真髄とは,面白さと過激さを本気で追求したプログレ・フュージョン
 『MOBO倶楽部』における「MOBOバンド」とは,カズミ・バンドが演奏するキングクリムゾンである。渡辺香津美ギターシンセが,かなり挑戦的というか挑発的というか,アヴァンギャルドで“ぶっ飛んでしまっている”。

 シンプルなペンタトニックの,だけど,どこか壊れたメロディが,グギグギのディストーションで鳴り響く。ノリノリのスケール・オンから瞬間的にアウト・オブ・スケールの強烈なフレーズが攻めてくる。
 本気でヤンチャする渡辺香津美に「向かうところ敵なし」。渡辺香津美に「恐いものなし」。

MOBO CLUB-2 そう。渡辺香津美は『MOBO倶楽部』で完璧にプログレを消化したのだと思う。それが「今,現場で起きている」渡辺香津美のプログレ・フュージョンなのである。
 
 ただし『MOBO倶楽部』の「今」は一晩だけ楽しめる音楽などではない。ジャズを消化しフュージョンを消化しロックとプログレをも消化してきた渡辺香津美だから作ることのできた「連綿と続く構築された快楽」。

 『MOBO』が“時代の遥か先を行く音楽”であったならば『MOBO倶楽部』は“未来永劫鳴り続ける音楽”である。素晴らしい。

  01. 風連
  02. 予感
  03. つるかめひなタンゴ
  04. 危険がいっぱい
  05. 強制接吻
  06. サッちゃん
  07. CIRCADIAN RHYTHM
  08. Σ

(ポリドール/DOMO 1984年発売/UCCJ-4114)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/中原仁,石沢弘治)

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ビル・エヴァンス / ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ5

BILL EVANS TRIO WITH SYMPHONY ORCHESTRA-1 リリカルなビル・エヴァンスのバックにシンフォニーオーケストラ。この組み合わせが悪いはずがない。
 ただし,ビル・エヴァンスピアノはかなりの強面ゆえに,このアイディアを実際に具現化するのは思いの外,容易ではない。

 “天才アレンジャー”クラウス・オガーマンの選択肢は,ピアノを前面に押し出して鳴らすべきか? それともオーケストラピアノと対立,あるいは共存させるべきか?

 かくして完成された『BILL EVANS TRIO WITH SYMPHONY ORCHESTRA』(以下『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』)が何ともスッキリ!

 リリカルなビル・エヴァンスが大好きであれば,ド・ストライクなシンフォニーオーケストラとの共演盤。『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』を聴かずして,ビル・エヴァンスを語ってはいけない“極上”レベルの共演盤。

 有名クラシック曲の選曲と控えめながら音楽の躍動感を意識させる名アレンジに耳がくすぐられる…。
 ゆえに『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』の成功の主役はクラウス・オガーマンと思われがちだが,絶対にそうではない。この全てはビル・エヴァンス側の“大仕事”の結果である。

 ズバリ『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』の構図とは,ビル・エヴァンスクラウス・オガーマンの編曲を“聴き分けた”大名盤である。

  思えばピアノ・トリオの印象が強いビル・エヴァンスであるが,ヴァーヴへの吹き込みは冒険作の方が多く,ヴァーヴビル・エヴァンスと来ればピアニストというよりもジャズメンと呼ぶにふさわしい活動のピークの時期。
 サックスフルートの特徴を引き出すことに成功させていたビル・エヴァンスが,シンフォニーオーケストラが有する“カラフルな甘さ”を見事に引き出している。

 オーケストラの音色をサックスフルートなど,1つの共演楽器に見立てた感じで,いつも通りに“ジャズの言語で”ピアノのバランスを合わせていく。
 ビル・エヴァンスとしては,相手が大物オーケストラであろうと気に留めてやいない。よく聴くとピアノシンフォニーオーケストラがバラバラな時間が随所にある。

BILL EVANS TRIO WITH SYMPHONY ORCHESTRA-2 これを偶然と取るか,必然と取るかは聴き手の判断次第であろうが,交わりそうで交わらない両者が絶妙にシンクロした瞬間が『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』のハイライト!

 ビル・エヴァンスには自分の個性を薄めて「伴奏役」に徹する気などさらさらない。爽やかなストリングズに溶け込むわけでもなく,対立するわけでもなく,ただシンフォニーオーケストラと同じ時間,同じ場所で,互いの考えを共有しながら,同時に音を発しているだけ…。

 そう。『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』でのビル・エヴァンスは,いつも通りのビル・エヴァンスである。いつも通りにビル・エヴァンスが超然としている。

 シンフォニーオーケストラと共演しようとも,有名クラシック曲を演奏しようとも,やはりビル・エヴァンスビル・エヴァンスであった。ビル・エヴァンスをなめてはならない。

  01. GRANADAS
  02. VALSE
  03. PRELUDE
  04. TIME REMEMBERED
  05. PAVANE
  06. ELEGIA (ELEGY)
  07. MY BELLS
  08. BLUE INTERLUDE

(ヴァーヴ/VERVE 1966年発売/UCCU-9285)
(ライナーノーツ/ビル・エヴァンス,ルイス・フリードマン,藤本史昭,中山康樹)

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和泉 宏隆 トリオ / ビヨンド・ザ・リバー5

BEYOND THE RIVER-1 『BLUE IN RED』で同時期にT−スクェアを退団した本田雅人和泉宏隆だが,2人の卒業に対する印象は真逆…。
 そう。自らの意思ではなく「追い出された」本田雅人と,自らの意思で「飛び出していった」和泉宏隆のイメージがある。事の真相は定かではない(ということにしておこう)…。

 だから和泉宏隆の場合,そこまでして演り始めたピアノ・トリオなのに…。周りに迷惑をかけてまで始めたピアノ・トリオなのに…。これ位の出来だったら何で…。
 そんな思いがあったから,個人的に厳しい態度で和泉宏隆の新作を評価している自分がいた。和泉さん,心無い対応を本当にごめんなさい。

 しかし,そんな謝罪を必要としない大満足なアルバムが出た。和泉宏隆ピアノ・トリオによる『BEYOND THE RIVER』(以下『ビヨンド・ザ・リバー』)である。

 ついに好き嫌いを超えた部分で和泉宏隆名盤に出会えた「喜び」を感じた。「星4つ」で評価していた『LIGHTS IN A DISTANCE』と『A SQUARE SONG BOOK』には,それでも多少,贔屓目の部分があったように思う。

 ただし,名盤ビヨンド・ザ・リバー』にしても,管理人が和泉宏隆に当初期待していたピアノ・トリオ・アルバムとは随分違っていた。
 T−スクェアで得た「栄光と名声と高収入」の全てを振り捨ててまで独立した和泉宏隆に,例えば年棒20億円の提示を蹴ってまで広島東洋カープに復帰した黒田博樹の「男気」のようなものを期待していた。

 一から武者修行に出掛け,一日10時間ピアノを練習し“孤高の人”として,5年後にジャズ・シーンに華々しく再登場してくるような和泉宏隆の姿を想像していた。ここで再び和泉さん,無茶苦茶な想像を本当にごめんなさい。

 ズバリ『ビヨンド・ザ・リバー』で登場した“NEW・和泉宏隆”とは,実に柔らかな“ヒーリング・ピアニスト”であった。
 T−スクェア脱退直後の「気負い」など全く感じられない。それはそれは“清らかなピアノ”が響かせていく。今聴いているピアニストが誰なのかを意識することはない。ただただ気持ち良いピアノの音が流れていく。

BEYOND THE RIVER-2 シンコペーションでフレージングの流れを生み出し,川や風といった移ろうもののイメージを浮かべさせる“ヒーリング・ピアニスト”。
 優しく柔らかくて,流れるようで情緒的で,それでいて一本の筋が通っていて…。目を閉じると白銀の世界。あぁ,切ないほどに美しすぎます。

