BENEATH THE MASK-1 “テクニカル・フュージョン”の『BENEATH THE MASK』(以下『ビニース・ザ・マスク』)こそが「エレクトリック・バンド」名義の“最高傑作”である。

 『ビニース・ザ・マスク』の真の問題点は,それこそ「熱心なチック・コリア・マニア」からの低評価にある。気持ちは分かる。“超絶技巧の突出”を過大評価したくない気持ちは分かる。

 転調や変拍子でさえ,打ち込みでプログラムされた自動演奏のような超高速で正確無比な運指から放たれる一音一音は,その全てが恐ろしく粒立っており,最先端のテクノロジーでも“絶対に手が届かないレベルの”完成された“超絶技巧の突出”。
 バカテクが余りにも凄すぎて,超絶なのにいとも簡単にプレイしているようにさえ感じさせる。涼しげで余裕でゆとりの“超絶技巧の突出”に,もはやため息しか漏れやしない。

 もはや譜面通りにコピーすることなど至難の業。いいや,もしかしたら譜面通りにコピーすることは可能なのかもしれない。しかし,果たしてこれだけの“GROOVE”が出せるのだろうか?

 それは恐らくジョン・パティトゥッチのように,デイブ・ウェックルのように,エリック・マリエンサルのように,フランク・ギャンバレのように,チック・コリアの音楽,を感じることができなければ到底不可能なことであろう。

 そう。「エレクトリック・バンド」とは,譜面ではなく,チック・コリアの音楽,を感じながらプレイするバンドである。
 チック・コリアへの尊敬の念,チック・コリアとの共有とか共感といった崇敬の念があればこそ,あそこまで弾きまくっているのに弾きすぎる嫌いが全くない。

 行き着くところまで行き着いた感のある『ビニース・ザ・マスク』での“テクニカル・フュージョン”を軽く見てはならない。
 「熱心なチック・コリア・マニア」であればこそ,逆に高く評価すべき,高速走行性能の安定性は異次元の音世界である。チック・コリア史上最高の演奏集なのである。 

 「エレクトリック・バンド」の超絶技巧に日本のテクニカルなフュージョン・バンドは,カシオペアにしてもプリズムにしてもDIMENSIONにしても敵わない。束になっても敵わない。「エレクトリック・バンド」こそが“楽器小僧”のバイブルであろう。

 しか〜し,管理人が『ビニース・ザ・マスク』を「エレクトリック・バンド」名義の“最高傑作”と評価するのは,上記“超絶技巧の突出”だけが理由ではない。
 『ビニース・ザ・マスク』を聴き続け,アルバム作りの全体像が見通せるようになったある日のこと。「あれっ,これって,あのアルバムの「エレクトリック・バンド」っぽい」を感じるようになった。

 そう。『ビニース・ザ・マスク』には“ド派手な”プログレフュージョンの『ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド』。“スムーズ・ジャズ”の『ライト・イヤーズ』。“叙情詩”の『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』。“エレクトリックジャズ”の『インサイド・アウト』の要素が全て顔を出しているではないかっ!

BENEATH THE MASK-2 「エレクトリック・バンド」の過去の4作品も完成されたアルバムであった。しかし『ビニース・ザ・マスク』を聴いていると,過去のアルバムにはまだ発展の余地が残されていたことが理解できる。
 『ビニース・ザ・マスク』の「以前と以後」とでは,完成度に歴然とした違いがある。

 この事実に気付いてからはもう大変! 軽く聞き流していても,音のベールの裏側を丹念に調べても,どこからどう聴いてみても「THIS IS CHICK COREA」な音楽が流れてくる!
 POPでキャッチーな間口の広さに,長年の蓄積から来る“メロディーの妙”が隠されている! これほどまでに高度な音楽性で組み上げられているのに,シンプルなサウンドに回帰したかのような見事なバランス!

 『ビニース・ザ・マスク』の真実とは“テクニカル・フュージョン”という仮面を被った(だからアルバム・タイトル『ビニース・ザ・マスク』?)「ELEKTRICK BAND」の「集大成」→「ELEKTRICK BAND」の「洗練」なのである。

  01. BENEATH THE MASK
  02. LITTLE THINGS THAT COUNT
  03. ONE OF US IS OVER 40.
  04. A WAVE GOODBYE
  05. LIFESCAPE
  06. JAMMIN E. CRICKET
  07. CHARGED PARTICLES
  08. FREE STEP
  09. 99 FLAVORS
  10. ILLUSIONS

(GRP/GRP 1991年発売/MVCR-8)
(ライナーノーツ/坂本信)

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