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CD批評:ゲイリー・ピーコック

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TRILOGY 4


 『TALES OF ANOTHER』の4曲目は【TRILOGY 機曄憤焚次撻肇螢蹈検辞機曄法


 【トリロジー】に,ゲイリー・ピーコックが『テイルズ・オブ・アナザー』で“狙った”コンセプトが如実に表現されている。ゲイリー・ピーコックは『テイルズ・オブ・アナザー』で,三者対等=正三角形のトリオ・ミュージックを作り上げたかったに違いない。

 【トリロジー】は,全編濃密なインタープレイで構成されている。通常聴き手は,演奏の中から自分の好きなジャズメン(または楽器)だけを抜きとって追いかけることができるのだが【トリロジー】は,そうはいかない。と言うか,そんなことしたらもったいない。“シッポのつかみ合い”のごとく,3人のソロ・パートには必ず前後の繋がりが“仕掛けられている”。これは凄い。
 3人共に自分の演奏“そっちのけで”他のメンバーの音を聴いている。ゲイリー・ピーコックが,キース・ジャレット・トリオの活動時に常々口にする“勝手に指が動いた”最初のセッションが【トリロジー】ではなかろうか?

 【トリロジー】の主役は時に,ゲイリー・ピーコックベースであり,キース・ジャレットピアノであり,ジャック・デジョネットドラムである。【トリロジー】は“聴けば聴くほど味が出る”例のアレである。

CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / MAJOR MAJOR5


 『TALES OF ANOTHER』の3曲目は【MAJOR MAJOR】(以下【メイジャー・メイジャー】)。


 【メイジャー・メイジャー】こそ『テイルズ・オブ・アナザー』の“象徴”である。つまり,キース・ジャレット・トリオによるフリー・インプロヴィゼーションのようなインタープレイCD! しかし『テイルズ・オブ・アナザー』は,後の『チェンジズ』『チェンジレス』『インサイド・アウト』『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』の原型ではない。
 そう。『テイルズ・オブ・アナザー』録音時のゲイリー・ピーコックベースは,ポール・ブレイ菊地雅章と日本で座禅組んでいた頃の“シリアスなフリー・ジャズ”度が濃厚であって『スタンダーズ』のゲイリー・ピーコックとは別人であった。

 【メイジャー・メイジャー】は“シリアスなフリー・ジャズ・ベーシストゲイリー・ピーコックが,ピアノ・トリオのリーダーとしてキース・ジャレットを主導している! このゲイリー・ピーコックの“お膳立て”に,キース・ジャレットが飛びついた! キース・ジャレットの好みに完璧にハマッタのである。

 【メイジャー・メイジャー】のシンプルなメロディが,キース・ジャレットの好む“反復を繰り返しながら頂点に達する演奏手法”によって想定外の大爆発を生んでいる。ここでのキース・ジャレットの喜びようといったら…。ファンながら恥ずかしい。2分8秒から始まり中盤までずっとあえいでいる。これは子供が大好きなおもちゃを与えられた時の反応そのものである。
 このキース・ジャレットの大爆発が,3分15秒からのジャック・デジョネットの大爆発を導き,それがまた6分19秒からのゲイリー・ピーコックの“キース・ジャレットばりの”反復の連弾で構成されるベース・ソロへと導いている。3人が好き放題にやりながらも同じゴールを目指しパスを出し合う,これぞ完璧なインタープレイである。

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GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TONE FIELD4


 『TALES OF ANOTHER』の2曲目は【TONE FIELD】(以下【トーン・フィールド】)。


 【トーン・フィールド】には気をつけろ! まだ大丈夫,と思っていると,気付けばいつのまにか,それは深い,スタンダーズ・トリオの“樹海の森”へと迷い込んでしまっているから…。

 【トーン・フィールド】は,本当にゲイリー・ピーコックの書き下ろしであろうか? だとしたらゲイリー・ピーコックは名作曲家である。何度聴いても,直感とインスピレーションによる恐ろしいほど高次元のインタープレイにしか聴こえやしない!