 これには本当に驚いた。和泉宏隆が弾きたかったピアノが,スーッと身体の奥に沁み渡る…。
 和泉宏隆が目指していたのはメリハリ命の“ジャズ・ピアニスト”ではなかった。浮かんでは消えて無くなるピアノのBGMに,自らの我を押し殺した“NEW・和泉宏隆”の真実を見る。

  01. Heart Land
  02. Northern Island Breeze
  03. GladioluS
  04. Moon Palace
  05. Eyes Of Flora
  06. Prelude
  07. Snow Flower
  08. Spiral Fusion
  09. Golden Land
  10. Time Remembered

(アンドフォレスト・ミュージック/&FOREST MUSIC 2008年発売/NNCJ-1014)

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デューイ・レッドマン〜フィーチャリング・ジョシュア・レッドマン / アフリカン・ヴィーナス4

AFRICAN VENUS-1 管理人にとってデューイ・レッドマンの存在が大きすぎる。
 何と言ってもデューイ・レッドマンは,管理人の愛するキース・ジャレットアメリカン・カルテットテナーサックス・プレイヤー。加えて,これまた管理人の愛するパット・メセニーにとっても『80/81』から推し量るにマイケル・ブレッカーと同格の位置にいる。

 …にも関わらず,世間での評価は余りにも低い。管理人とすればジャズの偉大なサックス奏者の歴史において“絶対に欠かすことのできない存在”であるが,世間的にはそうではないのだ。

 追い込まれた管理人は,デューイ・レッドマンの偉大さを語るために,反則とは知りつつも,オーネット・コールマンの右腕であった事実やジョシュア・レッドマンの父である事実についても伝えるのだが,一向に響かない。
 なぜなのだ。管理人だけがデューイ・レッドマンを「過大評価」しているのか? そうなのかもしれない。

 でもそれでいい。あのキース・ジャレットが自分のレギュラー・バンドでフロントを任せたサックス奏者はデューイ・レッドマンヤン・ガルバレクの2人だけ。個人的にはキース・ジャレットの絶頂期は,間違いなくアメリカン・カルテットでの活動であると信じている。
 だからデューイ・レッドマンなのである。管理人にとってデューイ・レッドマンの存在が大きすぎる。

 『AFRICAN VENUS』(以下『アフリカン・ヴィーナス』)は,デューイ・レッドマン晩年の日本企画盤。
 どうやらこの『アフリカン・ヴィーナス』。純粋にデューイ・レッドマンCDを作ろうとしたわけではなく,当時,話題沸騰中だったジョシュア・レッドマンを引っ張り出すための“バーター”としてのデューイ・レッドマンのリーダー・アルバムだったとは…。

 マジでショックである。デューイ・レッドマンの市場価値とはジョシュア・レッドマンの父としてだけ? なんだかなぁ。

AFRICAN VENUS-2 確かに『アフリカン・ヴィーナス』における,デューイ・レッドマンジョシュア・レッドマンの“親子共演”を聴き比べた限り,音楽的にはデューイ・レッドマンの「大負け」である。
( というか“影の主役”ジョシュア・レッドマンの吹く「王道」が素晴らしすぎる。ここでのジョシュア・レッドマンの「覚醒」ぶりはマイケル・ブレッカー並み! )

 ただし,根っ子の部分では,流石のジョシュア・レッドマンも「偉大なる父」を超えることができていない。これこそがキース・ジャレットが見ていたデューイ・レッドマンの本物であり,パット・メセニーが見ていたデューイ・レッドマンの本物であり,オーネット・コールマンが見ていたデューイ・レッドマンの本物なのであろう。

 ズバリ,デューイ・レッドマンの本物とは「妖しさ」である。どうにも「情緒不安定」なテナーサックスである。何を演りたいのか伝わりにくいユニークなフリー・ブローの“パッション”に持っていかれる。

  01. AFRICAN VENUS
  02. VENUS AND MARS
  03. MR. SANDMAN
  04. ECHO PRAYER
  05. SATIN DOLL
  06. TAKE THE "A" TRAIN
  07. THE TURNE AROUND

(ヴィーナス/VENUS 1993年発売/TKCV-79013)
(ライナーノーツ/大村幸則)

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デオダート / ツァラトゥストラはかく語り5

PRELUDE-1 デオダートの【ツァラトゥストラはかく語りき】を部屋で聴いていると,妻が「なんでこんなの聴いているの?」と尋ねてきた。そう。管理人の家庭では日常的に,ジャズフュージョンか,そうでなければラジオが流れている。
 映画にも関心の薄い妻にとって「2001年宇宙の旅」という言葉は出なかったが【ツァラトゥストラはかく語りき】が有名映画のサウンドトラックであることまでは識別できたのだろう。そうしてポツリとこう言った。「この曲,こんなにカッコ良かったっけ?」。

 そう。それなのだ。【ツァラトゥストラはかく語りき】と来れば「2001年宇宙の旅」ではないのだ。【ツァラトゥストラはかく語りき】の「王道」と来ればCTIなのだ。デオダートの【ツァラトゥストラはかく語りき】こそが最高にカッコイイ!
 ズバリ,本家以上に「宇宙の旅」している交響曲! TOMORINCHAN発進〜! GO(ガオォ)!

 【ツァラトゥストラはかく語りき】について語りたいことも,語らねばならないこともあくさんあるが,とにかくカッコイイ。その一言で全てを言い得てしまう“類まれなる大名演”。
 管理人の【ツァラトゥストラはかく語りき】収録のアルバム・タイトル『PRELUDE』(以下『ツァラトゥストラはかく語りき』)のレビューは以上である。

( ここから先は読んでも読まなくても構わない。ここから先は管理人からジャズフュージョン批評家たちへの反論を記すことにする )

 世評では【ツァラトゥストラはかく語りき】について,やれ「フュージョン以前のクロスオーヴァーの名曲」だの,やれ「ジャズ・アレンジされたクラシックの代表曲」なのだと語られているが,それは違うと思う。

 デオダートの【ツァラトゥストラはかく語りき】とリヒャルト・シュトラウス作曲の交響詩【ツァラトゥストラはかく語りき】を聴き比べてみると分かる。デオダートの【ツァラトゥストラはかく語りき】の中に登場するシュトラウスの【ツァラトゥストラはかく語りき】の原型は,冒頭のキャッチャーな「金管楽器の雄叫び」だけである。
 つまりデオダートは,印象に残る冒頭の部分だけを素材として,後は卓越したアレンジ能力を駆使して,ピッカピカのCTIフュージョンに大変身させているのだった。

 デオダート版【ツァラトゥストラはかく語りき】のアレンジの肝はビリー・コブハムの実にタイトなドラミングである。ビリー・コブハムの“エレクトリック”志向のジャズドラムがあればこそのスタンリー・クラークエレクトリックベースだろうし,ジョン・トロペイのロックなエレクトリック“カッティング”ギターの素晴らしさであろう。

PRELUDE-2 そこへ乗っかる,ラテン・フュージョンデオダートの優雅なエレピと,アイアート・モレイラレイ・バレットパーカッションの“華やかさ”はどうだ?
 加えて,電化マイルスウェザー・リポート,それからマハヴィシュヌ・オーケストラまでもを呑み込んだデオダートが“隠し味”で準備したホーンストリングスによる「オブラート」はどうだ?

