CD批評:ジム・ホール
2008年01月17日
ジム・ホール / アランフェス協奏曲 / CONCIERTO DE ARANJUEZ
『CONCIERTO』の4曲目は【CONCIERTO DE ARANJUEZ】(以下【アランフェス協奏曲】)。
【アランフェス協奏曲】を直接知らない人であっても,時代劇ファンなら「これ知っている」と述べるはず。そう。【アランフェス協奏曲】は,テレビ朝日系「必殺シリーズ」のクライマックスで流れる例のテーマ!
【アランフェス協奏曲】より先に「必殺」を聞いたものだから,藤田まことのあのイメージを頭の中から払拭するのに苦心したものだ。まっ,現在でも【アランフェス協奏曲】と聞くと,ジム・ホールよりも先に村治佳織を思い出してしまいますが…。
さて,冗談半分で【アランフェス協奏曲】=「必殺シリーズ」を紹介してみたが,実はこの選曲,案外考え抜かれているようも思える。そう。【アランフェス協奏曲】は,フュージョンの台頭を迎えた時代にジム・ホールが捧げた“死にゆく4ビート・ジャズ”へのレクイエムではなかろうか?
3分40秒からのロン・カーターのベース・ソロに,ドラムとピアノが絡みつき,そこから一気にヒート・アップ! 内へ内へ“切々と情感を紡ぎ出す”ジム・ホールの“クールで控え目で熱情的な”ギター! そこへ更なる時間差で絡みつく,ポール・デスモンドとチェット・ベイカーのホーンが最高である。
特にチェット・ベイカーの長いブレス! 時間と共に音がかすれていくのだが,これが終わりそうで終わらない。それどころか次第に“息を吹き返す”技ありのブレスが実に印象深い。
【アランフェス協奏曲】の原曲は「クラシック・ギターとオーケストラのための協奏曲」であるが,ドン・セベスキーの上品なアレンジがいい。
全員でテーマを織り成しつつも,テーマ区切りで各人のアドリブがフューチャーされているので,各ソロイストたちの【アランフェス協奏曲】への解釈の違いを聴き取れる。結果,アンサンブル&ソロ,全てが完璧である。19分超えの大作ではあるが「もう終わったの?」と最後まで一気に聴かせてくれるに違いない。
ジャズ・マニアはもとよりクラシック・ファンにも一度は聴いてほしい大名演である。
CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から
JIM HALL : Guitar
ROLAND HANNA : Piano
RON CARTER : Bass
STEVE GADD : Drums
CHET BAKER : Trumpet
PAUL DESMOND : Alto Saxophone

アランフェス協奏曲
2008年01月03日
ジム・ホール / アランフェス協奏曲 / THE ANSWER IS YES
『CONCIERTO』の3曲目は【THE ANSWER IS YES】(以下【アンサー・イズ・イエス】)。
【アンサー・イズ・イエス】の答えはYES! 主役=ジム・ホールにYES! ヒーロー=チェット・ベイカーにYES! 聴き所=ローランド・ハナにYES!である。
イントロから全編に渡り“前へ後ろへ”大忙しな主役はジム・ホールのギター! しかし,ヒーローと言えばチェット・ベイカーのトランペット!
チェット・ベイカーのトランペットは,すでに絶頂期を過ぎた後の演奏であるが,実にリラックスした音を出す。それでいて派手&クール! 老いてもスターはスターであった。
【アンサー・イズ・イエス】の聴き所は=ローランド・ハナのピアノ・ソロ! 3分13秒から始まるローランド・ハナのアドリブが,3分36秒から飛び跳ねる!
突如,眼下に“星が舞い降りるような”錯覚は高音オクターブ! このノリノリ&ジャンピングは『CONCIERTO』全体の中でもここだけ。光り輝く名演である。
CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から
JIM HALL : Guitar
ROLAND HANNA : Piano
RON CARTER : Bass
STEVE GADD : Drums
CHET BAKER : Trumpet
PAUL DESMOND : Alto Saxophone

アランフェス協奏曲
2007年11月12日
ジム・ホール / アランフェス協奏曲 / YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO
『CONCIERTO』の1曲目は【YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO】(以下【ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ】)。
【ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ】での,セクステットの面々に賛辞を贈りたい! 元来,重いはずのセクステットが軽快に“歌っている”! これぞ正真正銘“つなぎっぷりが聴き所”の名演である。
一発ホームラン(アドリブ)ではなく,こつことと“つなぐ”野球。全盛期を過ぎたとはいえ,まだまだ狙えばホームランを打てる6人が,アドリブを捨て走者(奏者)を進めるバッティング! アンチ巨人の管理人には,この「いぶし銀」が大好物である。
『CONCIERTO』での【ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ】は“ソロ回し”が主軸なだけに,バッキングの時間が長いのであるが,ソロイストとして前面に出る時以外は,全員自分の“持ち場”に留まり,出しゃばらない。
実はこの手のバッキングはセクステット編成では稀なことと思う。大抵6人中1人か2人はバッキングでも“いかに目立つか”がモットー。他のメンバーにも緊張感が伝染するのが常である。
『CONCIERTO』での【ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ】には,それがない。6人全員が“大人の演奏”に徹している。これがメッチャ気持ちいい。
ヘレン・メリルの“絶唱”で有名な【ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ】(邦題【帰ってくれたら嬉しいわ】)は,大スタンダードの歌ものであるだけに,各人の“味付け”に個性が出ている。
例えば,フュージュン系ドラマー=スティーブ・ガッドのハイハット&バスドラが“ガンガン”だし,ほど良い響きの4分音符のシンプルなレガートを,ロン・カーターのウォーキング・ベースが“ビンビン”引っ張っている。
各人のアドリブをじっくりと追いかけてみると,毎回何かしら“新たな発見”に出会える。そんな奥深い楽しみが「いぶし銀」の所以である。
CD視聴(試聴)・購入はジャケット写真から
JIM HALL : Guitar
ROLAND HANNA : Piano
RON CARTER : Bass
STEVE GADD : Drums
CHET BAKER : Trumpet
PAUL DESMOND : Alto Saxophone

