A8V(ON THE EARTH)-1 2015年も年の瀬である。この1年間を総括する,さまざまな章典が発表される時季である。2015年の漢字一文字は「安」。「安心してください。穿いてますよ」。とにかく明るい安村さん。

 別に管理人はこのような「年度代表馬」的な特に話題に関心があるわけではない。音楽好きとしては「レコード大賞」ぐらいである。
 そういうことではなくて,今夜の東京ザヴィヌルバッハの『A8V(ON THE EARTH)批評の主役である「M」について考えていると,ついつい「タイム誌」が選定した“マシン・オブ・ザ・イヤー”を思い出さずにはいられなかったからだ。

 そう。「タイム誌」は1982年までは「その年に最も活躍したり,話題になったりした人物」として“マン・オブ・ザ・イヤー”を毎年選定していたが,1983年には初めて“マン・オブ・ザ・イヤー”の受賞者は選定されなかった。
 なぜなら1983年に「最も活躍したり,話題になった」のは人間ではなくコンピュータ。同じ「M」でもMANではなくMACHINE。“マシン・オブ・ザ・イヤー”だったのだ。

 管理人が『A8V(ON THE EARTH)』を聴いた時の“衝撃”こそ,正しく「M」の音楽性にあった。
 これこそ“マシン・オブ・ザ・イヤー”の「M」であり“ミュージック・オブ・ザ・イヤー”の「M」を連想させてくれたのだ! 恐るべし,自動変奏シーケンス・ソフトの「M」!

 ベリー・ビンテージ・ジェネレーティブ・シーケンス・ソフト「M」の作り出す,無重力サイバー・ファンクとも多重力とも言える不定形ビートの「波形」が,菊地成孔坪口昌恭の2人のユニット=東京ザヴィヌルバッハの想像力を大いに刺激している。

 『A8V(ON THE EARTH)』こそが,ジャズアブストラクトエレクトロニカアフリカ民族音楽を消化した人間と機械が「がっぷり四つ」に組んだ生み出された,新しい無国籍グルーヴ・アルバム。
 “発熱度の高い”エレクトロジャズフュージョンを志向している。

 そう。『A8V(ON THE EARTH)』は,東京ザヴィヌルバッハ「第三のメンバー」である「M」の飛躍的な進歩と,ついに「M」を手なずけることに成功した坪口昌恭のユニークなアイデアが“ぶつかり合って”生まれた瞬時のリズムと楽器の綾が聴き所!

 普通に聴いていると「なんじゃこりゃ」なエレクトロジャズであろうが「M」の作り出す,微妙なランダム感やコラージュ感のあるリズムに乗った菊地成孔サックスがうなり,坪口昌恭が操るシンセサイザーが“妖しく輝くカッコ良さ”に惹かれてしまう。

A8V(ON THE EARTH)-2 ズバリ,管理人が長年追い求めていた“ストイックな抽象のカッコ良さ”が『A8V(ON THE EARTH)』の中にある。ミニマルで難解な音の中でメロディアスなサックスが登場したときの気持ち良さが半端ない!

 各曲の中での仕掛けられている不思議なズレや変調に新しい発見がある。「音の足し引き」が絶妙であって,音楽の中に知らず知らずの内に即興を求める“生身の人間業”を超えてきたと感じてしまった。変則拍子やポリリズムを分析なしでグイグイとノってしまった。

 かつてコンピュータを“マシン・オブ・ザ・イヤー”に選定した「タイム誌」はこう警告している。「今まで自分の頭の中で行なっていた事柄をコンピュータに頼って行なうようになると,人間の頭脳には何が起こるだろうか。コンピュータのメモリーに記録された辞書によって簡単に誤字を修正できるのなら,正しい字を学ぶことにはどんな利点があるだろうか。もし頭脳が頭を使う作業から解放されれば,人々は大切な知識を追求することに走るだろうか。それともTVゲームにだらだらと費やす時間を増やすだろうか。コンピュータは頭脳の働きを本当に刺激するのだろうか。それとも頭脳が行なう仕事のほとんどをやってしまうことによって頭脳をだめにしてしまうのだろうか」。

 「M」の登場により,現代のジャズ・シーンは「タイム誌」の警告した仮想現実の危険にさらされている。
 近未来のジャズが「M」の後継ソフトの奴隷となりませんように…。

  01. HORIZONING
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  03. BirdConduct 4
  04. INDUSTRIAL
  05. RITUAL
  06. ALIENS 8 VIEWS
  07. BirdConduct 3
  08. HOUSE

(ボディー・エレクトリック・レコーズ/BODY ELECTRIC RECORDS 2004年発売/EWBE 0010)

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