 「キタ,キタ,キターッ」な感じで登場するパーカッション,そしてホーンストリングスシンフォニーに,デオダートの中の“荘厳な音絵巻”を強く感じ取る。

 そう。デオダートが『ツァラトゥストラはかく語りき』で見据えていたのは,世評で語られている「ジャズとクラシックの融合」というコマーシャルな側面などではない。
 デオダートのアイディアは他の多くのミュージシャンに盗まれてしまったが,それらのほとんどはイミテーションであり,コピーの域にも達してはいない。

 ズバリ『ツァラトゥストラはかく語りき』の真髄とは,ジャズ,ロック,シンフォニーが「渾然一体」となった快感のサウンドであって,どんな切り口で聴こうとも,とにかく気持ちいい&カッコイイ。
 デオダートのサウンド・マジックよ,永遠なれ!

PS 『ツァラトゥストラはかく語りき批評=軸となる【ツァラトゥストラはかく語りき】のトラック批評となってしまったが,残る5トラックも【ツァラトゥストラはかく語りき】に負けず劣らずの名演集。繰り返すが,全曲がとにかく気持ちいい&カッコイイ。

  01. ALSO SPRACH ZARATHUSTRA (2001)
  02. SPIRIT OF SUMMER
  03. CARLY & CAROLE
  04. BAUBLES, BANGLES AND BEADS
  05. PRELUDE TO AFTERNOON OF A FAUN
  06. SEPTEMBER 13

(CTI/CTI 1973年発売/KICJ-8218)
(ライナーノーツ/豊島としき)

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フライド・プライド / MUSICREAM4

MUSICREAM-1 なんだかんだで『THAT’S MY WAY』で飽きがきて,5thTWO,TOO』をパスしたフライド・プライド
 6thMUSICREAM』では何と!邦楽のカヴァーが入っているとの情報につられてフラゲでGET(でも一番のお目当てはシャカタクの【NIGHTBIRDS】だったりする)。

 ふむふむ。やっぱりフライド・プライドの手にかかれば日本語も英語も区別なし。原曲がジャズでもフュージョンでもJ−POPでも洋楽でもR&Bであろうとも,全てを呑み込む「フライド・プライドオリジナル」の音楽が展開されている。

 『MUSICREAM』も“バッチリ”であった。でも正直,もうお腹一杯な気持ちになる。2,3回聴けばもう十分な気がする。
 振り返れば,現在のフラプラで演れるアイディアは「コンコード三部作」で全て演り尽くしてしまったように感じる。

 『HEAT WAVE』の時点で既に「最小公倍数が最大公約数」的なフラプラ特有の表現の限界にまで達していた。デュオという枠組みの中で,どこまで音楽性を拡げられるのか? 毎日が己(フラプラ)との“消耗戦”だったのだろう。

 フラプラ・ファンとしては,胸が締め付けられる思い出の『MUSICREAM』。
 「唯一無二」の存在であるがゆえに,レコーディングを重ねる度に新鮮味が失われてゆく…。「フライド・プライドオリジナル」の魅力が薄れてゆく…。

 『MUSICREAM』での「カンフル剤」=邦楽カヴァーはもうしばらくは使えない。
 残された道はオリジナル曲ということになるのだが,世界最高峰のカヴァー・アレンジを封印するのは“諸刃の剣”で悩ましい。

MUSICREAM-2 個人的には横田明紀男ギターがメロを弾きすぎていることが気掛かりである。もっとJAZZYにギターを弾きまくってほしい。
 メンタルを鍛え直して?もう一度,音数の多い“多弁な”リーダーに戻ってほしい。

 管理人の好きなフライド・プライドとは「ジャズ・ユニット」として“せめぎ合っている”フライド・プライドである。
 お洒落に聴かせるヴォーカル・ナンバーは『MUSICREAM』で終わりにしてくれたなら…。

 それにしてもSHIHOのドアップのジャケ写の大インパクト! こちらのビューティー路線は嫌いではありません…。

  01. CAN'T TAKE MY EYES OF YOU
  02. リバーサイド・ホテル
  03. 接吻 KISS
  04. Nightbirds
  05. Words With Wings
  06. Get Down To Me
  07. Midas Touch
  08. 永遠に
  09. Higher Ground
  10. La La Means I Love You

(ビクター/JVC 2006年発売/VICJ-61356)

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デヴィッド・T・ウォーカー / ドリーム・キャッチャー5

DREAM CATCHER-1 「なんだかノリに乗っているなぁ。『デヴィ爺』が若い!」。
 これが『DREAM CATCHER』(以下『ドリーム・キャッチャー』)を聴いた管理人のファースト・インプレッションであった。

 デヴィッド・T・ウォーカーの愛称とは「デヴィ爺」であるが“じいさん”呼ばわりするのはデヴィッド・T・ウォーカーが百戦錬磨の“いぶし銀”だから!
 真実のデヴィッド・T・ウォーカーとは“じいさん”とは対極にいる,さながら“永遠のギター・キッズ”! デヴィッド・T・ウォーカーに似つかわしい本来の愛称とは「デヴィ爺」改め「デヴィ造」なのであろう。 ← 造は若造の造。

 『ドリーム・キャッチャー』でのデヴィッド・T・ウォーカーこそが,実に楽し気にギターを弾く「デヴィ造」である。自分の大好きなジャズ系やR&B系,そしてブラック・コンテンポラリーなナンバーを「愉快な仲間たち」と自由気ままに演奏している。
 その意味で『ドリーム・キャッチャー』こそが,デヴィッド・T・ウォーカーにとっての“夢のアルバム”。だから『DREAM CATCHER』なのだろう。

 デヴィッド・T・ウォーカーは,ギター・ピックの角ではなく平らな背の部分を使用する。まるでギターではなくハーブでも奏でているかのような,時に激しくもとことん優しく“ギターを歌わせる”プレイ・スタイルが,デヴィッド・T・ウォーカーの“独特な音空間”を生んでいる。
 物腰柔らかな人柄がそのまんま音として出て来るタイプ。どんだけギターが上手いんじゃい!

 『ドリーム・キャッチャー』は,フュージョンを基本としたファンキー寄りのアルバムであって,デヴィッド・T・ウォーカーの“メロウ”が堪能できるギターフュージョン
 “本家”クルセイダーズのメンバーが脇を固めた前作『...FROM MY HEART』以上に“クルセイダーズっぽく”聴こえるのは,それだけクルセイダーズへの「デヴィ爺」の貢献が顕著な証し。

DREAM CATCHER-2 ズバリ,デヴィッド・T・ウォーカーというギタリストは,ファンキーな歌ものでこそ魅力を最大限に発揮する“心を揺さぶる”セッションギタリスト
 デヴィッド・T・ウォーカーの感情の噴出が,ギターからバンドへ,そしてリスナーへと伝播していく「感動の渦」…。

 デヴィッド・T・ウォーカーの場合も,きっかけはラリー・カールトンと同じ。クルセイダーズ「さまさま」である。
 ある意味,人気ロック・バンドのスーパー・ギタリストとは対極にいたはずの「黒子」のセッションギタリストたちがこれだけの人気を博すとは,いい時代になったものだ。

PS さすがに今ではそう思わないが,メディアにデヴィ夫人が露出し始めた頃のこと,デヴィ夫人の文字を見る度に「デヴィ爺」の夫人を想像してしまってニヤニヤするのが常でした。読者の皆さんの中にも?