アランフェス協奏曲
2007年11月10日
ジム・ホール / アランフェス協奏曲
ギターがジャズの「主要楽器」としての地位を確立したのは,エレキ・ギターの登場以降であろう。エレキ以前のギターについて語るなら,それがどんなにいいアドリブであったとしても“隣りで鳴り響く”大音量のトランペットやサックスのフレーズで一瞬にして“かき消されてしまう”。最初から最後まで“脇役扱い”された要因は“音量の差”1点にあった。
音量をアンプで自由自在に増幅できるエレキ・ギターの登場は,唯一の弱点“音量の差”を解消した。いや,その気になればトランペットやサックスのフレーズを“かき消す”ことさえ可能な時代が到来した。ここで戦ってもしょうがない。ギターと管楽器との平和条約締結であった。
このように電化武装することでジャズの「主要楽器」としての市民権を得てきたギターであったが,一方で電化の弊害と戦う必要にも迫られた。そう。ギター本来の「繊細な音色」が失われてしまったのだ。「理想の音色」を追い求める,エレクトリック・ギタリストたちの“苦悩の時代”の幕開けである。
この「音色問題」はエフェクターの登場で一応の解決を見たのであるが,それって小手先での問題先送り? それでいいの? アコギからエレキへと持ち替えた,正統派ギタリストの皆さん!
その答えが,ジャズ・ギター界の「玄人職人」ジム・ホール! ジム・ホールの特徴は,例えば,オーソドックスなコード・ワークやどんなフォーマットにも対応できる柔軟性について語る機会もあるにはあるが,管理人がジム・ホールについて語る第一声は「玄人職人」ではなく,あのエレキ・ギターの“音色”なのである。
「アンプリファイアード・アコースティック・ギタリスト」! ジム・ホール自身が自分の音楽についてそう呼んでいる。この言葉にジム・ホール自身の“音色へのこだわり”が伝わってくる。
そう。ジム・ホールのエレキ・ギターの音色は,まるでアンプを通していないかのような音色! こんなにも「ナチュラルな音色」で勝負するエレクトリック・ギタリストを管理人は他に知らない。
『CONCIERTO』(以下『アランフェス協奏曲』)は,ジム・ホール最大のヒット作! 『アランフェス協奏曲』と聞けば,ジャズ・マニアであるならば,マイルス・デイビスの『スケッチ・オブ・スペイン』,あるいはチック・コリアの【スペイン】でのイントロを連想するのかもしれない。
しかし真実の『アランフェス協奏曲』の一番手は,マイルスでもチックでもなく,ジム・ホールである! 何と言ってもジム・ホール自身の全ディスコグラフィにとどまらず“あの”CTIレーベル全体の中でも最大のヒット作なのだから…。
ここまで書くと,次は『アランフェス協奏曲』をめぐる,マイルスやチックに対するジム・ホールの優位性を語るのが常であるが,今回は敢えてその論法は封印しよう。
なぜって? それこそ『アランフェス協奏曲』最大の聴き所が,ジム・ホールの“まろやかな”エレキ・ギターの音色にある,と思っているからだ。読者の皆さんには,管楽器と同時に鳴り響く,仮想アコギの「ナチュラルな音色」を聴いてほしいと思う。
このCDへの参加メンバーを見れば『アランフェス協奏曲』が大ヒットしたのもうなずける。ロン・カーター,スティーブ・ガッド,ローランド・ハナによるピアノ・トリオに,陰影に富む2人の管楽器奏者,チェット・ベイカーとポール・デスモント! そう。ジム・ホールの仮想アコギとチリバツのジャズメンばかりである。
全員が“抑制美”を意識して演奏している。それゆえジム・ホールも必要以上にアンプのボリュームを上げていない。ついにギタリストの長年の夢が『アランフェス協奏曲』で実現した。
そう。トランペットやサックスとギター本来の「繊細な音色」で勝負し,主役を張っている。トランペットとサックスは,最初から最後まで“脇役”でしかない。ジャズ界に「ギターの時代」が到来した瞬間である。
PS 『アランフェス協奏曲』と言えば村治佳織ですよね?
(1975年録音/KICJ-2174)


























