PAST, PRESENT & FUTURES-1 「ジャズとは本来こうあるべきである。ピアノ・トリオとは本来こうあるべきである」。
 『PAST,PRESENT & FUTURES』(以下『過去,現在,未来』)の第一印象がこうであった。それ以来,何度も聴き返しているがその印象は未だに変わらない。

 『過去,現在,未来』は,伝統と現代,即興と編曲という永遠の命題に対するチック・コリアからの明確な解答である。チック・コリアの「アコースティックの追求の旅」は,ついに『過去,現在,未来』で,1つのゴールに到達したのだと思う。
 そう。『過去,現在,未来』は,よくある「実験作」の1枚ではない。「アコースティックの追求の旅」を終えるにあたり,チック・コリアが「こうすればこうなる」ことを事前に予想して録音された,精緻にして高集積,恐ろしく手が込んだピアノ・トリオの“集大成”なのである。

 複雑なビートに取り囲まれ,あれよあれよと言う間に有機的に絡み合った「音の洪水」に流されてしまうような感じ。不思議と典型的な4ビートが後ろに引っ込んでしまい,複雑に絡み合って進んで行くピアノ・トリオが「スライム状に」広がっていく。

PAST, PRESENT & FUTURES-2 チック・コリアの明確な意思の下にコントロールされたピアノ・トリオが,ベースアヴィシャイ・コーエンドラムジェフ・バラードと組んだ,その名も「チック・コリア・ニュー・トリオ」である。

 個人的には「ニュー・トリオ」のネーミングに,チック・コリアの“思いの強さ”が感じられる。
 『過去,現在,未来』は,チック・コリアの過去のキャリアを総括した“集大成”に違いない。つまりは『過去』である。
 その『過去』を『現在』の活動の母体である「オリジン」のリズム隊と組んだ,メインストリートなピアノ・トリオ。つまりは『現在』である。

 ではチック・コリア」が提示したピアノ・トリオの『未来』とは何のなのか? チック・コリアからの解答は「完全武装」であった。
 「チック・コリア・ニュー・トリオ」は,ジャズ本来の音楽,ピアノ・トリオ本来の音楽を具現化した“完全無欠”なジャズ・ピアノ

PAST, PRESENT & FUTURES-3 『過去,現在,未来』は,もはや一般のリスナーを寄せ付けない“横綱相撲”である。とにかく凄い。凄まじい。圧倒的なエネルギーで満ち満ちた「チック・コリア・ニュー・トリオ」。

 だから来る。「チック・コリア・ニュー・トリオ」はとにかく来る。お腹にズッシリと溜まって来る。
 管理人は『過去,現在,未来』のような硬派なピアノ・トリオが,ジャズ本来のピアノ・トリオと信じているが,中には『過去,現在,未来』を聴いて,これはジャズではない,と主張する人がいても不思議ではないとも想像する。

 『過去,現在,未来』には,一般的なジャズの楽しさを超えた厳しい演奏がみっちりと続いている。『過去,現在,未来』を聴く時の思いは「ニュー・トリオ」と対峙するような趣きを感じる。「スライム」が広がっていく様子を捉えられるかどうか,が勝負所なのである。
 つまり,軽い気持ちでBGM風に聞き流すわけにはいかない種類のジャズ・ピアノ。とても初心者には操ることができない“ジャズ・ピアノの怪物マシン”だと思う。“ピアノ・トリオのモンスター”なのである。

PAST, PRESENT & FUTURES-4 『過去,現在,未来』の圧倒的な演奏を前にして,ジャズ・ピアノに,これ以上の進歩を求めてもよいのだろう? お腹一杯である。満腹感に襲われて『過去,現在,未来』を聴いた日は他のジャズ・ピアノなど聴けなくなってしまう。

 だから『過去,現在,未来』を聴いていると『未来』への閉塞感を感じてしまって嫌になる。呆れるほどに完璧な演奏『過去,現在,未来』に“早過ぎた名盤”の称号を与えたい。

  01. Fingerprints
  02. Jitterbug Waltz
  03. Cloud Candy
  04. Dignity
  05. Rhumba Flamenco
  06. Anna's Tango
  07. The Chelsea Shuffle
  08. Nostalgia
  09. The Revolving Door
  10. Past, Present & Futures
  11. Life Line
  12. 500 Miles High

(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 2001年発売/UCCJ-3008)
(ライナーノーツ/チック・コリア,小川隆夫)
(☆スリップ・ケース仕様)

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)