  01. HEALING WHEELS
  02. AN-NOOR
  03. DREAM CATCHER
  04. THE BEST I'VE GOT
  05. STORYTELLERS
  06. TIME OF STILLNESS
  07. THE ONE
  08. SPIRITUALLY DRESSED
  09. RADIUS

(江戸屋/EDOYA 1994年発売/BVCM-35166)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/デヴィッド・T・ウォーカー,山岸潤史,ウエヤマシュウジ)

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フライド・プライド / THAT'S MY WAY4

THAT'S MY WAY-1 フライド・プライドとは,ヴォーカルSHIHOギター横田明紀男が組んだ「ジャズ・ユニット」なのだが,実際にはここに3番目のメンバーが加わっている。
 例えば,パーカッションNOGERAMEGUTOMMYシーラE.…。

 しかし,パーカッションが加わろうとも,フライド・プライドはあくまでもフライド・プライドのままである。
 そんなフライド・プライドが「ジャズ・ユニット」から「ジャズ・バンド」へと表現を拡大させて,新たに“世界一”を目指したのが,4thTHAT’S MY WAY』である。

 「ジャズ・ユニット」のフライド・プライドが,ピアノアコーディオンギル・ゴールドスタインヴィブラフォンマイク・マイニエリベースマーカス・ミラー高水健司ドラム村上“ポンタ”秀一等の「世界の猛者」たちの“GROOVE”を迎え撃つ!

 そう。世界最強の“GROOVE”を自らの体内に取り込もうとするのではなく,バンド編成を拒否したかのようなヴォーカルギターが素晴らしい。
 ズバリ『THAT’S MY WAY』の真実とは,フライド・プライドが考える「攻めのジャズ」なのであろう。

 横田明紀男ギターが,いつもの「裏メロ&リズム」の“超絶技巧”から解放されて「滅多に聴けない!」ストレートにSHIHOヴォーカルとユニゾンする場面が多いのが個人的には『THAT’S MY WAY』の大収穫である。

 しか〜し「攻めのジャズ」を志向した『THAT’S MY WAY』では,フライド・プライドフライド・プライドのままであり続ける,のは難しかった。従来の絶妙のバランスを気負いすぎて崩してしまったか?

THAT'S MY WAY-2 ギル・ゴールドスタインの演奏もマイク・マイニエリの演奏もマーカス・ミラーの演奏も高水健司の演奏も村上“ポンタ”秀一の演奏も大好きなのに,肝心要のSHIHOヴォーカル横田明紀男ギターが“空回りして聴こえる”のが残念である。

 管理人の結論。『THAT’S MY WAY批評

 『THAT’S MY WAY』でのバンド編成へのチャレンジは,フライド・プライドの「第二章」への模索だったと思うのだが,どうにも散漫な印象が拭えない。
 いつもの「最小公倍数が最大公約数」的なフラプラ“らしい”演奏での「第二章」を待っている。

  01. That's My Way
  02. Ribbon In The Sky
  03. Every Road Leads To You
  04. Between The Sheets
  05. Magic Eyes
  06. Universality
  07. Unbreakable
  08. Go Away Little Boy
  09. Moonlight
  10. Blackout
  11. Imagine

(ビクター/JVC 2004年発売/VICP-62778)
(ライナーノーツ/皸羶成)

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デヴィッド・T・ウォーカー / フロム・マイ・ハート5

...FROM MY HEART-1 デヴィッド・T・ウォーカーである。彼のファンは愛情を込めて「デヴィ爺」と呼んでいる。今回はそんな「デヴィ爺」についてのお話。

 本当はデヴィッド・T・ウォーカーギターが大好きなのだが,好きなギタリストの名前を聞かれると,いつもパット・メセニーやらジョン・スコフィールドやらビル・フリゼールやらリー・リトナーやらラリー・カールトン辺りのビッグでメジャーなアルバムの話に終始しつつ,最後に付け足し程度でランクインされてしまうのがデヴィッド・T・ウォーカー

 ただし,一旦,デヴィッド・T・ウォーカーの話題になると,そこからが長い。出るわ出るわ,延々と「デヴィ爺」の魅力について仲間内で盛り上がる。そんな不思議なセッションギタリストデヴィッド・T・ウォーカーなのである。

 まぁ,職人なんだよなぁ。いぶし銀なんだよなぁ。そんな魅力が分かる人には分かるし,分からない人にはさっぱりわからない。
 ギター・ヒーロー・タイプではなく,リード・ギターを弾くこともなく,サイド・ギターなのに,その音楽に欠かすことのできない“メロウなギタリスト”。

 そう。管理人がお題として「デヴィ爺」について論戦する場合は,デヴィッド・T・ウォーカーの万華鏡的なギターの魅力を“メロウ”の一言で押し通すことに決めている。
 デヴィッド・T・ウォーカーの特徴は,とにかく空気感にある。空気を切り裂くのではなく,空気を変えるのでもなく,空気に乗ってしまうギターを弾く男。ナチュラルで人肌的な温もりを感じるのだ。そして色気がある“メロウ”。

 『...FROM MY HEART』(以下『フロム・マイ・ハート』)を聴いてみてほしい。管理人の「デヴィ爺」への主張が,ほんのちょっとでも伝わると思うから…。

 『フロム・マイ・ハート』での「デヴィ爺」のギターが“笑顔が伝わってくるような”ギターなのである。軽快なフュージョン・サウンドが原因ではない。とにかく気心の知れた仲間とのセッションが“楽しくてしょうがない”感じのギターなのである。

...FROM MY HEART-2 こんなギターをサイドで弾かれたらたまらないだろうなぁ。ゲスト陣もリラックスして,知らず知らずに自分の全てを出し尽くしたに違いない。
 デヴィッド・T・ウォーカーの独特のタイム感やコードプレイの味が出ている。“メロウ”の味が沁みている。

 凄い小技が効いているのだろう。何だか分からない隠し味が仕込まれているのだろう。聴いていて“感触の残る”ギターである。
 でもそんなの一切気にならない。「この小技は,この隠し味は,この感触は」の話はナシにしよう。四角四面に分析しながら聴くなんて勿体なさすぎる。

 そう。『フロム・マイ・ハート』の聴き所は,デヴィッド・T・ウォーカーの“HEART”である。デヴィッド・T・ウォーカーが“心から捧げた”ギターの優しさを感じてほしい。

  01. THANKS TO YOU
  02. MEMORY AND THE REALITY
  03. A PLACE FOR US
  04. THE SIDEWALK TODAY
  05. EMPATHY SYSTEM
  06. SHARING WALLS
  07. IN LOVE AND LIFE
  08. SPEAK OF BALANCE
  09. FROM MY HEART

(江戸屋/EDOYA 1993年発売/BVCM-35165)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/デヴィッド・T・ウォーカー,吉成伸幸)

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フライド・プライド / ヒート・ウェイヴ5

HEAT WAVE-1 フライド・プライドの“最高傑作”が『HEAT WAVE』(以下『ヒート・ウェイヴ』)である。
 いいや,それだけではない。『ヒート・ウェイヴ』こそが「ヴォーカルギタージャズ・ユニット」の“最高傑作”の1枚でもある。

 タック&パティを取るか,フライド・プライドを取るかは,もはや好みの問題である。そう。『ヒート・ウェイヴ』でフライド・プライドタック&パティの肩を並べている。
 次作『THAT’S MY WAY』で方向転換しなければタック&パティを間違いなく越えていたであろう。

 それ程管理人が入れ込む理由は『ヒート・ウェイヴ』が「ジャズ・ユニット」という枠を越え,ジャンルとしてのジャズも越え,フライド・プライドの輝く個性が鳴っているからである。

 『ヒート・ウェイヴ』の選曲を眺めると,CDショップで敢えてジャズ・コーナーへ置く必要などない。ポップスの売り場にもロックの売り場にも置ける。
 でもでも演奏を聴いてしまうと,絶対にジャズ・コーナーに置いてもらわないといけない。「スゴテク」から来るレパートリーの幅と高さは関係ない。つまりフライド・プライドは「何を演ってもフライド・プライド」になってしまう。これが実感できるのが凄いと思う。

 元来のジャズが持っていた自由な発想,心が欲する最高に気持ち良いアレンジが溢れ出ている。その意味では『ヒート・ウェイヴ』のフライド・プライドは「ジャズ・ユニット」ではなく「2人ジャズ・オーケストラ」している。つまりスケールの大きなジャズ演奏なのである。

 1stFRIED PRIDE』〜2ndSTREET WALKING WOMAN』とコンビネーションを高めてきて,迎えた3rdヒート・ウェイヴ』では,ヴォーカルSHIHOギター横田明紀男が,カッコイイと思うフレーズを互いに“ぶつけ合っている”。
 SHIHO横田明紀男の音楽的な信頼関係があればこその“我の張り合い”がとにもかくにもカッコイイ。

HEAT WAVE-2 SHIHOが「やってみろよコノヤロー!」と横田明紀男に罵声を浴びせれば,横田明紀男SHIHOに「とうとう本性を現しやがったな,この雌狐が!」とぶつかり合っている?

