LOVE MAKES THE EARTH FLOAT-1 「セラビー,新人のジャズ・ピアニストを指して『新世代のジャズ・ピアニスト』と形容されることがあるけれど『新世代』のピアニストって,何が,昔のジャズ・ピアニストと違っているの?」。
 アキコ・グレース上原ひろみ山中千尋…。このように質問される機会が増えてきた。

 「そうだね。音楽のバックグラウンドが違うんだよ。ロックやポップスやクラシック。広い間口で取り入れられた要素をジャズのエッセンスで蛇口をひねった感じで…」。
 自分では100点満点の答えだと思っているが,これって分かりやすいんだか分かりにくいんだか…。

 説明がしどろもどろになってくる。でも大丈夫。管理人には水戸黄門の印籠がある。「ええい,控えおろう。この紋所が目に入らぬか〜」ばりに奨めるCDがある。それこそ,松永貴志の『LOVE MAKES THE EARTH FLOAT』(以下『地球は愛で浮かんでる』)。松永貴志の“最高傑作”である。

 『地球は愛で浮かんでる』の特徴こそ「新世代のジャズ・ピアノ」! この耳馴染みの良さは非ジャズにしてジャズの王道そのもの。緻密で複雑な音符の空間を跳ねるように飛び回る。痛快で爽快で難解な聴き応え! うお〜うほほ〜!

 ジャズアドリブとリズムであるが,非ジャズ=歌詞抜きでこそ成立するメロディアス。
 その象徴が「アルバムの顔」であるはずの1曲目の「非ジャズ」=ジャズ・ワルツ=【時の砂】。ロマンティックでメランコリックな美メロがスロー・テンポで短調と長調を行き来するジャズ・ワルツ
 2曲目で飛び込んでくる「松永貴志のオリジナル・ジャズ」=【マッド・クラブ・パーティ】。いつもの「技巧派でトンガリ系」なフリー・ジャズ
 3曲目の「名バラード」=【神戸】は前作『無機質オレンジ』収録トラックの再演。2年の時の経過が神戸の夜景に一層の深みを彩っている。

 そして4曲目こそ『地球は愛で浮かんでる』のハイライト=「新世紀エヴァンゲリオン」のテーマ【残酷な天使のテーゼ】のカヴァー
 オタク人生の管理人だがアニソンは手付かず。それゆえに後日【残酷な天使のテーゼ】の原曲を聞いた時の衝撃は大きかった。これがあの原曲? 松永貴志の,いいや「新世代ジャズ・ピアニスト」の恐ろしいまでの実力に目の玉が飛び出さんばかりだった。
 松永貴志クールなアレンジは,スピード感と変拍子とスリリング。この松永貴志ジャズメンとしてのアプローチはマイルス・デイビスキース・ジャレットのそれであろう。

LOVE MAKES THE EARTH FLOAT-2 松永貴志の非ジャズの魅力に落ちたが最後。5曲目以降は夢心地。批評などできる精神状態ではなくなってしまう。
 上記,神曲の4トラックを聴きさえすれば「新世代ジャズ・ピアニスト」の何たるかが,ジャズ・ピアノの新たな可能性を実感できるに違いない。とにかく超・超カッコよいのに超・超聴きやすい。

 『地球は愛で浮かんでる』での非ジャズジャズ・ピアノは新と旧に分類できる。「新世代のジャズ・ピアノ」は「ジャズから発生したピアノ音楽」と呼んだ方がふさわしいのかもしれない。

  01. Sands Of Time
  02. Mud Crab Party
  03. Kobe
  04. A Cruel Angel's Thesis (from 'Neon Genesis
     EVANGELION')

  05. Love Makes The Earth Float
  06. Street Performer
  07. Seaside Walk
  08. Powell Circle
  09. La Seule Gloire
  10. Water Balloon
  11. Traveler In The Wind

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2008年発売/TOCJ-68078)
(ライナーノーツ/藤本史昭,松永貴志)

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