SAKURA STAMP-1 「HOP! STEP! JUMP!」。矢野沙織の一番の成長分野。それは精神面の充実であろう。
 矢野沙織の3rdCDSAKURA STAMP』を聴いてそう強く思った。

 (『02批評で書いた通り,人間幾つになっても成長するもの。年若いから成長するとは書かないが)矢野沙織の武器は人並み外れた成長のハイ・スピード。
 ジャズの神髄を「これでもか!」と感じさせてくれる勢いが心地良い。アルト・サックスの豊かな音色。こんなにも渋く温もりのある音色を好んで吹いている姿に感動すら覚える。そう。矢野沙織の音色とフレージングは,もはや“初老”の域に達している!

 テクニックが上達しているのは勿論なのだが『SAKURA STAMP』での矢野沙織アルト・サックスは“鳴り”が違う。
 『YANO SAORI』『02』とはワンランク上の存在感。今回のアルト・サックスの見事な“立ち振る舞い”は,話題先行アイドル評の雑音を圧巻の実力で黙らせた自信と余裕から来ている。音に張りとか腰が付いたと書いたらよいのだろうか…。

 この点は現場経験であるライブでの成功体験と矢野沙織チャーリー・パーカーと共に敬愛してやまないビリー・ホリディもどきな強心臓と積極性にある。
 ライブでの矢野沙織は,演奏を楽しむというよりも,いつも真剣に自分自身と対峙している様子に見えたが『SAKURA STAMP』での演奏は伸びやかでリラックスしている。もう既に「大物然」が漂いだしている。これこそ矢野沙織の一番の成長分野=精神面充実のポイントである。

 『SAKURA STAMP』での共演者=ハモンド・オルガンマイク・レドーンギターピーター・バーンスタインドラムジョー・ファーンズワースは年上のトップ・ジャズメン。ゲスト参加のトランペットニコラス・ペイトンテナー・サックスエリック・アレキサンダーは言わずもがな!
 しかし,矢野沙織が,実に堂々と楽しそうに演奏している。超格上サイドメンにも臆することなく,しっかりとリーダー・シップを取っている。リーダーとして自分の音楽を展開する矢野沙織は,その深みのある音色,抜群のスイング感で,ジャズの醍醐味を堪能させてくれる。素晴らしい。

 矢野沙織の『SAKURA STAMP』での新境地。キーワードは“ファンキー”である。
 『SAKURA STAMP』を語る時,ベースレスのハモンド・オルガンとの共演を忘れるわけにはいかない。そう。ピアノからオルガンへの変更で,俄然,リズム感が前面に出て来ている。
 例えば,ジミ・ヘンドリックの【RED HOUSE】は原曲崩しの,これぞ“ファンキー”な名演である。

 …そう言えば『SAKURA STAMP』のフォロー・ツアーで共演したジャズ・ジャイアント,ジミー・コブが形容した「矢野沙織は『日本のキャノンボール・アダレイ』」の称号。うんうん。管理人はジミー・コブの興奮がよ〜く分かります。

SAKURA STAMP-2 加えて,チャーリー・パーカーへのオマージュとして【DONNA LEE】の完全コピーを大収録。“パーカー派”矢野沙織の自慢で自信でご満悦な趣味の記録に驚愕する。
 一般にジャズメンたるもの「個性勝負」。没個性のコピー演奏を非とするはず。しかし矢野沙織チャーリー・パーカーに似ていることを喜びとしているのが実に愛らしい。ニコラス・ペイトンとの一糸乱れぬ高速ユニゾンの中にも矢野沙織の負けん気と歌心が強く感じられる。
 惜しむべきは『02批評でも書いたが【ドナ・リー】のアウトロでの音写りが極端にむごい。

 【SAKURA STAMP】は,矢野沙織が2年前に初めて作曲したオリジナル。1小節ごとにテンションをふんだんに含んだコードが半音ずつ上がっては下がっていく。アドリブで歌い上げるのが逆に難しいこんな佳曲を中学時代に作ったんだようなぁ。
 【SAKURA STAMP】の秀逸アレンジはこの2年間のライブで練り上げられた賜物であろう。

 『SAKURA STAMP』を1枚聴き通して感じるのは“チャーリー・パーカー研究家”としての矢野沙織である。
 『SAKURA STAMP』のハイライトである,チャーリー・パーカーのレパートリー【TICO TICO】が,矢野沙織アドリブで“現代に甦ってきた”感有り有り。
 チャーリー・パーカーアドリブは聴いていて多少疲れを感じるが,矢野沙織アドリブは聴いていてのめり込んでしまう。クリシェが次々と登場してくるし,軽くリズムをかいくぐるところがチャーリー・パーカーに激似である。
 現代版の洗練されたフレージングに“チャーリー・パーカー研究家”としての足跡が見えている。

  01. Donna Lee
  02. Sweet Love Of Mine
  03. Sakura Stamp
  04. Shawnuff
  05. Red House
  06. Crazy He Calls Me
  07. けむりの瞳
  08. Salt Penauts
  09. Tico Tico
  10. Sk8 Game
  11. 砂とスカート

(サヴォイ/SAVOY 2005年発売/COCB-53320)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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