SPECTRUM-1 昔ロックで今はジャズな“ダブル・バスドラの手数王”ビリー・コブハムジャズ・ロックしまくっていた頃の“最高傑作”『SPECTRUM』(以下『スペクトラム』)。

 どうですか? この超豪華なメンツ。とにかく気合いのセッション・ナイト! ロン・カータージョー・ファレルレイ・パレットすらロックン・ロールに引きずり込まれる“プログレの洗礼−1”。ヤン・ハマートミー・ボーリンですらインプロヴィゼーションに引きずり込まれる“プログレの洗礼−2”。
 そう。『スペクトラム』は「早すぎた“真の”名盤」最右翼! ゆえに巷で語られているフュージョン黎明期の「クロスオーバー」の代表作であろう。

 これが管理人の『スペクトラム批評の結論になるのだが『スペクトラム』が語られるべきは,やれ,ビリー・コブハムドラミングがどうとか,やれヤン・ハマーだ,トミー・ボーリンだ,などとエキサイティングな演奏面で語られるべきではないと思う。
 そうではなくて,全ては曲である。メロディである。「ビリー・コブハムの資質」なのである。

 “ジャズ・ロックNO.1ドラマービリー・コブハムソロCDなのだから,ビリー・コブハムドラミングを追いかけていれば『スペクトラム』それでよい。それでよいはずである。
 しかし『スペクトラム』におけるビリー・コブハムドラミングジャズ・ロックしていない。であるにも関わらず『スペクトラム』の全曲が,王道・ジャズ・ロックしまくっている。
 そう。全てがコンフュージョンな「クロスオーバー」としか表現しようがない。ビリー・コブハムのマシンガンのようなドラミングがあればこその“理想的な”ジャズ・ロックがここにある。

 『スペクトラム』は,ジャズ・ロックがプログレへと昇華するための「実験作」のような音造りをしている。
 ビリー・コブハムドラムソロは起承転結があり,概ねフィナーレを迎える前に終演するのだが,その短編的なドラミングがメロディアスな後半との明確なコントラストを成している。
 この事実には驚いた。そう。ビリー・コブハムは超絶技巧のジャズ・ドラマーにして,超一流のソング・ライター。そして超一流のプロデューサーである。全てが計算された“狙った”ドラミングなのに超絶なハーモニー! この事実に気付いた瞬間,感動が遅れてやって来る! ビリー・コブハムは素晴らしいメロディー・メイカーであるミュージシャンなのである。

SPECTRUM-2 ビリー・コブハムが,冷静で真剣に“狂気すら感じさせる”タクトを振るった『スペクトラム』で,ロックとジャズのエレメンツが衝突し融合していく。現在の音世界と未来の音世界を交互に行き交っている。リズミックに跳ねながら階段を昇っている感じが伝わってくる。

 『スペクトラム』のヒントとなったは電化マイルス・デイビス? それともマハヴィシュヌ・オーケストラ? NO。管理人の答えはエウミール・デオダート
 『スペクトラム』で多用されるシーケンス・センス,エレクトロニクスのイカれた使用法。なのにその一方でロン・カーターに敢えてウッド・ベースを弾かせたり,ジョー・ファレルフルートジミー・オーエンスフリューゲル・ホーンをぶつかったアレンジ・センスがエウミール・デオダート

 アコースティック楽器メインで「ロックよりも激しいインスト」を表現した近未来のプログレが持つ“浮遊感”が最高である。『スペクトラム』はロック・ファンではなくジャズ・ファンに,もっともっと,聴いてほしいと思っていま〜す。

  01. QUADRANT 4
  02. a.SEARCHING FOR THE RIGHT DOOR
  03. b.SPECTRUM
  04. a.ANXIETY
  05. b.TAURIAN MATADOR
  06. STRATUS
  07. a.TO THE WOMEN IN MY LIFE
  08. b.LE LIS
  09. a.SNOOPY'S SEARCH
  10. b.RED BARON

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1973年発売/WPCR-75375)
(ライナーノーツ/櫻井隆章)

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