アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

CD批評:松永 貴志

松永 貴志 / 地球は愛で浮かんでる5

LOVE MAKES THE EARTH FLOAT-1 「セラビー,新人のジャズ・ピアニストを指して『新世代のジャズ・ピアニスト』と形容されることがあるけれど『新世代』のピアニストって,何が,昔のジャズ・ピアニストと違っているの?」。
 アキコ・グレース上原ひろみ山中千尋…。このように質問される機会が増えてきた。

 「そうだね。音楽のバックグラウンドが違うんだよ。ロックやポップスやクラシック。広い間口で取り入れられた要素をジャズのエッセンスで蛇口をひねった感じで…」。
 自分では100点満点の答えだと思っているが,これって分かりやすいんだか分かりにくいんだか…。

 説明がしどろもどろになってくる。でも大丈夫。管理人には水戸黄門の印籠がある。「ええい,控えおろう。この紋所が目に入らぬか〜」ばりに奨めるCDがある。それこそ,松永貴志の『LOVE MAKES THE EARTH FLOAT』(以下『地球は愛で浮かんでる』)。松永貴志の“最高傑作”である。

 『地球は愛で浮かんでる』の特徴こそ「新世代のジャズ・ピアノ」! この耳馴染みの良さは非ジャズにしてジャズの王道そのもの。緻密で複雑な音符の空間を跳ねるように飛び回る。痛快で爽快で難解な聴き応え! うお〜うほほ〜!

 ジャズアドリブとリズムであるが,非ジャズ=歌詞抜きでこそ成立するメロディアス。
 その象徴が「アルバムの顔」であるはずの1曲目の「非ジャズ」=ジャズ・ワルツ=【時の砂】。ロマンティックでメランコリックな美メロがスロー・テンポで短調と長調を行き来するジャズ・ワルツ
 2曲目で飛び込んでくる「松永貴志のオリジナル・ジャズ」=【マッド・クラブ・パーティ】。いつもの「技巧派でトンガリ系」なフリー・ジャズ
 3曲目の「名バラード」=【神戸】は前作『無機質オレンジ』収録トラックの再演。2年の時の経過が神戸の夜景に一層の深みを彩っている。

 そして4曲目こそ『地球は愛で浮かんでる』のハイライト=「新世紀エヴァンゲリオン」のテーマ【残酷な天使のテーゼ】のカヴァー
 オタク人生の管理人だがアニソンは手付かず。それゆえに後日【残酷な天使のテーゼ】の原曲を聞いた時の衝撃は大きかった。これがあの原曲? 松永貴志の,いいや「新世代ジャズ・ピアニスト」の恐ろしいまでの実力に目の玉が飛び出さんばかりだった。
 松永貴志クールなアレンジは,スピード感と変拍子とスリリング。この松永貴志ジャズメンとしてのアプローチはマイルス・デイビスキース・ジャレットのそれであろう。

LOVE MAKES THE EARTH FLOAT-2 松永貴志の非ジャズの魅力に落ちたが最後。5曲目以降は夢心地。批評などできる精神状態ではなくなってしまう。
 上記,神曲の4トラックを聴きさえすれば「新世代ジャズ・ピアニスト」の何たるかが,ジャズ・ピアノの新たな可能性を実感できるに違いない。とにかく超・超カッコよいのに超・超聴きやすい。

 『地球は愛で浮かんでる』での非ジャズジャズ・ピアノは新と旧に分類できる。「新世代のジャズ・ピアノ」は「ジャズから発生したピアノ音楽」と呼んだ方がふさわしいのかもしれない。

  01. Sands Of Time
  02. Mud Crab Party
  03. Kobe
  04. A Cruel Angel's Thesis (from 'Neon Genesis
     EVANGELION')

  05. Love Makes The Earth Float
  06. Street Performer
  07. Seaside Walk
  08. Powell Circle
  09. La Seule Gloire
  10. Water Balloon
  11. Traveler In The Wind

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2008年発売/TOCJ-68078)
(ライナーノーツ/藤本史昭,松永貴志)

