MADRIGAL-1 ラリー・グレナディアジェフ・バラードが連続参加した事実から『ホエン・オクトーバー・ゴーズ』の続編であろう『MADRIGAL』(以下『マドリガル』)。

 しかし『ホエン・オクトーバー・ゴーズ』と『マドリガル』には天と地ほどの開きがある。いいや,正確にはアメリカと日本の開き。『ホエン・オクトーバー・ゴーズ』が本場ブルックリン・ジャズ名盤なら『マドリガル』は“和ジャズ”の名盤と呼んでしまおう。
 そう。『マドリガル』には山中千尋の“日本女性としての”魅力ぷんぷん。「オール4」の山中千尋が世界で売れるわけである。

 ラリー・グレナディアジェフ・バラード,そして『マドリガル』では新ドラマーロドニー・グリーンとのバトルも多いが,山中千尋はそれでも総じて“普通に”ピアノを弾いている。やっぱり。きっぱり。我が道を行く〜。

 え〜,セラビー。それって【SCHOOL DAYS】のことでしょ?という外野の声?
 NO。確かに【SCHOOL DAYS】のメガトン級のインパクトは認めるが,山中千尋の「懐メロ路線」は前々からのこと。『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』と『リーニング・フォワード』での中島みゆき。『ホエン・オクトーバー・ゴーズ』での【八木節】&かまやつひろしなのだから『マドリガル』でペギー葉山の【学生時代】を取り上げたからといって驚きはしない。今に始まったことではないんだゾ〜。

 そうではなくて「ブッ飛び&ロマンティック」なアレンジに寄り添う,深い叙情性を持ちながらも,甘さに流されない芯の強いピアノ・タッチが“和”している。日本人女性らしい,若干ウェットでしめやかなピアノ・タッチが奥ゆかしさで満ちている。
 この“和”のニュアンスは低音ラインを勝負玉に使うダイナミックな“弾きっぷり”に大西順子を意識したせいかもしれないが,思うにそんな単純なものではなく「ピアノ=打楽器」ゆえのリズム感に表われている。

 山中千尋のオリジナル【ANTONIO’S JOKE】は言わずもがな。ジョージ・ラッセルの【LIVING TIME EVENT V】やシダー・ウォルトンの【OJOS DE ROJO】のような佳曲から【CARAVAN】【TAKE FIVE】の大スタンダードまでが跳ねている。
 『マドリガル』で初めて感じた山中千尋の“稀有なリズム感”! これはグルーヴィともファンキーとも異なる日本の祭り。ジャズの代名詞である「裏」ではなく太鼓の「表」拍子!
(↑ この記事はあくまで個人的な主観です。ラリー・グレナディアジェフ・バラード参戦でド・ジャズしないわけはありません)。

MADRIGAL-2 そう言えば『マドリガル』の説明として山中千尋自身の言葉として「THIS ALBUM IS INSPIRED BY AND IS ALSO DEDICATED TO MY CHILDFOOD」と記されてある。
 そう。『マドリガル』は山中千尋の「幼少時代」へのトリビュート盤。山中千尋はバークリー首席卒業のお嬢様である。
 しっかし,ちーたん。子供の頃はかなり遊んでいたんだろうなぁ。お〜っと,ちーたんは不良ではありませんよ。ここで管理人が主張する遊びとは「鍵盤での一人遊び」のこと。セロニアス・モンクばりに,ピアノでコロコロ遊んでいたのだと想像します。でないとこんなリズムにこんな音,常人では乗っけないですから〜。

 読者の皆さんもちーたんの一人遊びのハイライト曲【LESSON 51】を聴いて全力で一緒に遊んであげてください。
 タンゴなんでしょうけど,どこかで聴き覚えのある不思議なコード進行。うわ〜い。前のめりでも後ろにハズスでもないオン・タイム・ジャズがエゲツナイ。外れているようで完璧に決まっている。これぞちーたんの“音の玉手箱”。ヤッホ〜。

 管理人の結論。『マドリガル批評

 『マドリガル』は“日本人女性ジャズ・ピアニスト”として“アンチ裏拍子”信者へと捧げられた“裏”名盤である。

  01. Antonio's Joke
  02. Living Time Event V
  03. Madrigal
  04. Ojos De Rojo
  05. School Days
  06. Salve Salgueiro
  07. Caravan
  08. Lesson 51
  09. Take Five

(澤野工房/ATELIER SAWANO 2004年発売/AS038)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/北見柊)

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