
しかし「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」とは,チック・コリアが「エレクトリック・バンド」と「アコースティック・バンド」を音楽性によって使い分けていたような「デイヴ・ウェックル版」の“派生バンド”などではない。
あのデイヴ・ウェックルが,あの小曽根真が,あのトム・ケネディが,あのゲイリー・ミークが,ガチンコでインプロヴィゼーションの完璧な出来に酔いしれている。
あのデイヴ・ウェックルが,あの小曽根真が,あのトム・ケネディが,あのゲイリー・ミークが,前のめりなアンサンブルに酔いしれている。
ズバリ「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」の真実とは,プロのジャズメンが背負っているコマーシャリズム抜きに,自分たちが今本当に演奏したい音楽を純粋に演奏するためのバンドである。超多忙な“売れっ子”4人が結成した「自分たちの楽しみのための」リハーサル・バンドで間違いない。
しか〜し,このリハーサル・バンドは,仕事以上に真剣勝負。事実,こんなにも本気で,こんなにも聴いて疲れるジャズ・バンドを聴いたのは久しぶりのことである。
「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」の「音楽の会話」が周囲に漏れ出してしまっている。『OF THE SAME MIND』(以下『オブ・ザ・セイム・マインド』)に充満している,音の密度,音の鮮度に「完敗」してしまったのだ。
デイヴ・ウェックルのドラム,小曽根真のピアノ,トム・ケネディのベース,ゲイリー・ミークのサックスが全て『オブ・ザ・セイム・マインド』の譜面通りに演奏されてはいない。
小曽根真の仕掛けがバレテ,ニヤツイテいる瞬間や,トム・ケネディの難解な結び目を,デイヴ・ウェックルがまず見つけ,次に小曽根真が紐解いたものの,ついにゲイリー・ミークが最後まで解読できずに終わった瞬間の爆笑ムードたるや,これぞエンターテイメントの極致であろう。
4人が4人とも,同じ空気を吸い,同じことを考え,新しいアプローチを試みる実験の場としての「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」。
デイヴ・ウェックルのキメッキメはいつも通りなのではあるが,構成を練り上げた商業作品とは一線を画す,勢い一発で手加減知らずの「ケンカ」ジャズ・バンドなのに,誰がどう崩しても最終的には合ってしまうのだから・た・ま・ら・な・い!
ズバリ『オブ・ザ・セイム・マインド』のまとまりの秘訣とは,デイヴ・ウェックルのスティック1本の指揮にある。
華々しいソロの裏側で,こんなにも丁寧に音を重ね,刺激を送り続け,献身的にサポートしている小曽根真は聴いたことがない。超絶技巧で弾き倒すトム・ケネディにしても,ゲイリー・ミークにしても,バンドマンのスタンスで自らの個性を鳴らしていく。
そう。デイヴ・ウェックルが,小曽根真が,トム・ケネディが,ゲイリー・ミークが「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」のサウンドの一部として機能することを自ら熱望している。
4人が4人とも,このバンド・サウンドこそが「ガチの自分」という思いなのだろう。

実は自分のやりたい音楽とは他のメンバーへのサポートだったことに気付いてしまった?
デイヴ・ウェックルの持つバカテクとユーモアが,小曽根真,トム・ケネディ,ゲイリー・ミークを魅了してやまない「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」のバンド・サウンド。
世界的名手4人による,手加減なしの全力投球,が駆け出しのプロだった頃の瑞々しさに熟練のパワーを兼ね備えた大名盤。こんなにもワクワクするジャズ・バンドは自分だけのものしておきたい。
そう。リハーサル・バンド=「デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンド」の結成を決めた瞬間のデイヴ・ウェックル,小曽根真,トム・ケネディ,ゲイリー・ミークのように…。
01. What Happened To My Good Shoes
02. Something's Happening
03. Songo Mikele
04. Stay Out
05. Koolz
06. Stella On The Stairs
07. Pacific Grove Fog
08. Agua De La Musica
09. All Blues
10. Nothing Personal
(ユニバーサル・ジャズ/UNIVERSAL JAZZ 2015年発売/UCCU-1493)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/熊谷美広)
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(ライナーノーツ/熊谷美広)