MOTHER EARTH-1 プリズムにとって最も重要なアルバムが『MOTHER EARTH』(以下『マザーアース』)だと思う。
 『マザーアース』がバンドの歴史におけるターニング・ポイントだと強く思うからだ。

 『マザーアース』は,管理人の前に突如表われた“まさかの”ヒーリング系だった。売れ線の名曲【TAKE OFF】→超絶技巧の「プログレ・フュージョン」目当てで聴いてたプリズム突然の新サウンド。
 プリズムの新サウンドの要因は3つ。1つ目に「環境3部作」というコンセプト・アルバム。2つ目にキーボードレスのギター・トリオ。3つ目は木村万作ドラミングである。

 『マザーアース』発売当時の1990年はバブルの絶頂期であった。大量消費の快楽追及に疲れた時代。人々は音楽に癒しを求め始めていた。そう。「環境3部作」は,ついに売れ線復活のヒーリング系?
 いいや,プリズムは時代に乗っかったのではなかった。『マザーアース』のストイックな音造りは,真剣に「母なる地球を救えるのは人間だけ」というメッセージを伝えている。プリズム初となる“テーマの縛り”が演奏に統一感をもたらしている。
 音数は減っている。キーボードの芳醇な音色もない。それなのに『マザーアース』でのプリズムの音楽性は,鮮やかに“スケールアップ”している。キーボードレスで空間が広がった分,ギター・トリオでの構成力が見えてくる。素晴らしい。

 『マザーアース』の真実は,時代への逆行であった。華やかでゴージャスで使い捨てな毎日を否定するシンプル・ライフ。時代が求める“売れる”音楽を否定し,自分たちが本当にやりたい音楽だけをやる。この「コマーシャルからのリタイア」こそが,プリズムにとってのターニング・ポイントになったと強く思う。
 『マザーアース』のプリズムは,ヒーリング系で時代に乗ったのでも,逆に,時代に乗れなかったのでも,乗り遅れていたわけでもなく,時代に乗ることをやめてしまっている。そう。プリズムの新サウンドは,実は時代を“先取り”していたのだ。

MOTHER EARTH-2 このズレズレ感,ギャップに管理人も当初戸惑いを覚えた。しかし5回,10回と繰り返し聴き込む度に『マザーアース』への戸惑いはやがて確信へと変化した。
 『マザーアース』の和田アキラ渡辺建がエキサイトしている。最高に純粋に演奏を楽しんでいる。歓喜の喜びで満ちている。やった〜。ついにプリズムジャズの領域へと足を踏み込んでいる〜。ジャズ・トリオとしての新たなる出発,新たなるチャレンジに狂喜乱舞したものだった。

 ここに『マザーアース』が,以前からの“フュージョン系”のプリズム・ファンに支持されなかった理由がある。『マザーアース』のプリズムは“ジャズ系”である。もはやインプロヴィゼーションが聴き所なのである。
 ゆえに自由なインプロヴィゼーションでなく“テーマの縛り”という統一感あるインプロヴィゼーションを産み落とした「環境3部作」=コンセプト・アルバムの優越性を認めないわけにはいかない。

 耳障りの良いフュージョンからの脱皮という点では,ギター・トリオ・フォーマットの優位性についても語らねばならない。そう。ギター・トリオの優位性は「メロディアス指向」にある。
 和田アキラ渡辺建のハイ・テクニックを持ってすればキーボードレスなどモーマンタイ。ただしメロディがいる。キーボードのあのラインが奏でていたメロディがどうしてもいる。
 和田アキラギター・シンセで,渡辺建フレットレス・ベースで,懸命にキーボードのあのラインを奏でようと努力している。この2人の新たなるチャレンジが,緻密で複雑でドラマティックな展開とスケール豊かな音作りに貢献している。

MOTHER EARTH-3 そんでもって木村万作の“無尽蔵パワー系”のドラム。管理人は木村万作が,なぜ神保彰並みに評価されないのかが理解できない。
 和田アキラ渡辺建がいつも以上にメロディに“専念”できるギター・トリオプリズムは,木村万作和田アキラ渡辺建を締めればこそ。プリズムジャズ系に変貌できたのは,安定したリズムを造り出す木村万作に依る所が大きいというのに…。
 『マザーアース』の1曲目【AWAKENIN’〜I DON’T GO FOR THAT】のイントロでのドラム・ソロは“いかにも”な木村万作へ花を持たせた演出であろう。

 結果『マザーアース』は(プリズムはもともとマニアックなのですが)完全なマニア向けに仕上がっている。
 事実,プリズム・ファンでも二の足を踏む『マザーアース』程,取っ付き難いCDはない。『マザーアース』程,好き嫌い&受け入れる受け入れられないがハッキリ分かれるCDはない。正直,数回聴いただけでは,さっぱり分からない→お蔵行きの危険大だと思う。

 それはそれでいい。大名盤マザーアース』は分かる人だけ分かればいい。じっくりと腰を据えて聴き込んだ者だけが辿り着ける快感がある。そう。『マザーアース』こそ「プリズムの中のプリズム」。躍動感と浮遊感と緊張感が絶妙なバランスで表現された「プリズムの秘境」なのである。

MOTHER EARTH-4 【DEJA VU】【FLOWING IN THE WIND】【THE RAINS】【CALL OUT MR,M.K】【MOTHER EARTH】の5大名曲を収録した『マザーアース』は,プリズム史上“最強にストイックなのに最強にメロディアス”。
 ここまで管理人が迷いなく書けるのは『マザーアース』こそ「プリズムの全て」との自負があるからです!

PS プリズムが時代と逆行した音造りに励もうともレコード会社はセールスです。「MOTHER EARTH-3」と「MOTHER EARTH-4」の特典に「バブル真っ盛り」がハッキリと残されています。

  01. AWAKENIN'〜I DON'T GO FOR THAT (Final
     movement of the suite,"Dreamin'")

  02. DEJA VU
  03. SHADE OF THE MOON LIGHT
  04. FLOWING IN THE WIND
  05. THE RAINS
  06. IN THE STREAMLINE
  07. KIKI (A FLYING GIRL)
  08. CALL OUT MR,M.K
  09. MOTHER EARTH

(バンダイ/BANDAI 1990年発売/BCCY-2)
★【初回仕様限定盤】:特典ピック付
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