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松永 貴志 / 無機質オレンジ5

INORANGE ORANGE-1 無機質とは「生物のチカラを借りずに,鉱物などから作り出せるもの」の意。有機質とは「生物のチカラを借りなくては作り出せないもの」の意。
 その意味で,松永貴志の4THCDINORANGE ORANGE』(以下『無機質オレンジ』)は,CDタイトルとは間逆の“有機質”な名盤である。

 とにもかくにも松永貴志ジャズ・ピアノが躍動している。19歳の血肉がスピードとダイナミズムを伴って迫ってくる。何ともエモーションで強烈な生命力を感じるのだ。
 『無機質オレンジ』で,若年寄りの殻を破った“等身大”の松永貴志が再デビュー。過去の3作と比べて一番「新人のいきのよさ」を感じさせる。松永貴志はやっぱり10代,若かった〜。

 本来,有機質であるはずのオレンジ。しかし松永貴志オレンジを「無機質なクールな一物体」として捉えている?
 この松永貴志の得意な選曲眼がジャズに向けられ完成した【無機質オレンジ】。思うに松永貴志の「無機質」とは「ジャズに必須なエモーション&感情の目を閉じること」。そう。音楽を感情抜きに,冷静に,理知的に…。

 事実【無機質オレンジ】に関するライナーノーツの記述の中に「1オクターブの間にある音を13個並べて,それを演奏するために8分の13拍子にした。それを右手と左手でリニアに動かしてテーマやソロを弾くのがこの曲のコンセプト」と書かれたあった。やっぱり音符の分析作業。
 学者が物事を理知的に分解していくのと同じように,ジャズ・ピアノ研究家?=松永貴志先生が音楽をジャズ・ピアノを理論的に分解していく。キメを多用し,無機質に,メカニカルにゴリゴリと進んでいく。まるでパズルを作っているかのように…。

 しか〜し,出来上がりだけを聴くと理論武装の痕跡は隠されている。一聴,機械的な音列で組み立てられた無機質な展開のその先に松永貴志の“ヒューマニズム”が溢れている。有機質オレンジの香りがほんのり漂っている。
 この感覚は松永貴志デビューCDTAKASHI』でも感じた,ジョン・コルトレーンの“シーツ・オブ・サウンド”的である。王道世代の理論家=ジョン・コルトレーンと新世代の理論家=松永貴志。コード進行の限界を越えてエモーションの頂点へと到達した共通点。
 事実『無機質オレンジ』でのジャズ・ピアノジョン・コルトレーンばりのフリー・ジャズ・テイストでもある。ここにも意外な共通点。ジョン・コルトレーンの道筋をこのまま歩み続ければ,浮気せずに歩み続けさえすれば,松永貴志もきっと大物になる〜。

INORANGE ORANGE-2 『無機質オレンジ』のハイライトはオリジナルの【神戸】とジャズ・スタンダードの【オン・グリーン・ドルフィン・ストリート】。この2トラックに“無機質なのに有機質な”松永貴志の才能が凝縮されている。

 こんなに大甘なバラードを19歳が作曲して良いものだろうか? なんてロマンチック神戸がメロディアスに美しい。
 こんなに激変アレンジな【オン・グリーン・ドルフィン・ストリート】は初めてである。なんて新鮮なビル・エヴァンスミシェル・ペトルチアーニで理路整然。素晴らしい。この2トラックは今後幾年も語り継がれるべき名演だと思う。

 さて,最後に“若年寄り”と呼ばれてきた松永貴志の若返りの秘訣を教えよう。それはベーシストウゴナ・オケグォドラマーエリック・ハーランドのニューヨークの老練との共演にある。
 ウゴナ・オケグォエリック・ハーランドの快演が松永貴志を童心へと帰らせた。CD−EXTRAで観せる松永貴志のニッコニコの笑顔。「あ〜,ピアノって,ジャズって,なんて楽しいのだろう。最高〜」(by 松永貴志の心の声?)

