HYMN OF THE SEVEN GALAXY-1 チック・コリア & リターン・トゥ・フォーエヴァーの第2期=ロック路線の第1弾が『HYMN OF THE SEVEN GALAXY』(以下『第7銀河の賛歌』)。
 思うに『第7銀河の賛歌』におけるリターン・トゥ・フォーエヴァーの“激変ぶり”は必然の結果であろう。

 チック・コリア本人としては,チック・コリア & リターン・トゥ・フォーエヴァーの第1期=クロスオーヴァー路線を更に追及したかったことと思うのだが,あの“最高傑作”『RETURN TO FOREVER』を超えることなどできない事実をチック・コリア自身が実感したのだと思う。

 きっかけは前作『LIGHT AS A FEATHER』の“不発”にある。『LIGHT AS A FEATHER』では“生涯の代表曲”【SPAIN】が誕生したものの,最高だったブラジリアン・フレイヴァーが,爽やか方面ではなくリズム方面へと流れてしまい持ち味が失われてしまっていた。

 管理人は『第7銀河の賛歌』におけるリターン・トゥ・フォーエヴァーの“激変ぶり”を耳にする度に『LIGHT AS A FEATHER』の失敗を認め,第三者的に聞き分けて,大幅なメンバー・チェンジとロック路線への転向を決断したチック・コリアの“天才”ぶりにいたく感動してしまう。

 『第7銀河の賛歌』の“目玉”は,新ギタリストビル・コナーズと思うなかれ! 『第7銀河の賛歌』の聴き所は“居残り組”のスタンリー・クラークベースである!
 ズバリ,スタンリー・クラークの“ファズ”ベースがあればこそ,チック・コリアは,ハードなロック・リズムとメカニカルな無機質メロディの目まぐるしい転調を特徴とする,俗に言う,リターン・トゥ・フォーエヴァーの「ヘヴィ・メタル・ジャズ・ロック・バンド」路線を推し進めることができたのだ。

 『第7銀河の賛歌』における「ブンブンと唸りを上げて襲い掛かる」スタンリー・クラークの“ファズ”ベースを前にすると,リターン・トゥ・フォーエヴァーの“後継バンド”であるエレクトリック・バンドジョン・パティトゥッチに“青臭さ”を感じてしまう。
 チック・コリアをここまで刺激できるベーシストは,スタンリー・クラークをおいて他にはいないと思う。あっ,アヴィシャイ・コーエンがいたかなぁ。クリスチャン・マクブライドも。もっと?

 そんなスタンリー・クラークの“大爆発”に覚醒されたチック・コリアの野蛮でギンギンに歪んだヘヴィなエレピから繰り出されるロック・サウンドが怒涛のタテノリ。しかもファジーと来ている。微妙なリズムのズレを埋めるのがビル・コナーズの役所。
 この“揺れる”ギターアル・ディメオラには出来やしない,ビル・コナーズ超一流の神業である。

 そしてハード・ロック・リズムの“要”であるレニー・ホワイトJAZZYなドラミングが気持ちいいんだっ! こりゃたまらん!

HYMN OF THE SEVEN GALAXY-2 その意味で,リターン・トゥ・フォーエヴァーの正ギタリストアル・ディメオラ加入前ならではの「1.8期」なリターン・トゥ・フォーエヴァーの音が最高に美味しい! 決して破綻しないのに危険な香りの熱血フュージョン

 スタンリー・クラークの“ファズ”ベースが突進する中で,ロックするエレピジャズフュージョンとのバランスを保とうとするギターの“せめぎ合い”が最高にメロディアスでスリリングなアンサンブルを聴かせてくれている。

 スタンリー・クラークの突進に,他のメンバー3人が追いついた後の『銀河の輝映』『ノー・ミステリー』『浪漫の騎士』の完成度には文句のつけようがない。
 しか〜し,熟れる直前の独特の快感は音楽も同じ。『第7銀河の賛歌』の「次が予想できない展開なのにユニゾンをしっかりとキメつつ,その実ソロの応酬合戦」な瞬間が何回聴いても楽しくてしょうがない。

 『第7銀河の賛歌』1作でメンバー・チェンジしてしまう「1.8期」なリターン・トゥ・フォーエヴァーの低評価を頭では認めつつ“こっそりと”愛聴盤だったりするのである。

  01. HYMN OF THE SEVENTH GALAXY
  02. AFTER THE COSMIC RAIN
  03. CAPTAIN SENOR MOUSE
  04. THEME TO THE MOTHERSHIP
  05. SPACE CIRCUS...PART I
     SPACE CIRCUS...PART II
  06. THE GAME MAKER

(ポリドール/POLYDOR 1973年発売/POCJ-2699)
(ライナーノーツ/寒川光一郎)

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