TODAY-1 『OPEN MIND』がテレビ朝日系「報道ステーション」テーマ曲に採用された当時,CDショップのジャズ・コーナーは“松永貴志一色”であった。
 なぜ覚えているかというとCDショップのジャズ・コーナーに“さん然と輝く”松永貴志の顔&顔。ジャズ売り場の一等地でポスターと手書きのポップで注目を集める『TODAY』が山盛りに飾られていたのだった。

 笑顔ではない。あどけない表情でレンズをじっと見つめている。バックに写るニューヨークでの記念写真風。それがかえって松永貴志の“若さ”を感じさせてくれたものだ(余談であるがカメラ大好き管理人としては,敢えて無表情のカットをジャケット写真に選んだハイ・センスを絶賛したいと思います)。
 さて,この時点で管理人は松永貴志を【OPEN MIND】でしか知らなかった。率直に言えば,完全に追っかけ気分の矢野沙織の一共演者という認識でしか持っていなかった。
 「どれどれ,どれくらい弾き倒してくれてるの?」的な上から目線(スミマセン)の期待を抱き『OPEN MIND』のマキシ・シングルと共に『TODAY』を購入して帰宅した。

 そうして驚いた。「何,このおぼっちゃま。音はおっさんじゃないか!」。そう。『TODAY』から聴こえてきた松永貴志に,ベテラン・ジャズ・ピアニストを感じたのだ。
 まっ,これは共演するベーシストウゴナ・オケグォドラマーエリック・ハーランドの音なのだったと今となっては分かっているが,それでも第一印象とは末恐ろしい。
 管理人は今でも松永貴志を有望な若手ジャズメンの1人とは思っていない。思えない何かが根強く残っている。松永貴志は永遠の“本格派”なのである。 → う〜ん。この記述はウソではないが,松永貴志は永遠の“個性派”が正解かなぁ。そして松永貴志は非ジャズ・ピアニスト。これが大正解でしょう?

 それにしても東芝EMIは才能を酷使するものだ。大西順子の時もそうだったが,売れると分かると怒涛のリリース・ラッシュ。『TODAY』の時点で松永貴志デビュー後わずかに300日。17歳の青年に300日間でCD3枚も作らせますか〜。しかも8割はオリジナル曲で海外ロコーディングも企画するとは,売れっ子の鈴木福くんばり? 音は若年寄でも肉体は絶好調。若いって素晴らしいのだ〜。

 そんなレコード会社のプッシュに押されて,焼き直しとなった【ニューヨークの宿題】。ホレス・シルヴァーの【PEACE】のカヴァー。【オープン・マインド】を2テイク収録と不本意ながら?の選曲。でもこの選曲が良かった。この4トラックのおかげで管理人は松永貴志アドリブの才を堪能できたのだ。

 松永貴志のコンポーザーとしての才能は折り紙つき。松永貴志の楽曲にはジャズを知らない耳にもすんなり馴染む許容量の大きさのようなものを感じている。この「スーッとした耳馴染みの良さ」が,あらかじめ用意できないアドリブにおいても感じられるのだ。曲全体の構成とマッチするアドリブが実にメロディアス&ファンタスティック。破綻しないのに“濃厚なジャズの”アドリブを繰り出してくる。素晴らしい。今後は松永貴志カヴァー曲もアドリブ目当てで要チェックしようっ。

 そんなんでここでついでに脱線トーク。松永貴志バド・パウエルの名を冠したオリジナルを作曲するなどパウエル派を公言しているが,松永貴志はきっと後期パウエルが好きなのだろう。そして自分でも気づかないうちにミシェル・ペトルチアーニからの影響を受けているのではなかろうか? 松永貴志アドリブにつられ?ふとミシェル・ペトルチアーニの【LOOKING UP】を思い出したもので…。

TODAY-2 管理人の結論。『TODAY批評

 『TODAY』は「常識人の松永貴志」の記録である。『TODAY』は,どうにもこうにも正統派。『TAKASHI』→『MOKO−MOKO』(『STORM ZONE』)ときて,ちょうどいい塩梅で“ジャズ・ピアニスト松永貴志が完成した時期のレコーディングだったと思う。
 繰り返しになるが,ピアノ・トリオをリードするはウゴナ・オケグォエリック・ハーランドのリズム隊である。松永貴志は前2作と比べると“遠慮がちに”フィルインしている。ねっ,ここが「常識人の松永貴志」の記録の意。見事に「ピアノ・トリオピアニストの役割をこなしている。

 成長期の青年は大人の階段を上るにつれ,どんどん普通っぽくなっていく。人間どうしても常識人になるものだ。
 『TODAY』は“本格派”ジャズ・ピアニスト松永貴志唯一の記録。そういう意味では多くの王道・松永貴志ファンにとって『TODAY』がバイブル。『TODAY』が“押さえの一枚”であろう。

 管理人には『TODAY』よりも非ジャズ・ピアノな『地球は愛で浮かんでる』である。ただし『地球は愛で浮かんでる』を楽しめるのも『TODAY』があればこそ。
 『TODAY』を松永貴志の両輪の一つとして評価している。

  01. METAL DRAGON
  02. SUNSET IN THE CITY
  03. SING, SING, SING
  04. HOMEWORK
  05. OPEN MIND
  06. NYA-NYA-DANCE
  07. PEACE
  08. HAMBURGERING
  09. JIVE AT FIVE
  10. OPEN MIND (SAX VERSION)

(サムシンエルス/SOMETHIN'ELSE 2004年発売/TOCJ-68063)
(ライナーノーツ/マイケル・カスクーナ)
CD−EXTRA仕様:【にゃーにゃーダンス】【ニューヨークの宿題】
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)