  01. INORGANIC ORANGE
  02. DAN DAN DAN
  03. A CHILD IS BORN
  04. ONIGASHIMA
  05. KOBE
  06. C JAM BLUES
  07. F・I・S・H・C・R・Y
  08. ON GREEN DOLPHINE STREET
  09. SKY DE SKY

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2006年発売/TOCJ-68071)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
CD−EXTRA仕様:【神戸】【無機質オレンジ】
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】

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松永 貴志 / TODAY4

TODAY-1 『OPEN MIND』がテレビ朝日系「報道ステーション」テーマ曲に採用された当時,CDショップのジャズ・コーナーは“松永貴志一色”であった。
 なぜ覚えているかというとCDショップのジャズ・コーナーに“さん然と輝く”松永貴志の顔&顔。ジャズ売り場の一等地でポスターと手書きのポップで注目を集める『TODAY』が山盛りに飾られていたのだった。

 笑顔ではない。あどけない表情でレンズをじっと見つめている。バックに写るニューヨークでの記念写真風。それがかえって松永貴志の“若さ”を感じさせてくれたものだ(余談であるがカメラ大好き管理人としては,敢えて無表情のカットをジャケット写真に選んだハイ・センスを絶賛したいと思います)。
 さて,この時点で管理人は松永貴志を【OPEN MIND】でしか知らなかった。率直に言えば,完全に追っかけ気分の矢野沙織の一共演者という認識でしか持っていなかった。
 「どれどれ,どれくらい弾き倒してくれてるの?」的な上から目線(スミマセン)の期待を抱き『OPEN MIND』のマキシ・シングルと共に『TODAY』を購入して帰宅した。

 そうして驚いた。「何,このおぼっちゃま。音はおっさんじゃないか!」。そう。『TODAY』から聴こえてきた松永貴志に,ベテラン・ジャズ・ピアニストを感じたのだ。
 まっ,これは共演するベーシストウゴナ・オケグォドラマーエリック・ハーランドの音なのだったと今となっては分かっているが,それでも第一印象とは末恐ろしい。
 管理人は今でも松永貴志を有望な若手ジャズメンの1人とは思っていない。思えない何かが根強く残っている。松永貴志は永遠の“本格派”なのである。 → う〜ん。この記述はウソではないが,松永貴志は永遠の“個性派”が正解かなぁ。そして松永貴志は非ジャズ・ピアニスト。これが大正解でしょう?

 それにしても東芝EMIは才能を酷使するものだ。大西順子の時もそうだったが,売れると分かると怒涛のリリース・ラッシュ。『TODAY』の時点で松永貴志デビュー後わずかに300日。17歳の青年に300日間でCD3枚も作らせますか〜。しかも8割はオリジナル曲で海外ロコーディングも企画するとは,売れっ子の鈴木福くんばり? 音は若年寄でも肉体は絶好調。若いって素晴らしいのだ〜。

 そんなレコード会社のプッシュに押されて,焼き直しとなった【ニューヨークの宿題】。ホレス・シルヴァーの【PEACE】のカヴァー。【オープン・マインド】を2テイク収録と不本意ながら?の選曲。でもこの選曲が良かった。この4トラックのおかげで管理人は松永貴志アドリブの才を堪能できたのだ。

 松永貴志のコンポーザーとしての才能は折り紙つき。松永貴志の楽曲にはジャズを知らない耳にもすんなり馴染む許容量の大きさのようなものを感じている。この「スーッとした耳馴染みの良さ」が,あらかじめ用意できないアドリブにおいても感じられるのだ。曲全体の構成とマッチするアドリブが実にメロディアス&ファンタスティック。破綻しないのに“濃厚なジャズの”アドリブを繰り出してくる。素晴らしい。今後は松永貴志カヴァー曲もアドリブ目当てで要チェックしようっ。

 そんなんでここでついでに脱線トーク。松永貴志バド・パウエルの名を冠したオリジナルを作曲するなどパウエル派を公言しているが,松永貴志はきっと後期パウエルが好きなのだろう。そして自分でも気づかないうちにミシェル・ペトルチアーニからの影響を受けているのではなかろうか? 松永貴志アドリブにつられ?ふとミシェル・ペトルチアーニの【LOOKING UP】を思い出したもので…。

TODAY-2 管理人の結論。『TODAY批評

 『TODAY』は「常識人の松永貴志」の記録である。『TODAY』は,どうにもこうにも正統派。『TAKASHI』→『MOKO−MOKO』(『STORM ZONE』)ときて,ちょうどいい塩梅で“ジャズ・ピアニスト松永貴志が完成した時期のレコーディングだったと思う。
 繰り返しになるが,ピアノ・トリオをリードするはウゴナ・オケグォエリック・ハーランドのリズム隊である。松永貴志は前2作と比べると“遠慮がちに”フィルインしている。ねっ,ここが「常識人の松永貴志」の記録の意。見事に「ピアノ・トリオピアニストの役割をこなしている。

