AS WE SPEAK-1 世界一の“泣きのブロー”を個性とするデヴィッド・サンボーンなのだから,デヴィッド・サンボーンは「何を吹いてもデヴィッド・サンボーン」。
 しか〜し,基本は同じのデヴィッド・サンボーンほど,アルバム毎に違った表情を見せてくれるジャズメンもそうはいない。デヴィッド・サンボーンはチャレンジャーなのだ。

 「スタジオ・ミュージシャンのまんま」な『テイキング・オフ』。ソロ・アーティスとしての「自己主張」作『メロー・サンボーン』。「デヴィッド・サンボーン・バンド」の『流麗なる誓い』。「直球すぎる」アルトサックスの『ハート・トゥ・ハート』。ボーカル「封印」の『ハイダウェイ』。マーカス・ミラーに「引き出しを開けられてしまった」『夢魔』。
 オンリーワンの“サンボーン節”が,こんなにも変化するのだからたまらない!

 で,今夜の主役=『AS WE SPEAK』(以下『ささやくシルエット』)であるが,デヴィッド・サンボーンの全ディスコグラフィ中“孤高”のアルバムである。
 続く『バックストリート』が『ハイダウェイ』〜『夢魔』のラインに舞い戻った感じがするから余計に『ささやくシリエット』の“異質”が際立っている。

 『ささやくシルエット』の“突然変異”の最大要因は,従来のマイケル・コリーナレイ・バーダニマーカス・ミラーの手を離れたロバート・マーグレフによる新プロデュースが大きい。
 『ささやくシルエット』でのロバート・マーグレフの狙いは“サンボーン節”&男性ボーカルの「AOR」であった。

 クルセイダーズランディ・クロフォードと組んで大ヒットした【STREET LIFE】以降,フュージョンと女性ボーカルの組み合わせが試されてきた。デヴィッド・サンボーンもこれまでラニ・グローヴスパティ・オースティン等と共演してきたのだが,ロバート・マーグレフは“サンボーン節”にマイケル・センベロという新たな才能をぶつけてきた。

 このマイケル・センベロこそが,マーカス・ミラーリッキー・ピーターソンに次ぐ,デヴィッド・サンボーンにとっての重要人物。まっ,理由は後の【THE DREAM】なのだから…。
  
 『ささやくシルエット』でのマイケル・センベロが「AOR」。マイケル・センベロギターも弾くが,これがまたマーカス・ミラーオマー・ハキムの鉄壁のリズム隊と相性バツグンのカッティングで,R&B寄りだった“サンボーン節”が一気に「垢ぬけたシティ系」に仕上がっている。

 デヴィッド・サンボーンには珍しくソプラノサックスを多用しているのもロバート・マーグレフ効果なのか,とにかく『ささやくシルエット』が,デヴィッド・サンボーンが一番グローヴァー・ワシントンJR.に近づいたアルバムである。

AS WE SPEAK-2 オープニングの軽快な【ポート・タウン・セレナーデ】に始まり,慌しい都会の動きを表現した【ラッシュ・アワー】。夕暮れが摩天楼に映える【ストレイト・トゥ・ザ・ハート】など「都会的なオシャレ」を凝縮したかのようなアルバム作りで全曲名曲。

 そんなデヴィッド・サンボーン初の“5つ星”名盤=『ささやくシルエット』の中核を成すのが「AOR」の【バック・アゲイン】。【バック・アゲイン】でのマイケル・センベロの活躍なくして“フュージョン・男性ボーカリスト”は誕生していない。

 そう。「何を吹いてもデヴィッド・サンボーン」が『ささやくシルエット』で吹いたのは,あの時代のフュージョン・サックス → これが近未来のスムーズ・ジャズだったのかっ!?
 82年リリースにして,すでにバブリーな『ささやくシルエット』のジャケットでの「逆三角形のいかり肩の肩パット」が“アーバン・ストリーム”の象徴になるのであろう。

  01. PORT OF CALL
  02. BETTER BELIEVE IT
  03. RUSH HOUR
  04. OVER AND OVER
  05. BACK AGAIN
  06. AS WE SPEAK
  07. STRAIGHT TO THE HEART
  08. RAIN ON CHRISTMAS
  09. LOVE WILL COME SOMEDAY

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1982年発売/WPCP-3561)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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