 そう。『ヒート・ウェイヴ』こそがSHIHO横田明紀男の熱き血潮の“最高傑作”。「鉄は鉄によって研がれる」を地で行く,SHIHO横田明紀男の「研ぎ合い」の美しさに「血湧き肉躍る」〜。

 「ヴォーカルギタージャズ・ユニット」としての「シンプルさ」がフライド・プライドの“弱みではなく強み”である。音楽ってこんなにも素晴らしい。

  01. SMOKE ON THE WATERSMOKE ON THE WATER
  02. MY ROMANCE
  03. THE SECOND STAR TO THE RIGHT
  04. COME TOGETHER
  05. MY CHERIE AMOUR
  06. FREE
  07. ALFIE
  08. NOW AND FOREVER
  09. FANTASY
  10. HUSH-A-BYE
  11. YOUR LOVE
  12. YESTERDAY

(コンコード/CONCORD 2003年発売/VICJ-61117)
(ライナーノーツ/皸羶成)

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チャールス・ロイド・カルテット / ドリーム・ウィーヴァー4

DREAM WEAVER-1 ジョン・コルトレーンから出発したチャールス・ロイドテナーサックスが,その当時まだ無名だったピアノキース・ジャレットベースセシル・マクビードラムジャック・デジョネットの個性をまとめてオリジナリティを確立した1枚が『DREAM WEAVER』(以下『ドリーム・ウィーヴァー』)。

 『ドリーム・ウィーヴァー』の決めごとの少ない演奏スタイルは,ジョン・コルトレーンモードジョン・コルトレーンフリージャズジョン・コルトレーンの民族音楽を,キース・ジャレットセシル・マクビージャック・デジョネットに“自由に解釈させるための仕掛け”である。

 これってチャールス・ロイドにとっては,最高に楽しいセッションでもあり,最高に苦しいセッションでもある。
 なぜならば4人4様の考える「コルトレーン・サウンド」は不安定そのもの。チャールス・ロイドカルテットが「卵の殻で海を渡」ろうとした実験作が『ドリーム・ウィーヴァー』の真実なのだと思う。

 『ドリーム・ウィーヴァー』を称して“フリー・ジャズのロック化”という言葉が使われるが,確かにチャールス・ロイドがリードした音楽手法はジャズの本流から距離を置いている。
 内面から迸るアドリブを中心に据えるのではなく,キース・ジャレットセシル・マクビージャック・デジョネットといった新世代のロック感覚を音楽の中心に据えている。

 うん。面白い演奏である。ただし『ドリーム・ウィーヴァー』の本質は「時代の音楽」であって,かつてジョン・コルトレーンが切り開いていた“新しいジャズ”ではない。

 “神童”キース・ジャレットフィーチャリングしたピアノソロの「おおっ!」という驚き。
 キース・ジャレットピアノを聴き漁ってきた耳からすると『ドリーム・ウィーヴァー』のピアノが別種類。ロック・ファンを魅了するアドリブ・ラインはチャールス・ロイドの功績として讃えられるべきであろう。

DREAM WEAVER-2 ただし,ロックに寄ったキース・ジャレットは評価できない。表面的な変化を追いかけるだけでは感動が伝わらない。キース・ジャレットとて「内なる衝動」のないピアノは“お飾りファッション”にすぎないと思う。

 そう。『ドリーム・ウィーヴァー』の真実とは,当時のフラワームーブメントとかヒッピーといった“時代の波に乗っかった!フリー・ジャズのロック化”に違いない。もっと掘れれば歴史的名盤…。

  01. AUTUMN SEQUENCE
     a) AUTUMN PRELUDE
     b) AUTUMN LEAVES
     c) AUTUMN ECHO
  02. DREAM WEAVER
     a) MEDITATION
     b) DERVISH DANCE
  03. BIRD FLIGHT
  04. LOVE SHIP
  05. SOMBRERO SAM

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1966年発売/WPCR-27030)
(ライナーノーツ/ジョージ・アバキャン,後藤誠)

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フライド・プライド / ストリート・ウォーキング・ウーマン5

STREET WALKING WOMAN-1 1stFRIED PRIDE』のような横田明紀男の「バカテク+SHIHOとのコンビネーション」を期待して買った,フライド・プライド2ndSTREET WALKING WOMAN』(以下『ストリート・ウォーキング・ウーマン』)にヤラレテしまった。

 フライド・プライドの魅力はテクニックではなかった。フライド・プライドの魅力はハートである。ソウルである。感情のアタックである。ガッツである。
 そう。フライド・プライドとは「気合いと根性」の「ジャズ・ユニット」なのである。

 もはやミス・タッチとかはお構いなし。感情の赴くままにヴォーカルギターが“シャウト”している。そして,その横田明紀男SHIHOの“シャウト”のタイミングが,時に同じく,時にバラバラでジャズを感じさせてくれる。
 なんだか突然「ヘタウマ」になった感のあるSHIHOヴォーカルが心に入ってきてヤラレテしまったのだ。

 ジャズ・ファンたるもの,メロディーよりもアドリブ目当てなのだけど,アドリブの楽しさを知るために,知識としての原曲のメロディー,そして歌ものなら歌詞も見聞きする。
 ただし,インスト・ファンにとって歌ものは何度聴いても雰囲気で終わる。細かな歌詞の意味までは気にしていない。サックスピアノが「カッコヨク歌い上げれば」それでいいのである。ジャズ・ファンにとっての元ネタはあくまで「資料」である。

 ゆえにSHIHOに限らず,基本的にジャズ・ヴォーカルとは,管理人にとっては「楽器の1つ」である。声帯を歪ませて“シャウト”する「楽器の1つ」である。
 だからSHIHOの突然の「ヘタウマ化」に戸惑った。いつもは「楽器」として聴いているジャズ・ヴォーカルが,ダイレクトに歌詞を心に届けてきた。

 記憶が定かではないのだが,個人的にライナーノーツの歌詞カードを真剣に読み返したのは『ストリート・ウォーキング・ウーマン』が初めての経験だと思う。

 たくさん聴いてきたはずの【クロス・トゥ・ユー】【イット・ドント・ミーン・ア・シング〜スイングしなけりゃ意味ないね】【エブリシング・ハプンス・トゥー・ミー】【イフ・アイ・ワー・ベル】【マイ・ファニー・バレンタイン】【ムーン・リバー】【ワッツ・ゴーイング・オン】【バーニン・アップ・ザ・カーニバル】って,実はこんな歌だったんだ〜。

STREET WALKING WOMAN-2 とにかくフライド・プライドは“リーダー”横田明紀男のワンマン・ユニットではない。フライド・プライドには“磨けば光る”SHIHOがいる。

