
仮にこのような記念盤でこけてしまうと,次の5周年や10周年が危うくなる。そう。記念盤は売れてこそ。まず守りを固めてからの攻め。2011年の落合・中日ドラゴンズ仕様である。
しかしジャズメンはアーティスト。記念盤であるからこそ,リスクを冒してでも,新しい音楽の創造にこだわる大物もいる(ペーペーはレコード会社主導ゆえ冒険は難しい)。大物だけに許された大勝負。
読者の皆さんにお奨めする。松岡直也の音楽生活45周年記念盤『EMERALD』(以下『エメラルド』)を聴いてみてほしい。とにかく熱いのだ。徹底的に攻めて,結果,敗北を喫した松岡直也の男気を…。
『エメラルド』のコンセプトは大人数でのセッションCD。松岡メロディーを大切にする御大が,純粋なセッションCD,インプロヴィゼーションCDを発売するのは『見知らぬ街で』以来であるから15年振りのことになる。日本シリーズ最終戦は山井を先発させた大勝負。でもこの男気が勝負の綾を狂わせてしまった。
インプロヴィゼーション中心のセッションとなれば,どうしてもメンバーの長めのソロが多くなる。この場合,ジャズのスタンダードなら本領発揮だったのだろう。
しかし旧知のメンバーもいるとはいえ,松岡直也のラテン・フュージョン初参加にしてメインを張った川嶋哲郎には難しかった。ジャズ専業らしい素晴らしいアドリブを吹いてはいるが,正直,松岡メロディーとはノリが合っていない。
2番手扱いの?土岐英史,佐藤達哉,向井滋春をメインに据えれば,ジャズのアドリブではなくフュージョンのアドリブが全体を支配する,狙い通りのエメラルドなセッションCDが完成したのかもしれない。
でもしょうがない。この人選には『エメラルド』録音時の大人の諸事情が関連している。松岡直也の音楽生活45周年のメモリアルを目前にして,前作『シーラカンスの夢』での失速が原因なのか?長年在籍したワーナー・ミュージックとの契約が終了。寵愛してきたギター・ヒーロー=大橋勇も手放してしまった。
そう。松岡直也が『エメラルド』で狙ったは大橋勇抜きの「WESING・アゲイン」! 大橋勇抜きに「BANDA GRANDE」は演奏できない。「BANDA GRANDE」で造り上げてきた鉄壁のホーンを“鳴らすための”「WESING・アゲイン」! どうだ〜。企画は決まった,セッションCD〜。

敗北から学ぶことだってある。勝つことからは学べないことだってあるのさっ。
大一番を取りこぼしても松岡直也と落合博満は名監督です。
01. Emerald
02. The Deep Sea
03. Cross The Atlantic
04. The Prime of Life
05. Groovin' High
06. Messenger
07. Nuestra Fiesta
08. Django Bop
09. Legend of Love
(ホリプロ/HORIPRO 1997年発売/XYCF-50008)
(ライナーノーツ/熊谷美広)
(ライナーノーツ/熊谷美広)