 ところで,40秒からのゲイリー・ピーコックベース・ソロは(自分でも理由が分からないのだが)ジャコ・パストリアスの【コンティニューム】をイメージしてしまう。もしや,と思い【コンティニューム】と聴き比べてみたが,管理人の思い過ごしのようである。
 富士の樹海に七不思議があるように「似ても似つかぬ」ゲイリー・ピーコックジャコ・パストリアスの両巨頭がイメージの中でシンクロする! これぞジャズフュージョンの七不思議である。

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GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TRILOGY 5


 『TALES OF ANOTHER』の6曲目は【TRILOGY 掘曄憤焚次撻肇螢蹈検辞掘曄法


 【トリロジー】を朝一の“寝ボケ眼”で聴く。一時期,それが管理人の出勤前の習慣であった。あの脳を叩き起こす“ガツン”とかますインパクト! あのメガトン級の衝撃度は分かる人には分かるはず! 大体,毎朝聴いていると飽きがくるはずなのに,衝撃波が日増しに増大するとは何事か?
 大袈裟ではなく【トリロジー】を,モダン・ジャズ史上屈指の名演に上げる友人をなんと2人も知っている。いいですか,モダン・ジャズ史上でですよ? 管理人が語らずとも,もうこの事実だけで【トリロジー】の凄さが伝わるというものです。
 …が,やっぱりやりますよ(2人の友人にはないしょで)。以下は管理人の独善的【トリロジー批評で〜す。

 ゲイリー・ピーコックベース・ソロとシンクロする,41秒からのキース・ジャレットのピアノが,実にポップでキャッチー! これぞキース・ジャレットの“地”であろう。
 54秒からの3人が前進する強烈なスイング感が【トリロジー】の聴き所である。キース・ジャレットを突進へと導くゲイリー・ピーコックと,キース・ジャレットの暴走を防ぐジャック・デジョネットの変幻自在のビートは世界一である。
 キース・ジャレットのあえぎ声が聞こえ出すと,そこにはフリー・ジャズスピリッツが宿っている。フリー・ジャズの演奏も偽らざるキース・ジャレットの“地”の一つに違いない。

 【トリロジー】のハイライトが,3分41秒からの狂気のピアノ! 執拗なピアノ連打の異常すぎるハイ・テンション! これは凄すぎる。恐すぎるくらいの“圧巻”の大熱演! 意識をしっかり保っていないと「もう毎日がどうなっても構わなくなる」危険をはらんだ演奏である。
 しかし【トリロジー】の本当のクライマックはまだ先である。5分36秒からの,波が一気に引いていくかのように“滑り込む”ジャック・デジョネットドラミングが肝! 場面を一気に打ち破る爽快感! あのポップでキャッチーなテーマが戻ってきた時の快感と言えば…。
 【トリロジー】の全ては,このラスト・テーマを演奏するためだけに存在する“産みの苦しみ”である。

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GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / VIGNETTE4


 『TALES OF ANOTHER』の1曲目は【VIGNETTE】(以下【ヴィネット】)。


 【ヴィネット】を聴いてイメージするのは“嵐の前の静けさ”である。いや,ジャック・デジョネットの叩き出すパーカッションが,すでに暴風雨を予感させる“風の音”である。そう。まだ窓を打ち叩く風音だけで雨は降り出していない。【ヴィネット】は“ただならぬ何かを”予感させる静けさに包まれている。

 全編“たんたんと”演奏が流れていく。この最大要因こそ,超硬質なレガートを静かに刻み続けるジャック・デジョネットの職人的なドラミング! ゲイリー・ピーコックキース・ジャレットの“平然と歌う”コード進行の後ろで“コツコツと”いい仕事をこなしている。この抜群のセンスがキース・ジャレット“お気に入り”の所以であろう。

 4分15秒からのゲイリー・ピーコックベース・ソロは“スカスカ”で軽すぎ。ここはチャーリー・ヘイデンばりに奥深く潜ってほしかった。
 【ヴィネット】では,100%サイドメンとしての役割に徹したキース・ジャレットピアノに“ケルン”を感じてしまうのは,私だけ?