 成長期の青年は大人の階段を上るにつれ,どんどん普通っぽくなっていく。人間どうしても常識人になるものだ。
 『TODAY』は“本格派”ジャズ・ピアニスト松永貴志唯一の記録。そういう意味では多くの王道・松永貴志ファンにとって『TODAY』がバイブル。『TODAY』が“押さえの一枚”であろう。

 管理人には『TODAY』よりも非ジャズ・ピアノな『地球は愛で浮かんでる』である。ただし『地球は愛で浮かんでる』を楽しめるのも『TODAY』があればこそ。
 『TODAY』を松永貴志の両輪の一つとして評価している。

  01. METAL DRAGON
  02. SUNSET IN THE CITY
  03. SING, SING, SING
  04. HOMEWORK
  05. OPEN MIND
  06. NYA-NYA-DANCE
  07. PEACE
  08. HAMBURGERING
  09. JIVE AT FIVE
  10. OPEN MIND (SAX VERSION)

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2004年発売/TOCJ-68063)
(ライナーノーツ/マイケル・カスクーナ)
CD−EXTRA仕様:【にゃーにゃーダンス】【ニューヨークの宿題】
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】

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松永 貴志 / MOKO-MOKO4

MOKO-MOKO-1 “史上最年少”ブルーノート・リーダー・アーティスト=松永貴志の“世界デビュー盤”『STORM ZONE』。
 『STORM ZONE』の真実はブルーノートの新録音ではなかった。日本既発売=松永貴志のセカンドCDMOKO−MOKO』の版権貸与。なあんだ。
 NO。なあんだではありませんよ。これってビッグ・ニュースですから〜。

 そんな松永貴志の『MOKO−MOKO』=『STORM ZONE』こそ,松永貴志デビューCDINTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA』のタイトルにふさわしい内容だと思う。
 そう。『MOKO−MOKO』こそが松永貴志の「INTRODUCING」。ジャズ・ピアニストであり名コンポーザーでもある松永貴志の魅力がストレートに伝わってくる。何と言っても全曲松永貴志のオリジナル集なのだから…。

 『INTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA』より『MOKO−MOKO』の方が完成度が高まっていることを認めた上での発言である。『MOKO−MOKO』は名盤ならぬ迷盤である。
 仮に『MOKO−MOKO』ではなく『INTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA』がワールド発売されていたなら松永貴志の人気は“こんな程度”ではなかったはずだ。スーパースターになっていて然るべき“天才”の1人だと思うのだが…。

 そう。松永貴志は迷盤『MOKO−MOKO』のせいで小曽根真上原ひろみになりそこなった。大西順子木住野佳子クラスにおさまってしまった(大西さん,木住野さん,ごめんなさい。私は小曽根さんや上原さんより大西さんや木住野さんの方が好きですから〜)。
 全てはまたしても東芝EMIの戦略ミス。大西順子が背負った十字架を現在は松永貴志が背負っている。背負わされている。

MOKO-MOKO-2 『MOKO−MOKO』での松永貴志の魅力はジャズ・ピアニストの域を超えてしまっている。完全に「THIS IS TAKASHI MATSUNAGA」な世界炸裂〜。リリシズムあふれるピクチャレスクな音世界〜。真に松永貴志のオリジナルは“自由奔放”なのである。
 ゆえに余計に耳に付くまとまり感。こじんまりとまとまってしまったのが惜しまれる。長所よりも短所が目立ってしまっている。

 【南十字星】【新しい朝】の2大佳曲をフィーチャーする脇役的な曲構成で制作されていたならばインパクトがあったはずなのだが…。演奏と作曲は良いのだが17歳にしてのセルフ・プロデュースは早すぎたかなぁ。

  01. SOUTHERN CROSS
  02. MOKO-MOKO
  03. NEW MORNING
  04. THE DO-TON BORI RIVER
  05. JUNGLE SONG
  06. THE WORLD IN SORROW
  07. STORM ZONE
  08. THE DOORWAY TO DREAMS
  09. BLUES FOR WHALES

