UGETSU-1 ファンキー・ジャズの“不朽の名盤”『モーニン』は,アート・ブレイキーの最高傑作であると同時にジャズ・メッセンジャーズの最大のヒット作となった。
 しかし『モーニン』が売れれば売れるほど,旧来のジャズ・ファンがアート・ブレイキーへ捧げた視線は冷たくなった。アドリブ芸術と称されたジャズを“レベルの低い通俗音楽へと陥れた”と映ったのである。

 これはアメリカ本国でのアート・ブレイキーのお話であって,世界一のジャズ大国=日本におけるアート・ブレイキーへの熱視線は,それはそれは物凄い“羨望の眼差し”の大嵐。
 特にファンキー・ジャズ・ブームの真っ只中で開かれた1961年と1963年のジャズ・メッセンジャーズの来日公演は大フィーバー。後にアート・ブレイキーが日本のJMファンが示す“拝聴姿勢”と大物ジャズメンとして受けた“歓待への感動”を口にしている。ジャズ・メッセンジャーズ=ビートルズ級!?

 そんな親日家=アート・ブレイキーによる「日本での思い出」がジャズとして結実したのが『UGETSU』(以下『ウゲツ』)である。
 タイトル・トラックの【ウゲツ】とは「雨月物語」のことであり【オン・ザ・ギンザ】は「銀座」のこと。そう。『ウゲツ』の真実とは,最高傑作『モーニン』をけなされ,黒人差別を受けてきたアート・ブレイキーの“ジャズメンの誇り”そのものなのだと思う。

 『ウゲツ』を聴いていると管理人も“誇らしい”気分になってくる。“陰の名盤”『ウゲツ』を知りえたから。『ウゲツ』が大好きだから。『ウゲツ』は“ジャズ・ファンの誇り”でもある。『ウゲツ』を聴けるジャズ・ファンは真に幸福なジャズ・ファンだと思う。

 ジャズ・メッセンジャーズ自慢の3管&モードの成熟の音。これをライブで,そして日本ではなくアメリカで録音したのが“ジャズメンの誇り”。
 『ウゲツ』でのジャズ・メッセンジャーズは,ファンキー・ジャズ・コンボとしてのダイナミックな演奏はそのままに「繊細で理知的で,しかし頭でっかちではないスタイリッシュなジャズ」を奏でている。『ウゲツ』で,ついにアート・ブレイキーが“天下”を取った。

 ただ一点惜しむべきは,リリースがブルーノートではなくリバーサイドであったこと。仮に『ウゲツ』がブルーノートからリリースされていれば『モーニン』に負けるのはいたしかたないとしても『バードランドの夜』『チュニジアの夜』と肩を並べる“大名盤扱い”されたに違いない(オリン・キープニュースさん,ごめんなさい)。
 ゆえに管理人はアート・ブレイキー名盤として『ウゲツ』を挙げるジャズ・ファンを全面的に信用する。『ウゲツ』を“裏”名盤ではなく“表”名盤として認識するジャズ・メッセンジャーズ・ファンを全面的に信頼する。

 そう。ウェイン・ショーター擁する3管編成ジャズ・メッセンジャーズこそ,完成したモードの中にも,ハード・バップの熱気とファンキー・ジャズのキャッチーさがブレンドされた独特のバックリフ。3管が一丸となって襲ってくる不思議な感覚。トロンボーンのまろやかさがから感じるトランペットテナー・サックスとの音色の対比。ソロにもアンサンブルにも「新進気鋭の気概」が漲っている。
 この3管編成ジャズ・メッセンジャーズの“音の香り”こそが,ジャズ界屈指の長寿コンボ・ジャズ・メッセンジャーズの栄光の歴史中,一番輝く“花形の音”なのである。

UGETSU-2 『ウゲツ』のハイライトである【ワン・バイ・ワン】から【ウゲツ】への流れは『モザイク』からの3管の「成熟度」が窺い知れる。
 トランペットフレディ・ハバードピアノシダー・ウォルトンが“ショーターのモード”を完全に理解している。だから「成熟」なのである。これには『ウゲツ』のレコーディング・ライブで“ドラム・ヒーロー”アート・ブレイキーがたった一度もドラムソロを披露しなかったことと関係があるのかも?

 縦横無尽にハイノートで吹きまるフレディ・ハバードに迷いがない。シダー・ウォルトンハービー・ハンコックも“まっ青な”インテリジェンスな音使いに迷いがない。
 だからライブであるにも関わらず『モザイク』では先頭に立ってコンボをリードしていたウェイン・ショーターが『ウゲツ』では,コンボの一番後ろから(つまりアート・ブレイキーより後ろから)ジャズ・メッセンジャーズ全体の演奏を見渡し,その瞬間に足りない「一音」を発している。

 管理人は『ウゲツ』でのウェイン・ショーターの“最後列からのCOOLなプレイ”がマイルス・デイビスの目に止まったのだと思う。バンド全体を宇宙のような広角眼で見渡せるウェイン・ショーターの類まれな才能。ウェイン・ショーターの「一音」。アート・ブレイキーが気付いた才能にマイルス・デイビスも気付いてしまった。

 マイルス・デイビスに見初められたウェイン・ショーターは『ウゲツ』録音の1年後(『フリー・フォー・オール』『京都』『インディストラクティブル』の3枚の名盤を置き土産に)“運命の”マイルス・バンドへ移籍する。

  01. ONE BY ONE
  02. UGETSU
  03. TIME OFF
  04. PING-PONG
  05. I DIDN'T KNOW WHAT TIME IT WAS
  06. ON THE GINZA
  07. EVA
  08. THE HIGH PRIEST
  09. THE THEME

(リバーサイド/RIVERSIDE 1963年発売/VICJ-60479)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,小西啓一)
(紙ジャケット仕様)

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