PRINCESS T-1 寺井尚子唯一のフュージョン作。それが『PRINCESS T』(以下『プリンセスT』)である。

 『プリンセスT』は,フュージョン・ギターのスーパー・スター=リー・リトナー・プロデュース。寺井尚子が一気に華やいで聞こえる。上質なジャズ・ヴァイオリンとLAのフュージョン・サウンドの融合が非常に聴きやすい。

 寺井尚子の立ち位置が痛快である。超大物のリー・リトナー。同じ弦楽器のリー・リトナー。名前でも音量でも負けてしまう。たとえ自分のリーダー作であったとしても競演したら負けてしまう。
 そう。『プリンセスT』で寺井尚子が目指したのは共演である。相手の懐に飛び込んで人のまわしで相撲をとるのだ。

 『プリンセスT』で寺井尚子は“ジャズ・ヴァイオリニスト”の肩書きを封印している。とにかく爽やかに。そして華やかに。時にシリアスに…。
 完全にリトナー・グループのゲストになりきってみせる。ただしゲストが主役である。そう。『プリンセスT』で寺井尚子は“ジャズ・ヴォーカリスト”として自分の歌を歌ってみせる。いや〜,これがいい。寺井尚子が最高に輝いている。寺井尚子の美のピークを迎えていたと思う。

 『プリンセスT』の楽曲はバラエティに富んでいる。ブラジールな【BEIJOS(KISSES)】。100%リー・リトナーな【VENICE AVE.】。ジャズの【ST.THOMAS】。フュージョンの【BLACK MARKET】。ブラック・ファンクな【CANTALOUP ISLAND】。そしてクラシックの原形をとどめない【PRINCESS T】と【MYSTIQUE】。
 素晴らしい。もう何を演っても上手くいく。完璧である。『プリンセスT』で表出した,ツボを決して外さない“卓越した表現力”こそが,寺井尚子最大の魅力である。ここにジャズメン=寺井尚子の実力を垣間見た思いがする。

 寺井尚子・オリジナルなバンド・サウンドも良い。しかし,管理人は寺井尚子はセッション・タイプのジャズメンだと思っている。それも相手が大物であればある程,実力以上のものを発揮するタイプである。
 『プリンセスT』とそのフォロー・ツアーのライブ録音『ライヴ』を聴いてそう思う。寺井尚子リトナー・グループとのセッションで“覚醒”している。アドレナリン出まくりのフレージングの大連発。しかも一発一発が意外に重くて鮮烈なのだ。
 もはやかなわぬ夢となったが“勝気な性格”の寺井尚子マイルス・バンドと共演するのを一度聴いて見たかった〜。きっと天井知らずの伸び代で「マリリン・マズール2世」の名を襲名したであろうに?

PRINCESS T-2 いいや,襲名したのは『プリンセスT』→『プリンセス・T=テンコウではなく寺井』→『女王寺井』→『“女帝”尚子様』。

 ああ,いとしの尚子様〜。管理人を快楽の泉へとどこまででも連れてってくださ〜い。
 管理人は『プリンセスT』で尚子様のアリ地獄へドップリとハマッテしまいました。

  01. Beijos (Kisses)
  02. Princess T - based on Maurice Ravel's “Pavane For
     A Dead Princess”

  03. Black Market
  04. Shadow Play
  05. Venice Ave.
  06. St. Thomas
  07. The Child Within
  08. Cantaloupe Island
  09. Mystique - based on Erik Satie's “Gymnopedie No.1”
  10. Bango Tango
  11. True Blue

(ビデオアーツ/VIDEOARTS 2000年発売/VACV-1037)

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