HAPPENINGS-1 『HAPPENINGS』(以下『ハプニングス』)のCD帯に,紹介文がこのように書かれている。
 「新主流派の一方の顔となった新感覚派ヴァイヴ奏者の代表作」。「ハービー・ハンコック参加,もうひとつの《処女航海》収録」。

 そう。ジャズ史における「新主流派の一方の顔」であり「もうひとつの《処女航海》」のコピー通りな「新主流派」について語る時に“絶対に外せない”名盤の1枚が,ボビー・ハッチャーソンの『ハプニングス』なのである。

 『ハプニングス』の評価を何がそこまで高めているのか? ズバリ「新主流派」のエッセンスが凝縮された“知的で繊細でクールなジャズ”!
 ヴァイヴという楽器自体がそもそも“COOL”なのだが,ボビー・ハッチャーソンのモーダルなプレイは“透明なCOOL”。鉄琴の硬質な音色がビブラートすることでリリカルに響き,幻想的な気分に誘われる。

 ヴィブラフォンボビー・ハッチャーソンピアノハービー・ハンコックベースボブ・クランショウドラムジョー・チェンバースによる緻密なインタープレイは「鉄琴の鉄板」!

 特にピアノハービー・ハンコックが『ハプニングス』のベクトルを大きく定めているように感じる。“目玉”であるハービー・ハンコックの再演となる【処女航海】以外の楽曲はボビー・ハッチャーソンオリジナルなのだが,アルバム全てにハービー・ハンコックの雰囲気が漂っている。

 いずれもモーダルな曲想の中にドライブ感が感じられ,過度な前衛にもコマーシャルにも傾かない「クールネス」な「新主流派」の王道を貫くスタンスがお見事。
 同じヴィブラフォン奏者でもボビー・ハッチャーソンヴァイヴは“ピアノ寄り”な感じで,ミルト・ジャクソンに代表されるブルージーでソウルフルなインスピレーションとは一味違ったシステマチックな「新主流派」のヴィブラフォンが新鮮に響いている。

 そんなボビー・ハッチャーソンが演奏するハービー・ハンコックの【処女航海】が最高である。巷で新常識っぽく語られている通り,ボビー・ハッチャーソンの極上のヴァイヴが,本家『MAIDEN VOYAGE』の【処女航海】を超えている!?
( …と思う日がたまにあるのも事実。でも管理人的には【処女航海】は,やはりフレディー・ハバードジョージ・コールマンをフロントに迎えたハービー・ハンコックヴァージョンの出来が上だと思う )

HAPPENINGS-2 ボビー・ハッチャーソンの美しい単音のヴァイヴと独特のグルーヴ感が【処女航海】の曲想にマッチしている。
 ハービー・ハンコック名義の【処女航海】が,暖かな海を悠々と航海に乗り出す雰囲気だとすると,ボビー・ハッチャーソン名義の【処女航海】は,氷山が遠くに見えるような厳冬の海に緊張感をもって航海する雰囲気に満ちている。

 ハービー・ハンコックというジャズ・ピアニストは,モーダルな演奏に徹したらあまりに妥協がなくなる。バッキングと短いピアノ・ソロの内省的なアプローチが,管楽器ではなく“ヴァイヴらしい”透明感の高い名演となっている。

 とは言え『ハプニングス』は,歴史に残る問題作とも衝撃作ともほど遠い,基本「オーソドックスなモード」である。普通と違うアプローチを挙げるなら「旋律的な部分とクールな雰囲気の調和を図ったメカニカルなアルバム」ということになるだろう。
 そう。『ハプニングス』の真実とは,ボビー・ハッチャーソンが取り組んだ「モードジャズの総決算」!

 浮遊感漂う不思議なムードに乗って叩き出されるボビー・ハッチャーソンヴァイヴが,演奏全体をクールに引き締め,非常に理知的な雰囲気を醸成している。張り詰めた緊張感と透明感溢れる不思議な空間が「新主流派」の音楽法則に従って秩序正しくまとまっていく。素晴らしい。

  01. AQUARIAN MOON
  02. BOUQUET
  03. ROJO
  04. MAIDEN VOYAGE
  05. HEAD START
  06. WHEN YOU ARE NEAR
  07. THE OMEN

(ブルーノート/BLUE NOTE 1966年発売/TYCJ-81027)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,マイケル・カスクーナ,後藤雅洋)

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