FREEDOM AT MIDNIGHT-1 思うにデイヴ・グルーシンの引退には,少なからずデビッド・ベノワの存在が関係しているのではなかろうか?

 なぜならデイヴ・グルーシンの引退後,改めて聴き直したデビッド・ベノワの『FREEDOM AT MIDNIGHT』(以下『フリーダム・アット・ミッドナイト』)に,発売当時は感じなかったデイヴ・グルーシンの『マウンテン・ダンス』的な雰囲気を感じ取ってしまったからだ。

 そもそもデビッド・ベノワが影響を受けたアイドルとして公言する,ビル・エヴァンスと並ぶ存在がデイヴ・グルーシンであった。しかし,個人的にこれまで聴いてきたデビッド・ベノワに,ビル・エヴァンスを感じることはあってもデイヴ・グルーシンを感じたことは1度もなかった。
 だ・か・ら『フリーダム・アット・ミッドナイト』の中に潜んでいた,デビッド・ベノワの内面に宿るデイヴ・グルーシンの存在感に驚くとともに「管理人の耳はロバの耳」にガックシ。

 『フリーダム・アット・ミッドナイト』とは,キャッチーで容易に口ずさめるようなメロディー・ライン,キラキラとした音色の輝きといった,いつものデビッド・ベノワの“らしさ”溢れるアルバムであるが『フリーダム・アット・ミッドナイト』だけに顕著なデイヴ・グルーシンの「造詣の深さ」が色濃い。

 ジャズフュージョンをルーツとして,映画音楽やストリングス,イージーリスニング的なアプローチをラス・フリーマンダン・ハフエイブラハム・ラボリエルジョン・パティトゥッチジェフ・ポーカロレニー・カストロトニー・モラールズという,その道のプロフェッショナルが集う,最高の人選で演奏してくれる。
 最高度に「軽い音楽」である。でも決して「薄くない音楽」である。硬と軟のバランスが実に素晴らしい。

 『フリーダム・アット・ミッドナイト』の5つ星は,ラジオでヘビーローテーションされた【FREEDOM AT MIDNIGHT】〜【ALONG THE MILKY WAY】〜【KEI’S SONG】までの1・2・3で大決定!

 爽やかでブリリアントでメロディアス,そこへマイナー調が重しを聴かせるスムーズ・ジャズ路線のハイセンスな“キラキラ”! デビッド・ベノワにしては珍しいシンセサイザーの全面採用が“華”! ついにデビッド・ベノワが,デイヴ・グルーシンのフォロワーとしての顔を惜しげもなく見せつけてきた!

FREEDOM AT MIDNIGHT-2 そう。名盤フリーダム・アット・ミッドナイト』の成功は,デビッド・ベノワと組んだデイヴ・グルーシンの存在なしには語れない。
 デイヴ・グルーシンGRPだからこそ,デビッド・ベノワが思う存分,自分のやりたいコンテンポラリーを展開することができたに違いない。

 デイヴ・グルーシンのフォロワーとして,デビッド・ベノワの歩む道を先導したのがデイヴ・グルーシン,そして主宰するGRPへ移籍してきたデビッド・ベノワの背中を後押ししたのもデイヴ・グルーシンである。

 完成した『フリーダム・アット・ミッドナイト』のレイドバックにデイヴ・グルーシンがいたく感動していたそうだ。かつてデイヴ・グルーシン自身が作ろうとしていた「理想のフュージョン・ミュージック」が,今やデビッド・ベノワの手中にある。

 デビッド・ベノワの“天才”に大満足したからこそデイヴ・グルーシンは引退した。デイヴ・グルーシンの「後継者」はデビッド・ベノワ“その人”なのである。

 
01. Freedom At Midnight
02. Along The Milky Way
03. Kei's Song
04. The Man With The Panama Hat
05. Pieces Of Time
06. Morning Sojourn
07. Tropical Breeze
08. Passion Walk
09. Del Sasser
10. The Last Goodbye

 
DAVID BENOIT : Piano, Midi Electric Grand Piano
SAM RINEY : Tenor Saxophone, Alto Saxophone Solo, Soprano Saxophone
RANDY KERBER : Synthsizers
DAN HUFF : Guitar
RUSS FREEMAN : Guitar
ABRAHAM LABORIEL : Bass
BOB FELDMAN : Bass
JOHN PATITUCCI : Upright Bass, Acoustic Bass
JEFF PORCARO : Drums, Percussion
TONY MORALES : Drums
LENNY CASTRO : Percussion
MICHARL FISHER : Percussion
JOE PORCARO : Percussion, Mallets
OSAM KITAJIMA : Koto

(GRP/GRP 1987年発売/UCCR-9013)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/松下佳男,藤あずさ,熊谷美広)

アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION



裁き人サムソン(裁13:1-16:31)
赤松敏弘 『LONDONDERRY AIR