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2003年発売/TOCJ-68059)
(ライナーノーツ/藤本史昭,松永貴志)
★2003年度ジャズ・ディスク大賞【ニュー・スター賞(国内部門)】受賞

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松永 貴志 / TAKASHI4

INTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA-1 管理人と松永貴志の出会いは矢野沙織命ゆえの『OPEN MIND』。『OPEN MIND』で興味を持って『TODAY』→『MOKO−MOKO』→『TAKASHI』と聴き込んでみた。

 感想はズバリ「若いなあ」。こんなに分かりやすい遡りも珍しい。徐々に角が取れていくのが実感できる。そう。デビューCDINTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA』(以下『TAKASHI』)が見事に“トンガッテいる”のだ。

 『TAKASHI』に録音されている松永貴志の演奏はとにかく勢いがある。「何でもかんでも弾き倒してやる」的な松永貴志のチャレンジ精神が感じられる。特に左手のフレーズがメロディとのバランスを崩す程の強力グルーヴ。個性有るのみの非正統派なアコースティックジャズロックピアノに大興奮である。

 いや〜,松永貴志が世間で“天才”と語られる理由がよく分かる。ブルーノートの最年少リーダー奏者となった理由がよく分かる。『TAKASHI』は録音されるべきして録音された“ジャズ・ピアノのアンチテーゼ”だと思っている。素晴らしい。

 松永貴志は完全にオリジナルな人である。演奏にしても作曲にしても編曲にしても…。
 まぁ,テクニックに関しては松永貴志より上手な10代のピアニストは山ほどいるので置いといて,ここではジャズの良し悪しを決定づける「間の取り方」について語ってみよう。

 「間の取り方」に関して,純粋なジャズ・ピアニストとしては松永貴志は落第である。タメがほとんどない。タメがないから,次のフレーズへの期待や出てきたフレーズへの衝撃度は薄い。そう。松永貴志ジャズ・ピアノは,ジョン・コルトレーンの“シーツ・オブ・サウンド”的な音符の大渋滞。
 例えばジャズ・スタンダードの【ビューティフル・ラヴ】。バラードなのに落ち着きがない。せわしなくトリオ以上の音が鳴り続ける。こんなに元気に【ビューティフル・ラヴ】を弾き倒していいの?

 ただしこの“せわしない”間がド・ハマリな【宿題】が快感。このトラックは超カッコイイ。“ホットな”松永貴志が“超クール”。
 『TAKASHI』のライナーノートによると「最初のウネウネと16分音符が続くところは,ガリガリと勉強している感じで「え〜い! もうやめた!」がジャッ・ジャーンというキメ」らしい。納得&納得。天才はオリジナルと共に現われる!

 【宿題】【空高く】【メロン】【ナイト・リヴァー】【ハイウェイ・リヴァー】のオリジナル5曲と【ビューティフル・ラヴ】【キャラヴァン】【イエスタデイズ】【チャイルド・イズ・ボーン】のカヴァー4曲との落差の激しいこと。
 このオリジナルスタンダードの落差こそが管理人が『TAKASHI』で感じる“ジャズ・ピアノのアンチテーゼ”の真髄である。

INTRODUCING TAKASHI MATSUNAGA-2 エルダー・ジャンギロフ松永貴志のような「新世代の天才」には,ジャズよりもロックがカッコイイのだ。その思いをエルダー・ジャンギロフ松永貴志は,幼い頃から慣れ親しんだ“ジャズの文脈の中で”クリエイトしてみせる。

 松永貴志が最初に接した音楽がロックでなくてよかった。天才の才能をロックに取られなくてよかった。ロック・バンドのキーボード・プレイヤーとしてではなく“ジャズ・ピアニスト”として松永貴志デビューしたことを音楽の神様に感謝する。

  01. HOMEWORK
  02. HIGH IN THE SKY
  03. BEAUTIFUL LOVE
  04. MELON
  05. CARAVAN
  06. NIGHT RIVER
  07. YESTERDAYS
  08. HIGHWAY BLUES
  09. A CHILD IS BORN

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2003年発売/TOCJ-68058)
(ライナーノーツ/藤本史昭,松永貴志)
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】
★2003年度ジャズ・ディスク大賞【ニュー・スター賞(国内部門)】受賞