 フラプラ贔屓としては,この認識を『ストリート・ウォーキング・ウーマン』の時点で持てたことがあとあと大きい。
 横田明紀男・偏重主義ではフライド・プライドをここまで楽しめない。ジャズ・ヴォーカル・楽器主義ではメロディーを,そしてアドリブをここまで楽しめてはいない。

  01. STREET WALKING WOMAN
  02. CLOSE TO YOU
  03. IT DON'T MEAN A THING
  04. EVERYTHING HAPPENS TO ME
  05. NORWEGIAN WOOD
  06. IF I WERE A BELL
  07. MY FUNNY VALENTINE
  08. ALMAZ
  09. MOON RIVER
  10. SUPERSTITION
  11. WHAT'S GOING ON
  12. BURNIN' UP THE CARNIVAL

(コンコード/CONCORD 2002年発売/VICJ-60965)
(ライナーノーツ/皸羶成)

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チャールス・ミンガス / クンビア&ジャズ・フュージョン5

CUMBIA & JAZZ FUSION-1 フュージョンという音楽は,一般的に「ジャズとロックとの融合」を意味しているが,チャールス・ミンガスの『CUMBIA & JAZZ FUSION』(以下『クンビア&ジャズ・フュージョン』)は「ジャズクンビアとの融合」。すなわち,ジャズとアフロ・アフリカンやトロピカルでネイティヴな音楽との融合を意味する。
 そう。『クンビア&ジャズ・フュージョン』によって,真の「ジャングル・サウンド」が登場したのである。

 個人的には『クンビア&ジャズ・フュージョン』を聴いていると,どうしてもウェザー・リポートの『ブラック・マーケット』を連想してしまう。
 あのチャールス・ミンガスジョー・ザビヌルに影響されている。

 とは言え,そこはチャールス・ミンガス。ただでは終わらない。『クンビア&ジャズ・フュージョン』は『ブラック・マーケット』へのアンサー・アルバムであり,メインストリームをフュージョンに奪われたジャズ・コンボ側からのフュージョン・グループへの回答なのである。

 『クンビア&ジャズ・フュージョン』には,演奏時間27分と22分の2曲の大曲が収録されているのだが,2曲目の【MUSIC FOR“TODO MODO”】はイタリア映画「トド・モード」のテーマ曲ゆえ,本来のテーマ「クンビア」とは無関係である。

 ただし,管理人的には,この2曲が揃っての『クンビア&ジャズ・フュージョン』の“破壊力”なのである。チャールス・ミンガスの音楽実験がトロピカルに向いたのが【CUMBIA & JAZZ FUSION】であって,ロマンティックに向いたのが【MUSIC FOR“TODO MODO”】であって,どちらも同じく「ジャングル・サウンド」していると思う。

 【CUMBIA & JAZZ FUSION】も【MUSIC FOR“TODO MODO”】も共に“長尺になるべくしてなった”長編エンターテイーナー。曲の途中途中で,その前の仕掛けが利いた見事な展開で,全てに無駄がない。
 果たして,チャールス・ミンガスは,ここまで細かな楽譜を準備していたのだろうか? 曲想の変化に合わせて積み重ねられたアドリブが,リスナーを「未曾有のジャングル・サウンド」へと誘っていく。

 そうしてチャールス・ミンガスが最後に辿り着いたのは,音楽のユートピア,音の桃源郷である。まるで“心の故郷”にでも帰って来たかのような,懐かしい感動がある。
 この辺りの快感の種類がウェザー・リポートの『ブラック・マーケット』と同じ系統なのである。

 ジョー・ザビヌルのようにエレクトリック・ジャズへとは向かわずに,それでもなお,新しいジャズの形を追い求めている“孤高の”チャールス・ミンガスが最後に行き着いた音世界は,最高にHAPPYな楽園サウンドであった。

CUMBIA & JAZZ FUSION-2 チャールス・ミンガスの人生は闘争そのものであった。ウッド・ベース一本で黒人差別の世の中と闘ってきた。そんなチャールス・ミンガスが死の目前に作り上げた『クンビア&ジャズ・フュージョン』では,音楽から怒りの感情が消えている。

 『クンビア&ジャズ・フュージョン』からは,怒りではなくチャールス・ミンガスの“静かなる笑い”が聴こえてくる。怒りでも悲しみでもなく,その先にある“達観した笑い”である。
 そう。チャールス・ミンガスの「ジャングル・サウンド」が,ついに目標であったデューク・エリントンを捉えている。

 先に『クンビア&ジャズ・フュージョン』は,ジョー・ザビヌルに対するチャールス・ミンガスからの回答と書いた。この言葉に二言はない。
 しかし『クンビア&ジャズ・フュージョン』の真実とは,チャールス・ミンガスが,どうしても思いを届けられずにいた,敬愛するデューク・エリントンの「ジャングル・サウンド」への回答でもあったと思う。

 チャールス・ミンガスの晩年は幸福であった。管理人はそう思うことにしている。チャールス・ミンガスよ,永遠なれ!

  01. CUMBIA & JAZZ FUSION
  02. MUSIC FOR "TODO MODO"

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1978年発売/WPCR-27254)
(ライナーノーツ/大村幸則)

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フライド・プライド / FRIED PRIDE4

FRIED PRIDE-1 “類まれなる歌唱力”を持つヴォーカリストSHIHOと“超絶技巧派”ギタリスト横田明紀男による「日本のタック&パティ」ことフライド・プライド
( タック&パティを知らない読者の皆さんはドリカムのようなものと思ってください )

 フライド・プライドのメインは,タック&パティパティ・キャスカートで,ドリームズ・カム・トゥルーが吉田美和であるように,ヴォーカリストSHIHOである。
 とにかく,SHIHOの「尖がっているのにシルキーでソウルフルな」ジャズヴォーカルが素晴らしい。

 でもタック&パティタック・アンドレスで,ドリームズ・カム・トゥルーが中村正人であるように,フライド・プライドの音楽を裏で実際に回しているのは“リーダー”横田明紀男“その人”である。

 そもそも,ヴォーカリストギタリストによるユニットではギタリストの負担が大きい。まだポップスやロック系の弾き語りならまだしもフライド・プライドが演奏するのはジャズである。

 歌伴としてのカッティング,バッキングに,間奏でのギターソロではアドリブまで披露する。基本的にはコード楽器としてリズムをキープしつつ,それでいて歌と絡みつつ,ヴォーカリストよりも前に出ない。
 大所帯のギター・ヒーロー役よりも敷居が高いのが「ジャズ・ユニットのギタリスト」なのだと思う。

 フライド・プライド1stFRIED PRIDE』を聴いていると,横田明紀男の「苦心の跡」が色濃い。
 フライド・プライドの場合,SHIHOの表現力が,2nd3rdと成長するにつれ,横田明紀男ギターがシンプルになっていく。

FRIED PRIDE-2 その意味で『FRIED PRIDE』の横田明紀男が,テクニック的には一番であろう。SHIHOの右へ左へ,SHIHOの前へ後ろへ,大忙し!

 SHIHOヴォーカルを先導する“アクロバティックな”ギターの動きを追いかけていると,SHIHOとの連動というよりはSHIHOを置き去りにする横田明紀男の“超絶技巧”にどうしても耳が行く。
 横田明紀男の突出に「ジャズ・ユニット」というよりも,ヴォーカルギターが別々のブースでレコーディングした雰囲気を感じたりして…。辛口ですみません…。

 とにもかくにも“ジャズ・ギタリスト横田明紀男“その人”を聴きたいのなら『FRIED PRIDE』を聴け〜!
 横田明紀男の多芸ぶりには,ただただ「スゲェー」!

