JEALOUSY-1 『ドリームダンシング』で決心した,寺井尚子の極意「トラック買い」。

 『JEALOUSY』(以下『ジェラシー』)のお目当ては,ジョン・コルトレーンの【アフロ・ブルー】とチック・コリアの【ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ】。

 【アフロ・ブルー】には,コルトレーンばり“激情派”の寺井尚子の復活を願い【ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ】には,現・甘くも爽やかな“清純派”の寺井尚子を期待してのジャズ・ヴァイオリン鑑賞目的。この2トラックは大成功!

 ただし他の8トラックの印象は『ドリームダンシング』へと逆戻り。これは「音楽的には素晴らしくまとまっている=管理人の大好きな寺井尚子は薄い」の意。『ジェラシー』のレベルに達すると批評は聴き手の好みの問題だと思っている。

 『ジェラシー』で寺井尚子は大きな決断を下している。ギターレスの寺井尚子カルテットでの始動である。このギターレス編成が予想以上に大きな変化を与えている。リズムとサウンドの色彩感が激変した。
 こうして新たな寺井尚子のグループ・サウンズを聴いてみると,従来の寺井尚子クインテットの鮮やかな音を過小評価していた事実を反省する。愛しの尚子様,お許しを〜。

 『ジェラシー』での寺井尚子がエレガント。ギターレスで“引き締まった”バンド・サウンドが“マダム尚子”の大登場。そう。寺井尚子は『ジェラシー』で「女王様からマダムへ」イメチェンした。
 「クインテットからカルテットへ」「女王様からマダムへ」とシフトした寺井尚子の『ジェラシー』。つまりは“縛りの弱い”バンド・サウンドなのに一枚岩に固まった印象を受ける。なぜだろう?

 これは管理人の推測に過ぎないのだが,女王様への専従から解放された家来たちの自由意志。もはや強いられてではなく自分から進んで尚子様へ仕えている。尚子様への奉仕に喜びを見い出している。
 そう。寺井尚子の真実とは「女王様→マダム→女王蜂」! こんな寺井尚子がたまらんなぁ。

 ジャズ・コンボへ客演するヴァイオリニストは少なくないが,ジャズ・ヴァイオリニストとしてレギュラー・グループを率いて活動するヴァイオリニスト寺井尚子オンリー。
 『ジェラシー』の,適度にこなされた合わせを経て,スタジオで瞬間的に昇華するジャズ・ヴァイオリンこそ,レギュラー・グループの真骨頂。

 寺井尚子のレギュラー・グループのモットーは「一心同体の運命共同体」。リハーサル〜レコーディング〜ツアーまでを固定メンバーで過ごす音造りの積み重ねの賜物。テンポやキーやイントロのあるなしなどの決め事を言葉ではなく音で会話できる。
 この濃密なインタープレイは一朝一夕にはできやしない。もはやコロニー並みの以心伝心?

JEALOUSY-2 勿論,問題もある。それは家来たちの間での嫉妬=それがアルバム・タイトル由来の『ジェラシー』? 寺井尚子一番のお気に入り=北島直樹ピアノヴァイオリンの絡みに嫉妬するのがドラム中沢剛。「中沢剛って,こんなに手数が多かったっけ?」状態である。
 同じバンド・メンバーの演奏に『ジェラシー』を覚えるほどに,ギターレス・カルテットが寺井尚子に心酔している。

 『ジェラシー』の秘訣は寺井尚子の“女王蜂”としてのリーダー・シップである。
 そう。寺井尚子の音楽的ヴィジョンに“前のめりで”共感している。寺井尚子のアレンジ力や音を描くモチーフや微妙なグラデーションに魅せられている。イメージの明確な共有であろう。

 『ジェラシー』ほど明確な音楽コンセプトが伝わってくるジャズCDは数少ない。

  01. JEALOUSY
  02. AFRO BLUE
  03. BLUE BOLERO
  04. CRESCENT MOON
  05. DAY AND DAY
  06. AMAZING GRACE
  07. HAPPY DIXIELAND
  08. HUSH-A-BYE
  09. ME, MY FRIEND
  10. WHAT GAME SHALL WE PLAY TODAY

(東芝EMI/SOMETHIN'ELSE 2007年発売/TOCJ-68074)
(ライナーノーツ/藤本史昭)
CD−EXTRA仕様:【ジェラシー(スタジオ・ライヴ映像)】

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