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松永 貴志 & 矢野 沙織 / オープン・マインド / OPEN MIND - SAORI YANO VERSION5

 『OPEN MIND』の3曲目は【OPEN MIND − SAORI YANO VERSION】(以下【オープン・マインド(矢野沙織ヴァージョン)】)。


 “成熟した”ジャズ好きのためのニュー・スタンダード! 最新の4ビートでスイングして“魅せる”【オープン・マインド】! それが【オープン・マインド(矢野沙織ヴァージョン)】の真実である。

 【オープン・マインド(オリジナルTVヴァージョン)】と【オープン・マインド(矢野沙織ヴァージョン)】の違いはピアニストの個性の違い。正確にはピアニストの個性に適応した矢野沙織の演奏スタイルの違いである。

 松永貴志ピアノと対峙すると,普段の爽やか青年から「そこのけそこのけ」へと表情が一変してしまう。そう。松永貴志は自身が敬愛してやまないバド・パウエル・タイプの「自己主張型」である。
 一方,ハロルド・メイバーンは,ソロではバリバリでキレキレなのだが,サイドに回ると優しく美メロに表情を添えていく。そう。トミー・フラナガン・タイプの「名脇役型」である。

 「攻め」の松永貴志にはガップリ四つに組み合ったが「受け」のハロルド・メイバーンとは共存共栄。“熟練したまろやかな味わい”とでも呼ぼうか,これが17歳の演奏とは百戦錬磨のジャズ批評家の耳を持ってしても分かるまい。艶があり翳りがある深い音色にパーカー・フレーズがブレンドされている。

 全てをその場の雰囲気だけで演っているかのような“柔軟なノリ”を見様見真似で体得した“天才少女”の出現こそ“正統派モダンJ−ジャズの歴史が産み落とした“サラブレット”であろう。矢野沙織の将来を考えると末恐ろしくなる。

 ハロルド・メイバーン・クインテットのフロントマンとして,トーンを落とした“渋めの演奏”を展開する。しかしそこに“朗々とした”アドリブを吹き上げてくるから“天性のまろやかさ”が一段と映える映える!
 ビブラートを交えた3分20秒でのアタックには,矢野沙織のクール一面が出ている。お見事!

SAORI YANO : Alto Sax
HAROLD MABERN : Piano
NAT REEVES : Bass
JOE FARNSWORTH : Drums
PETER BERNSTEIN : Guitar

松永 貴志 & 矢野 沙織 / オープン・マインド / OPEN MIND - TAKASHI MATSUNAGA VERSION5

 『OPEN MIND』の2曲目は【OPEN MIND − TAKASHI MATSUNAGA VERSION】(以下【オープン・マインド(松永貴志ヴァージョン)】)。


 “爆走する”ピアノ・トリオである。アップテンポの【オープン・マインド】である。
 そう。これが【オープン・マインド(松永貴志ヴァージョン)】の真実である。

 「矢野沙織好き」を公言する管理人としては【オープン・マインド】を購入したのも,当然【矢野沙織ヴァージョン】目当てであったのだが…。
 ドッコイ,【オープン・マインド(松永貴志ヴァージョン)】で松永貴志に“開眼”させられた!
 今更【松永貴志ヴァージョン】の方が出来が良い,など口が裂けても言えませんが,心の中ではそう思っています。はい。「ココだけの話」は眞鍋かをりです。

 松永貴志ジャズ・ピアノを弾きまくっている。3分9秒でのタイム感や3分19秒の高音オクターブでのフィナーレで盛り上がる。
 超テクニカルなのに,そんな技術云々を吹き飛ばす,山下洋輔バリの“勢い”が圧巻! 若さって素晴らしい!