  01. Love For Sale
  02. If
  03. Lately
  04. The Man I Love
  05. 'Round Midnight
  06. Morning Must Come
  07. Louisiana Sunday Afternoon
  08. 'S Wonderful
  09. Jumpin' Jack Flash
  10. Calling You
  11. Paradise

(コンコード/CONCORD 2001年発売/VICJ-60820)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/悠雅彦)

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デヴィッド・サンボーン / タイム・アンド・ザ・リヴァー4

TIME AND THE RIVER-1 フュージョン時代のデヴィッド・サンボーンが大好きなファンとしては「デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー」の15年振りとなるコラボレーションTIME AND THE RIVER』(以下『タイム・アンド・ザ・リヴァー』)にニンマリ。

 VERVEの2作とDECCAの2作が「シリアス&ヴィンテージ」路線だったから,待望の“売れ線”が聴けるとあって,フラゲでGETしたその日は『タイム・アンド・ザ・リヴァー』を10回連続で聴き続けた。
 デヴィッド・サンボーンの“泣きのブロー”にマーカス・ミラーの“ドンシャリ”なジャズベが最高に似合っている。やっぱりデヴィッド・サンボーンはこうでなくっちゃ…。
 15年振りの“ファンキー・サンボーン”の復活に一人悦に入ったものだ。数日後に『PEARLS』を聴き返してみるまでは…。

 まぁ,昔のデヴィッド・サンボーンを聴きたくなって選んだのが,デヴィッド・サンボーンの中で“一番煌びやかな”『PEARLS』だったのが運のつき。
 『タイム・アンド・ザ・リヴァー』のデヴィッド・サンボーンアルトサックスの音色が『PEARLS』と比べて,くすんでいる。濁っている。荒れている。
 フレージングが“サンボーン節”のままだったから気付かなかったが,これはデヴィッド・サンボーンの枯れではない。「栄枯盛衰」から来たすさみのように感じてしまった。

 そう。『タイム・アンド・ザ・リヴァー』における「デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー」復活の真実とは,デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラーに「HELP」を求めたアルバムである。
 この視点でマーカス・ミラーの『AFRODEEZIA』を聴き直してみてほしい。『タイム・アンド・ザ・リヴァー』のサウンド・スケッチは『AFRODEEZIA』のそのまんま〜。

 過去に『INSIDE』で,マーカス・ミラーに主導権を握られたのがきっかけで袂を分けたはずだったのに,あのマーカス・ミラーのサウンドがどうしても忘れらないデヴィッド・サンボーンが,マーカス・ミラーの出した意見を丸呑みしてまで「デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー」の復活にこだわった。そんな流れ?

 デヴィッド・サンボーンにとってはモデル・チェンジを求められた15年であったが,マーカス・ミラーにとっては“天才”に磨きをかけた15年であった。
 
TIME AND THE RIVER-2 ズバリ『タイム・アンド・ザ・リヴァー』は,マーカス・ミラーが『AFRODEEZIA』で追求した「アフリカ路線」の続編である。
 極論を言えば,基本,同じサックス奏者のアレックス・ハンを「デヴィッド・サンボーンに差し替えただけ」である。

 『AFRODEEZIA』でアレックス・ハンが表現できなかったサックスを『タイム・アンド・ザ・リヴァー』でデヴィッド・サンボーンを使って表現している。
 くすんで,濁って,荒れて,すさんだ音を“苦味”としつつ,デヴィッド・サンボーンの体内に残された“旨味”を限界まで引き出している。マーカス・ミラーの「流石の仕事ぶり」である。

 そんなマーカス・ミラーが「山」と問えば,これまたデヴィッド・サンボーン的確に「川」(『TIME AND THE RIVER』)と答えている。
 「デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー」の夢のコラボ・アゲインは,何年間が空いたとしても,一音出した瞬間に“あの頃の2人に”戻れるんだなぁ。
 デヴィッド・サンボーンアルトサックスが「川」の流れのようにマーカス・ミラーの“心のヒダ”に流れていく。

 漢字の「川」を電話等で区別するために発音する→「三本川」→「サンボーン川」→アルバム・ジャケットがオツである。

  01. A LA VERTICALE
  02. ORDINARY PEOPLE
  03. DRIFT
  04. CAN'T GET NEXT TO YOU
  05. OUBLIE MOI
  06. SEVEN DAYS SEVEN NIGHTS
  07. WINDMILLS OF YOUR MIND
  08. SPANISH JOINT
  09. OVERTURE (from The Manchurian Candidate)
  10. DAYDREAMER
  11. LITTLE CHURCH

(ビクター/JVC 2015年発売/VICJ-61711)
(ライナーノーツ/佐藤英輔)

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渡辺 貞夫 / ナチュラリー4

NATURALLY-1 『NATURALLY』(以下『ナチュラリー』)が泣ける。2重の意味で泣ける。

 1つ目の涙は「絶賛の涙」である。
 渡辺貞夫アルトサックスこそが「世界一」である。こんなにも「美しく・優しく・温かい」アルトサックスは世界中を探し回っても見つからない。

 個人的には渡辺貞夫の音楽があれば何があっても生きていける。本気でそう思う。これまでのナベサダのアルバムは全部好きだ。そんな思いを持って聴いた『ナチュラリー』。1曲目の【NATURALLY】を聴いただけで涙が溢れてくる。そしてアルバムを全部聴き終えるまで,ずっと涙が止まらない。

 では読者の皆さんに『ナチュラリー』を奨めたいか,と問われればそうでもない。恐らく,他の音楽ファンの涙腺はゆるくならないかもしれないから。
 管理人と同じ経験ができる人とは,これまでの人生をずっと渡辺貞夫と共に生きてきた人だけなのだと思う。ずっとナベサダと時を過ごしてきたから,一音聴いただけで感動してしまう。渡辺貞夫の“今”が聴こえてくるからだ…。

 まだまだナベサダの体調は良さそうだ。いつもと変わらぬナベサダの音色を確認できて安心する。その上で,今までとは違ったナベサダを打ち出そうとしている姿勢に泣けてくる。
 「貞夫さん,マイペースで大丈夫ですから。そんなに飛ばさなくて大丈夫ですから。もう十分に満足していますし,心から感動しています。感謝しています」。

 2つ目の涙は「悲しみの涙」である。こちらは実際に涙することはないが“心の涙”ということで…。
 渡辺貞夫の老いを初めて,証拠として目のあたりにしてしまった。初めて直視させられてしまった。親の老いた姿を見た時の思い出とと被ることがあって…。

 管理人の知る渡辺貞夫とはオリジナル曲の制作にこだわり続ける男である。勿論,カヴァー曲も演奏する。有名スタンダード曲を取り上げ,自分の感じたままに新鮮なアレンジを施す渡辺貞夫も大好きである。

 それがどうだろう。『ナチュラリー』の【WATER COLORS】と【SPRING】に驚いた。
 何と!【WATER COLORS】は,ほぼ【MY DEAR LIFE】。【SPRING】は,ほぼ【TIMES WE SHARED】。あれ程「オリジナルオリジナル」と連呼してきた渡辺貞夫もついに…。

NATURALLY-2 だから管理人は思う。全てのナベサダ・ファンは『ナチュラリー』を聴くべきだと強く思う。
 『ナチュラリー』には,若い頃のナベサダはいない。でも今のナベサダがいる。老いを自覚し始め「自分の音と懸命に闘っている」ナベサダアルトサックスが記録されている。

 こんなにも「美しく・優しく・温かい」アルトサックス渡辺貞夫の他にはない。渡辺貞夫は命を懸けて,自分の音楽を守っている。自分の音楽を更に発展させようとしてもがいている。

 渾身のバラードSMILE】に,心が震えて止まらない。感動が止まらない。

  01. Naturally
  02. Junto Com Voce
  03. After Years
  04. Bem Agora
  05. Water Colors
  06. Na Lapa
  07. Carinhoso
  08. Bird's Song
  09. Spring
  10. Smile