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GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー5


Tales of Another 耳が悪すぎるのか? それともジャズが全く分かっていないのか? 「現代ピアノ・トリオの最高峰キース・ジャレット・トリオを揶揄する人々がいる。
 それらアンチが発するダメ出しの常套句の一つが「ベースがヘボイ」である。「これでベースエディ・ゴメスなら,クリスチャン・マクブライドなら最高なのに」と尾ひれがつく。
 これは明らかな的外れである。ゲイリー・ピーコックへの“いちゃもん”である。そう。ゲイリー・ピーコックは超一流のベーシスト。現代ベースのマイスターの一人なのだから…。

 『TALES OF ANOTHER』(以下『テイルズ・オブ・アナザー』)を聴いてみてほしい。『テイルズ・オブ・アナザー』は,ベースゲイリー・ピーコックに,ピアノキース・ジャレットドラムスジャック・デジョネットによる,キース・ジャレット・トリオスタンダーズ・トリオ)結成6年前の演奏である。
 “阿吽の呼吸”で連動するキース・ジャレット・トリオが大好きだが,まだまだ手探り状態のこの演奏も,今となっては最高にスリリング! 年齢を重ねることで失われるものが若さであるとすれば,現キース・ジャレット・トリオが失ったものは『テイルズ・オブ・アナザー』での“荒削りの無鉄砲”であろう。そう。『テイルズ・オブ・アナザー』が残した“忘れ難いインパクト”が,キース・ジャレットスタンダーズ・トリオ結成へと突き動かた“大興奮”の歴史的名盤である。ゲロゲロなフリー・ジャズである。

 全曲ゲイリー・ピーコックの自作曲で固められた『テイルズ・オブ・アナザー』は,6曲中4曲でゲイリー・ピーコックがイントロでベース・ソロを取り,そこへキース・ジャレットジャック・デジョネットが加わってくるという,現キース・ジャレット・トリオにおける,キースゲイリーの役割が交代した構成がゲイリー・ピーコック名義の証し!
 最高のサイドメンを従えたゲイリー・ピーコックベースがフロント楽器のように歌う歌う! どうしてもキース・ジャレットの絶頂のピアノとあえぎ声に耳が行ってしまうのだが(この記事は「ゲイリー・ピーコック批評」なのでキース・ジャレットについては多くを語りません)そこを堪えてゲイリー・ピーコックベース・ラインに意識を集中してみると,この演奏の凄さが浮かび上がってくる。そう。ゲイリー・ピーコックは,バッキングに回った時でさえ“無意味なタイム・キープ”をやっちゃいない。ハーモニスクによるフィルでさえ歌うのである。あの“じゃじゃ馬”キースの奔放なのに構成美溢れるピアノゲイリーが美しくも重厚なベースで受け止めていく。いや,ジャック・デジョネットが生み出すリズムの渦へ,一気呵成に切れ込むゲイリー・ピーコックが,ジャズ・ピアニストキース・ジャレットを“覚醒”へと導いていく!
 そう。キース・ジャレット・トリオベーシストは,エディ・ゴメスでもクリスチャン・マクブライドでもなく,ゲイリー・ピーコックその人! ゲイリー・ピーコックにしか,あのトリオベーシストは務まらない。

 …と,ここまで書いてみたが,ゲイリー・ピーコックの主戦場=管理人が思う近年のキース・ジャレット・トリオについて一言。
 「ベースがヘボイ」は敵ながらあっぱれ? 正直,管理人も過去にそう思った日々もあった。しかしそれはゲイリー・ピーコックへの不満から来るものではなく「マンネリ感」にある。高級レストランのフルコースのごとき美音に“もうお腹いっぱい”なのである。たまには違う味も食べてみたい。そう考えると即効性があるベーシストの交代が脳裏をよぎってしまうことも…。ゲイリー・ピーコック・ファンの皆さん,本当にごめんなさい。
 でもそれでも,まだまだ食べさせてくれるんだよなぁ。満腹中枢が刺激されているはずなのに毎作買ってしまう。そしておいしく食べてしまう。さらにおかわりまでしたくなる。最新作『イエスタデイズ』もその口だった。こうくると分かっちゃいるのに“おおっ”と思う。期待通りなのに期待以上。最高なんだよなぁ。好きなんだよなぁ。なんだかなぁ。

  01. Vignette
  02. Tone Field
  03. Major Major
  04. Trilogy I
  05. Trilogy II
  06. Trilogy III

(ECM/ECM 1977年発売/UCCU-5281)
(ライナーノーツ/杉田宏樹,油井正一)

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