THE LEPRECHAUN-1 管理人のジャズフュージョン・ファン歴30年を振り返る時,今となっては本当に勿体ないことをした,と思うことが幾つかある。今日はその中でも最大級に自分自身への後悔の念を吐露する回となる予定である。

 な・に・を・懺悔するのですか? それはチック・コリアについてである。長らく管理人はチック・コリアを「凄い」とは思うが「好き」とは思わなかった。
 チック・コリアの新作を発売日当日に購入し,胸ときめかせながらヘッドフォンで聴き込んでいく。これが管理人にとっての「好き」な人への儀式なのだが,チック・コリアが儀式の対象となったのは,ここ10年ぐらいなものである。真に勿体なかった!

 なぜか? その直接の原因が『THE LEPRECHAUN』(以下『妖精』)『MY SPANISH HEART』(以下(『マイ・スパニッシュ・ハート』)『THE MAD HATTER』(以下『マッド・ハッター』)から成る「ファンタジー三部作」の存在である。

 今振り返れば,チック・コリアのアルバムはその半数近くが何らかの「コンセプト・アルバム」である。ゆえに「ファンタジー三部作」だけを目くじら立てて煙たがるのもどうかと思う。
 しかし,どうしてもダメだった。これは,俗に女性がよく口にする「生理的にダメ」というものと同じような感覚? 管理人にとってチック・コリアの“少女漫画のおめめきらきらロマンティック”全開の「ファンタジー三部作」は完全なる「イロモノ」→完全に「アウト」であって,この手の精神世界は全てご遠慮いただいていた。

 特に今夜紹介する「ファンタジー三部作」の1作目『妖精』のアルバム・ジャケットがマジ最悪。ハレンチ男で有り得ない。半端ないコスプレ臭がプンプン。どこから見ても志茂田景樹の世界であり,とんねるずのホモオダホモオを連想してしまう。うわわ…。恐すぎる…。手に取ることすらはばかられる…。

 あれから20年。管理人も歳を取った。おじさんとなった今ならチック・コリアの「ファンタジー三部作」を受け止めることができるはずである。
 時は2009年。『ニュー・クリスタル・サイレンス』のグラミー受賞で,チック・コリアの“隠れファン”を卒業宣言した管理人が,ついに『妖精』『マイ・スパニッシュ・ハート』『マッド・ハッター』を買ってみた。そしてヘッドフォンで聴き込んでみた。

 事の結論はこうである! 「音楽的には最高である! 絶頂である! 駄盤しらずのチック・コリアの全生涯を通じても,あふれんばかりの創造性のピークを迎えている!」。
 「音楽を演奏すると言うよりは“物語を紡ぎ出す”と言う方がしっくりくる! チック・コリアが『MUSIC MAGIC』(後のリターン・トゥ・フォーエヴァーでのアルバム・タイトル)をかけている!」。

 「ファンタジー三部作」の第一弾は『妖精』。『妖精』のコンセプトは「妖精」であって,アルバム全体を貫く「妖精」と出会い触れ合う“音絵巻のストーリー”が展開されていく。

 『妖精』の聴き所は,チック・コリアベースを弾くとしたら,チック・コリアドラムを叩くとしたら的な,全編チック・コリア“がかった”(神掛かった)演奏にある。
 チック・コリアマイルス・スクールの卒業生。いい感じにマイルスっぽい!

THE LEPRECHAUN-2 この点が同時期に“二足の草鞋”として活動していた「リターン・トゥ・フォーエヴァー」との差別化であって“俄然”面白い。『浪漫の騎士』も一種のコンセプト・アルバム的な音作りがなされているが,やはりバンド名義の演奏は4人の個性が色濃く出されているが,こちらのソロ名義の演奏は没個性。完全なるチック・コリアソロ・アルバム仕様に仕上げられている。

 “一人多重録音”でもいけそうなのに,そうしなかったのが“コンポーザー兼バンド・リーダー”としてのチック・コリアの“天才”の証し!
 チック・コリアのメンバーとの共有力,共感力,つまりは統率力が素晴らしいと思う。

 それぞれがソロイストとしても大活躍の,あのジョー・ファレルが,あのエディ・ゴメスが,あのアンソニー・ジャクソンが,あのスティーブ・ガッドが,自分の我を張らずに,チック・コリアの頭の中の音を鳴らしていく!

 この全てこそが“アレンジャー兼キーボード・プレイヤー”としてのチック・コリアの“天才”の証し!
 「妖精」というコンセプトを考えながら,1曲毎にそれぞれの場面に適したソロを配置する。それを1枚のアルバムとしてそれぞれの場面に適した曲順で配置する。結果「妖精」というコンセプトが具現化している。

 当然ながら,演奏面におけるチック・コリアの縦横無尽で大車輪の働きぶりが凄い! チック・コリアシンセサイザーから放たれる,あの音色とフレージングは当代随一! ヴォーカルブラスストリングスを起用した理由が分かるくらいに,シンセサイザーの「過剰ではなく適度な使用」が音が「妖精」コンセプトのダイナミクスにつながっている。

 繰り返すが『妖精』は,チック・コリアの大量の名盤群のなかでも音楽的には最高レベル! でもやっぱり星は4つ! 惜しまれるべきは,なぜあんなアルバム・ジャケットにしたのだろうか?

  01. IMP'S WELCOME
  02. LENORE
  03. REVERIE
  04. LOOKING AT THE WORLD
  05. NIGHT SPRITE
  06. SOFT AND GENTLE
  07. PIXILAND RAG
  08. LEPRECHAUN'S DREAM

(ポリドール/POLYDOR 1976年発売/POCJ-2189)
(ライナーノーツ/ジョン・エフランド,チック・コリア)

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