GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY-1 「モノマネ。それはトリビュート」。
 この言葉が真実であるとするならば,矢野沙織ビリー・ホリディへのトリビュート作=『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY』は,矢野沙織流・ビリー・ホリディの“大いなるモノマネ”である。

 そう。『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY』での矢野沙織は“自分らしく”あろうなどと考えてはいない。潔いくらい「ビリー・ホリディだったらこのように吹く」のフレージング。ほんの少し崩れたフレージングに矢野沙織の個性が顔を出している。おちゃめっ!

 『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY』は,敬愛するビリー・ホリディのレパートリー集。斎藤ネコのアレンジによる豪華なストリングス・オーケストラをバックに“ビリーばり”に歌い上げる矢野沙織初の「ウィズ・ストリングスCD
 「ウィズ・ストリングス」はジャズメン「夢のフォーマット」。そんな夢を22歳にしてかなえてしまう。そんな恐怖心から斎藤ネコへの丸投げ+オルガンの導入でお茶を濁したふてぶてしさ。うん。沙織ちゃんも22歳になったんだなぁ。

 さて,矢野沙織ビリー・ホリディ矢野沙織ジャズの世界に入るきっかけとなったジャズボーカリストビリー・ホリディ
 そしてデビュー後の矢野沙織の心の支えがビリー・ホリディ=くじけない。そう。ビリー・ホリディが「JAZZ QUEEN矢野沙織の育ての親。
 奇しくも2009年はビリー・ホリディの没後50年。『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY』こそ,矢野沙織による「ビリー・ホリディの後継者宣言!」なのである。

 矢野沙織が「神様」と讃えるビリー・ホリディへの幸福なトリビュートジャケット写真での斎藤ネコつながりの「猫のコスプレ」は,矢野沙織本人ではなくビリー・ホリディへと“なりきる”ために必要な儀式?
 そんな矢野沙織改めビリー・ホリディ名義?による『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY』で矢野沙織が自ら初めてライナーノーツを書いているのだが,その中で自分とビリー・ホリディの違いを明確に書き記している。
 矢野沙織はタダモノではなかった。矢野沙織の理解力に恐れ入ってしまった。ビリー・ホリディの不遇を承知の上での「ビリー・ホリディの後継者宣言!」は矢野沙織の幸福なジャズ・ライフの指標であろう。

 矢野沙織の幸福なジャズ・ライフが「人の肉声に最も近い楽器」アルト・サックスを通して見事に表現されている。本当に肉声で歌っているかのごとく一つ一つの音のあつかいが丁寧で,歌詞の意味さえ聴こえてきそうな演奏。深みを増した陰影の音色と天才的なアドリブに聴き惚れる〜。

GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY-2 管理人の結論。『GLOOMY SUNDAY〜TRIBUTE TO BILLIE HOLIDAY批評

 矢野沙織アルト・サックスと流麗なストリングスとのコントラストが最高に美しい。
 成功の理由は矢野沙織の「ウィズ・ストリングス」に迎合することのない“王道アルト”の存在感。あくまで主役はアルト・サックス矢野沙織アルト・サックスストリングスが“寄りそう”秀逸アレンジ。斎藤ネコ,いい仕事しています。
 ただし,いつも通りのプレイ・スタイルを貫き通したのは素晴らしいが,ワンホーンストリングスに絡みつくには,ちょっと線が細いというか,優等生的過ぎるというか,もっと図太さとか,八方破れなところがあったほうが企画盤としては面白かったかなぁ。

  01. Don't explain
  02. Yesterdays
  03. Lover Man
  04. Everything Happens To Me
  05. Night & Day
  06. Summertime
  07. Gloomy Sunday
  08. Strange Fruit
  09. Left Alone
  10. Lover Come Back To Me (SECRET TRACK)

(サヴォイ/SAVOY 2008年発売/COCB-53752)
(☆HQCD仕様)
(ライナーノーツ/矢野沙織,馬場啓一)

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