TAKASHI MATSUNAGA : Piano
DAIKI YASUKAGAWA : Bass
MASAHIKO OSAKA : Drums

松永 貴志 & 矢野 沙織 / オープン・マインド / OPEN MIND - ORIGINAL TV VERSION5

 『OPEN MIND』の1曲目は【OPEN MIND − ORIGINAL TV VERSION】(以下【オープン・マインド(オリジナルTVヴァージョン)】)。


 【オープン・マインド(オリジナルTVヴァージョン)】が放つ“新時代の空気感”こそ,2人の天才,松永貴志矢野沙織の共演の成果である。

 55秒から1分13秒までの番組オープニング・メイン・テーマと37秒から52秒までのサブ・テーマ(お天気とかスポーツへの橋渡し部分)が確かに『オープン・マインド』の“肝”であり【オープン・マインド・フィーチャリング・矢野沙織】に思えるが…。

 【オープン・マインド(オリジナルTVヴァージョン)】をフル試聴してもらえれば,上記テーマ部が,確かに【オリジナルTVヴァージョン】に過ぎないことが理解できる。
 そう。“真の主役”は松永貴志ピアノである。

 報道ステーションのオープニングで画面から消え去っていく? 1分14秒からの松永貴志アドリブが素晴らしい。報ステでも逆にフェードインして使って欲しいぐらい完璧な出来! 1分39秒からのサブ・テーマの崩しは「そうそう」と大納得してしまう。

 その他,矢野沙織の細かなビブラートなど【オリジナルTVヴァージョン】の「フル・ヴァージョン」でなければ楽しめない“旨味”がギッシリ! 是非一度,フル試聴されたし。

SAORI YANO : Alto Sax
TAKASHI MATSUNAGA : Piano
DAIKI YASUKAGAWA : Bass
NOBUYUKI KOMATSU : Drums

松永 貴志 & 矢野 沙織 / オープン・マインド5

OPEN MIND-1 ジャズの名門レーベルと言えば「ブルーノート」であろう。65年の歴史を誇る“超名門”の最年少リーダー奏者についてご存知であろうか?

 驚くなかれ! 答えは録音当時?日本の現役高校生=松永貴志“その人”である。(正確にはBN録音ではなく買い取り販売であるが…)

 このビッグ・ニュースに日本のメディアが喰いついた! その一つの“か・た・ち”が,読者の皆さんも毎晩耳にしているかも知れない,テレビ朝日系「報道ステーション」テーマ曲OPEN MIND』(以下『オープン・マインド』)である。

 しかし…。管理人が矢野沙織ファンだからそう聴こえるだけ? いや,あの番組オープニングの20秒間の演奏は,完全なる矢野沙織ソロ・パート。
 そう。『OPEN MIND − ORIGINAL TV VERSION』でのあの編集は矢野沙織を聴くためにある。ズバリ,あの編集指針は正しいと思う。

 しかし『オープン・マインド』の真実は,松永貴志“その人”を聴くためにある! 管理人が矢野沙織ファンでなかったら,何であんな編集にしたのかと文句の一つも言いたくなるだろう。
 真実の『オープン・マインド』のハイライトは,古舘伊知郎のご挨拶により,フェードアウトしていくピアノ・ソロ! 矢野沙織アルト・サックスを選んだ編集者を最後まで悩ませたであろう。こちらも天才的な名演である。

 松永貴志アドリブは,矢野沙織の引き立て役に収まってしまった自分に対する憤り。そして“俺がこのユニットのリーダー&作曲者である”との強い意思表示を感じてしまう。このジャズ・ピアノに“ビンビン”感じてしまう。

 『オープン・マインド』で,10代にして一時代を築き上げた松永貴志であるが,その後の彼について語るのは少し厳しい。勿論,まだまだ20歳。松永貴志の将来はこれからである。
 しかし管理人が松永貴志にマイナス・イメージを持っているのは,若くして天才と謳われたゆえの“弊害”である。自分のスタイルを確立し大成功したとなれば,誰しもそのスタイルを継続して追い求めたくなるものだ。

OPEN MIND-2 一言で言えば『オープン・マインド』以降の松永貴志ジャズ・ピアノには“新鮮味”が薄れている。10歳でCDを制作した輝かしいキャリアが逆に災いしたのかもしれないが,すでに“若年寄”の雰囲気がある。
 そう。無意識のうちにパターン化,マンネリ化という“罠”にはまってしまっているのでは?

 松永貴志の才能はこんなものではないはずだ。『オープン・マインド』を超える名演を早く聴かせてほしいと思っている。

  01. Open Mind - original TV version
  02. Open Mind - Takashi Matsunaga version
  03. Open Mind - Saori Yano version

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2004年発売/TOCP-40174)

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