CD批評:木住野 佳子

2008年04月06日

木住野 佳子 / PORTRAIT / BEAUTIFUL LOVE5


 『PORTRAIT』の4曲目は【BEAUTIFUL LOVE】(以下【ビューティフル・ラヴ】。


 【ビューティフル・ラヴ】に漂う緊張感が,心底カッコイイ! この演奏をバトル形式と読むのは簡単であるが,その一言では語り尽くせぬ興奮がある。管理人はこの演奏を“最高のピアノ・トライアングル”と呼ぼうと思う。

 【ビューティフル・ラヴ】について語るには,エディ・ゴメスは外せない。パワフルなヴァーチュオーソ&“ベロ〜ン”ベースを垂れ流す! しかし,その“ベロ〜ン”ベースを囲ってしまうピアノドラム! 木住野佳子ルイス・ナッシュの構成力がエディ・ゴメスを囲いの中で放牧する! この相関図は,長女=木住野佳子,長男=ルイス・ナッシュ,末の次男で暴れん坊のエディ・ゴメスなのである。

 早くもテーマ終わりの48秒からベースピアノの一騎打ちが始まるが,手加減なしにグイグイ押しまくるエディ・ゴメスベースに対し,スピード感と華麗さを兼ね備えたピアノ木住野佳子が応戦する! これぞ「柔よく剛を制す」。木住野佳子が主導権を握っている。
 2分55秒からはベースドラムの一騎打ちが始まるが,こちらも「相手の力を利用して投げる合気道」スタイル! ルイス・ナッシュエディ・ゴメスの垂れ流しのベースを一音一音,ブラシで掬っていく! やっぱりベースがこぼれない。
 最強の末っ子が囲いの中に“しっくり”収まる。“最高のピアノ・トライアングル”がここにある。

CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から

YOSHIKO KISHINO : Piano
EDDIE GOMEZ : Bass
LEWIS NASH : Drums


2008年02月18日

木住野 佳子 / PORTRAIT / ONLY TRUST YOUR HEART4


 『PORTRAIT』の3曲目は【ONLY TRUST YOUR HEART】(以下【オンリー・トラスト・ユア・ハート】。


 【オンリー・トラスト・ユア・ハート】には,木住野佳子の“喜び”が詰まっている。
 ライナーノートにあるように,この喜びは木住野佳子の「記念すべき初レコーディング」の喜びなのかもしれない。しかし管理人には,それ以上の,ジャズ・ピアニストとして悦に入った瞬間の“喜び”が表現されていると思う。

 これは木住野佳子1人の喜びではない。ベーシストマーク・ジョンソンの喜びでもある。そう。過去にビル・エヴァンス・トリオの一員として登りつめたピアノ・トリオの頂点に,今回は木住野佳子ピーター・アースキンを連れ添って,最高の3人で到達できた満足感!
 【オンリー・トラスト・ユア・ハート】こそ,かのビル・エヴァンスが見つめていた音世界! ついに登ることを許された,凡人には「隠されし」ピアノ・トリオの頂点へ足を踏み入れたことの喜びを噛みしめている。

 スローなイントロで始まる【オンリー・トラスト・ユア・ハート】が,徐々にリズムを速め,軽快にスイングしていく“変貌の展開”に,ピアノ・トリオの高みを目指す3人の姿を思い重ねることができた。木住野佳子マーク・ジョンソンが放つ“喜びのオーラ”が,聴き手を「幸福感」で包んでくれる。素晴らしい。

CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から

YOSHIKO KISHINO : Piano
MARK JOHNSON : Bass
PETER ERSKIN : Drums, Percussion


2008年02月16日

木住野 佳子 / PORTRAIT / THE ISLAND4

アナログレコード

 『PORTRAIT』の2曲目は【THE ISLAND】(以下【ジ・アイランド】。


 イヴァン・リンスの代表作である【ジ・アイランド】は“垢抜け”したブラジル音楽! 土臭さを残しつつも贅肉?を大胆に削ぎ落とし,実にシャープなリズムの上を“極上”メロディ・ラインが優雅に駆け抜けていく。

 【ジ・アイランド】成功の立役者こそ,ジャズ以外にもマルチな活躍を見せているピーター・アースキンドラミングであろう。細かにリズムを刻むのではなく,波のような大きなうねりの中でリズムを打つ! もっとも彼特有の細かなパーカッションによる“味付け”も聴き所の一つである。  

 このシャープ,かつ大きなリズムの波に乗った木住野佳子ピアノが,自然と盛り上がり自然と消え去っていく…。波打ち際には,美しいメロディ・ラインの“心地良さ”だけが残される。
 この美しいピアノ・タッチに,木住野佳子の【ジ・アイランド】に対する愛情を感じてしまう。

 3分39秒からのマーク・ジョンソンアドリブは,力の入った熱いロング・ソロ。まるで自分の感情をウッド・ベースに叩きつけているかのようである。こちらも表現手法は異なるが【ジ・アイランド】への愛情表現の“発露”であろう。

CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から

YOSHIKO KISHINO : Piano
MARK JOHNSON : Bass
PETER ERSKIN : Drums, Percussion

PORTRAIT
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2008年02月15日

木住野 佳子 / PORTRAIT / FAIRY TALE5

アナログレコード

 『PORTRAIT』の1曲目は【FAIRY TALE】(以下【フェアリー・テイル】。


 「おとぎ話」という意味の【フェアリー・テイル】によって「おとぎの国」=木住野ワールドへの扉が開かれる! そこは実に美しいピアノの「おとぎ話」。雄大な音空間の美であり,ハーモニーの美である。

 ビル・エヴァンスを徹底的に研究してきた木住野佳子と,ビル・エヴァンス・トリオの最後のベーシストマーク・ジョンソン。【フェアリー・テイル】は,木住野佳子を介して実現した,エヴァンスジョンソンの15年振りの“仮想”夢の共演である。

 木住野佳子の繊細なピアノが清々しい。優しく身体に馴染んでくる。この灰汁のない響きこそ木住野佳子の真骨頂である。
 テーマで絡み合いながらも低音で“突き上げてくる”マーク・ジョンソンが流石である。このスコット・ラファロ風=自由な跳ね馬ぶりが好みであるが,一方でピアノ・ソロでのバックで的確にリズムを刻むチャック・イスラエル風の安定したベース・プレイも聴き逃せない。
 
 3分59秒からのマイケル・ブレッカーテナー・ソロこそ「おとぎ話」の美しさ! 【フェアリー・テイル】にゲスト参加で花を添えるつもりが,木住野佳子の快演に一歩も後へ引けなくなったという感じ? 本気で骨太の“マイケル節”が炸裂している。
 ピーター・アースキンロジャー・スキテロの控え目ながらも華やかなドラムパーカッションも存在感たっぷりで素晴らしい。

CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から

YOSHIKO KISHINO : Piano
MARK JOHNSON : Bass
PETER ERSKIN : Drums, Percussion
MICHAEL BRECKER : Tenor Saxophone
ROGER SQUITERO : Percussion

PORTRAIT
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2008年02月14日

木住野 佳子 / PORTRAIT4

アナログレコード

PORTRAIT ジャズ・ピアノには2つの大きな系譜がある。それがパウエル派エヴァンス派である。
 このパウエル派エヴァンス派の系譜は,時を越え海を越え形を変え,ここ日本の女性ジャズ・ピアニストたちの歴史にも連綿と受け継がれている。

 「男勝りの力強いタッチ」が特徴のパウエル派の歴史は,秋吉敏子大西順子へ受け継がれ,パウエル派の分家=ピーターソン派アキコ・グレース山中千尋上原ひろみへ受け継がれている。
 一方「女性らしい繊細なタッチ」が特徴のエヴァンス派の歴史は,木住野佳子Sayaへと受け継がれている。

 パウエル派エヴァンス派について語る際,管理人が特に印象深く思い出すのが1990年代後半に繰り広げられた,この2大派閥の日本における代理戦争! そう。「大西順子 VS 木住野佳子」である。

 優勢だったのは大西順子である。やはり「ジャズ・ピアノ=ダイナミックなドライブ感」が謳い文句に違いない! それで大西順子を持ち上げるため? 木住野佳子についた隠語が「ヘタレ」。「木住野佳子を好きだ」とは言い出し難い空気が漂っていた。
 そんなこんなで?“レッテル”に惑わされ続けた管理人が,木住野佳子を初めて真面目に聴いたのは,実にデビューから8年後の2003年のこと! 木住野佳子ベスト盤PORTRAIT−YOSHIKO KISHINO BEST SELECTION』(以下『PORTRAIT』)であった。
 時代はすでに大西順子が活動休止中。パウエル派の代表選手も上述の若手3人へと入れ替わっていた。「そろそろいいかなぁ」という気持ちに『PORTRAIT』の「セクシー・ジャケット」が相まって購入意欲を刺激した! そう。期待薄の興味薄。こんな状態で聴いたところで木住野佳子を気に入るわけがない! …と思いきや,現在ブレイク中のエドはるみ風に親指立てて「GOO,グ〜」! 「GOO,グ〜」ネタは管理人が最初なんですよ〜?

 さすが『PORTRAIT』はGRPレーベルである。GRPエヴァンス派デイブ・グルーシンである。そう。エヴァンス派木住野佳子こそ,日本人初で唯一のGRPアーティスト! 『PORTRAIT』は,全編ビル・エヴァンスへの“オマージュ”で溢れている。
 巷で「ヘタレ」と呼ばれようが,8年もの間,木住野佳子は「女性らしい繊細なタッチ」を保ってきた。これはGRPのカラーではなく,木住野佳子のカラー,木住野佳子の“本質”であろう。

 やはり女性ジャズ・ピアニストには,バド・パウエルではなく「ビル・エヴァンスが好き」と答えてもらいたい。男の“願望”である。

(1995-2000,2002-2003年録音/UCCJ-2023)

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