(ビクター/JVC 2015年発売/VICJ-61742)
(ライナーノーツ/斉藤嘉久)

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デヴィッド・サンボーン / オンリー・エヴリシング4

ONLY EVERYTHING-1 “ニコイチ”のデヴィッド・サンボーンにふさわしく“レイ・チャールズトリビュート”の『HERE & GONE』の続編『ONLY EVERYTHING』(以下『オンリー・エヴリシング』)も“ハンク・クロフォードトリビュート”。

 所謂,デヴィッド・サンボーンの“ニコイチ”と来れば,前作の完成度を高めたものが多かったが,今回の『オンリー・エヴリシング』はいつもの続編ではない。
 『HERE & GONE』のレビジョンアップ,マイナーチェンジではなく,メジャーアップグレートでのバージョンアップ。同じブラスでも“ブラス・ロック”ではなく,R&Bにブラスが加えられた“ブルース”なのである。

 “ブルース”から出発して,カントリー,R&B,ジャズフュージョンファンクで頂点を極めたデヴィッド・サンボーンの「一周回って」演奏するオルガントリオが渋い。いい音だしている。
 ついにデヴィッド・サンボーンキャリアの初頭へ,いいや,デビュー以前の「サックス少年」にまで“原点回帰”。

 デヴィッド・サンボーンサックスを始めたエピソードのは小児麻痺のリハビリのためだが,デヴィッド・サンボーンがプロを志すようになったきっかけは,レイ・チャールズ・バンドでサックスを吹いていたハンク・クロフォードへの“憧れ”にあった。

 ただし,デヴィッド・サンボーンハンク・クロフォードのコピーは絶対にしない。と言うかレイ・チャールズの存在なしに,ハンク・クロフォードに近づくことなど出来やしない。
 ズバリ,デヴィッド・サンボーンが“憧れた”ハンク・クロフォードとは「レイ・チャールズがいてナンボ」のサックス奏者。

 『オンリー・エヴリシング』でデヴィッド・サンボーンが“仮想”レイ・チャールズに仕立て上げたは,ヴォーカルジョス・ストーンジェイムス・テイラーであり,ハモンドオルガンジョーイ・デフランセスコがキーマンである。
 ジョス・ストーンジェイムス・テイラーが歌い,ジョーイ・デフランセスコGROOVEする,レイ・チャールズばりの“ブルース”に触れて,ついに念願の“ハンク・クロフォード越え”を成し遂げている。

ONLY EVERYTHING-2 『オンリー・エヴリシング』はデヴィッド・サンボーンにとって「特別な意味を持つ」1枚になったのだと思う。ある意味,生涯の目標を初めて達成できたアルバムなのだから…。

 4ビート基調のオーセンティックなジャズをベースに,クレバーな“ブルース”が見事に融合している『オンリー・エヴリシング』。
 ジャズフュージョン・ファンの求めるデヴィッド・サンボーンのアルバムではないかもしれない。しかし,オールドスクールなジャズを演奏するデヴィッド・サンボーンを聴き込むのも,長年の“サンボーン・キッズ”にとってはオツである。

  01. THE PEEPER
  02. ONLY EVERYTHING (FOR GENEVIEVE)
  03. HARD TIMES
  04. LET THE GOOD TIMES ROLL
  05. BABY WON'T YOU PLEASE COME HOME
  06. YOU'VE CHANGED
  07. HALLELUJAH, I LOVE HER SO
  08. BLUES IN THE NIGHT
  09. SOMETIMES I FEEL LIKE A MOTHERLESS CHILD
  10. DAVENPORT BLUES

(デッカ/DECCA 2010年発売/UCCU-1262)
(ライナーノーツ/松下佳男)

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渡辺 貞夫 / カム・トゥデイ4

COME TODAY-1 『INTO TOMORROW』から『COME TODAY』(以下『カム・トゥデイ』)へ…。

 たかがアルバム・タイトルであるが,ここに渡辺貞夫の願いであり,祈りが込められている。そう。渡辺貞夫からのメッセージは「TOMORROW(明日)」ではなく「TODAY(今日)」である。

 明日に目を向けることは,今を見つめること以上に価値があると思っている。ただし,未来を見つめることと現実から目を背けることとは意味が違う。もっと言うと渡辺貞夫は,明日から今日を見つめている…。幸せな明日が待っているんだから,今日一日を何とか頑張んだ…。
 苦しみの真っ最中には考えられないかもしれないが,苦しみを乗り越えた先には,あんな日もあった,と笑って話せることだってある…。

 「冬の土の奥に
 芽生えのときを待つ生命があるように,
 悲しみや困難を乗り越えた先には
 希望があります。
 『痛みの度合いは 喜びの深さを知るためにある』
 これはチベットの格言ですが,
 僕のそうした想いを,このアルバムに
 感じてもらえればと願っています」。

 これは『カム・トゥデイ』のライナーノートの中に記されている渡辺貞夫の言葉である。
 ここに直接的な「頑張ろう」といった言葉はない。そうではなく渡辺貞夫は,自分のもう一つの言葉であるアルト・サックスを通じて,慰め,励まそうとしている。

 この姿勢こそが渡辺貞夫そのものだと思う。自分の音楽を通して,人々に笑顔を,人々に感動を,そしてこの度は慰めと励ましを…。
 そう。『カム・トゥデイ』とは渡辺貞夫から届けられた「東日本大震災」へのレクイエムである。渡辺貞夫自身も震災の前に,最愛の妻を亡くしたそうだ。そんな悲しみに暮れた渡辺貞夫だから“寄り添う”ことの出来たレクイエム…。

 さて,このように書くと『カム・トゥデイ』を,重いジャズ,と受け止められてしまいそうだがそうではない。
 『INTO TOMORROW』と同じく,ピアノジェラルド・クレイトンベースベン・ウィリアムスドラムジョナサン・ブレイクのNYの精鋭たちとのセッションにおいて,渡辺貞夫アルト・サックスを吹き鳴らしながら,踊り,跳びはねている。
 この“軽さ”こそが『カム・トゥデイ』の真髄だと思う。あらゆる困難を乗り越えた結果として,ついに手に入れた“軽さ”なのであろう。

COME TODAY-2 『カム・トゥデイ』の聴き所は“丁々発止とレクイエム”である。若手というより実力者の3人とのインタープレイである。
 ジェラルド・クレイトンベン・ウィリアムスジョナサン・ブレイクの演奏が『INTO TOMORROW』と比べて格段に良くなっている。

 この3人の成長の後ろに渡辺貞夫の存在あり。渡辺貞夫ジェラルド・クレイトンベン・ウィリアムスジョナサン・ブレイクの関係性が「凄腕の共演者たち」から「NYの3人の息子たち」へと変化している。
 だから渡辺貞夫アルト・サックスで徹底的に攻めているのに,穏やかな夕凪のような演奏に聴こえるのだろう。聞き流すことがもったいない“ハートフルな”ナベサダ・ミュージック。

 「TOMORROW(明日)」から見た「TODAY(今日)」は,決して悪いことばかりではないはずだ。将来から現在を見つめることができれば,つかの間の患難を忍耐できる。
 そうして忍耐して過ごした今日一日,気持ちが付いてこなくとも,明るい将来の希望を見つめ続けることができますように…。

  01. Come Today
  02. Warm Days Ahead
  03. Airy
  04. What I Should
  05. I Miss You When I Think of You
  06. Gemmation
  07. Vamos Juntos
  08. Simpatico
  09. She's Gone
  10. Lullaby

(ビクター/JVC 2011年発売/VICJ-61655)
(ライナーノーツ/渡辺貞夫,小沼純一)

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