PURE MOMENT-1 『THINKING OF YOU』が“男勝りな”寺井尚子なら『PURE MOMENT』(以下『ピュア・モーメント』)は“女盛りな”寺井尚子

 硬派から軟派へ…。『ピュア・モーメント』は,肩肘張らない,しかし芯の強さは変わらない,寺井尚子本来のしなやかで優雅な華のある演奏集。『ピュア・モーメント』の音造りは『シンキング・オブ・ユー』の副産物である。『シンキング・オブ・ユー』が売れて良かったなぁ。

 『ピュア・モーメント』こそ,寺井尚子“待望の”「寺井尚子・グループ」のデビュー盤。
 ピアノ奥山勝ベース池田達也ドラム藤井摂によるライブでのレギュラー・メンバーなのが大成功。
 成功の秘訣は寺井尚子の“豊かな”音楽性にある。寺井尚子ヴァイオリニストの前にジャズメンであり音楽家である。
 寺井尚子ジャズ・ヴァイオリニストとして“超一流の”テクニックを有している。同じ音符を弾くとしても,寺井尚子は一音一音,曲調に応じて弾き分けている。素晴らしい演奏力であり表現力である。正しくレインボー=七色の表情で光輝いている。
 しかしそれにも増して素晴らしいのは,甘く切なく骨太なグルーヴ。これである。このグルーヴ感に,多くのジャズ・ファンはKOされまくる。

 寺井尚子アドリブがスパークするや,もはや誰にも止められない。リスナーが想像も出来ない場所まで一気に連れ去ってくれる。
 この点でバンド・メンバーの果たす役割が非常に大きい。唐突にスイングするヴァイオリンピアノベースドラムが見事に追随し音を合わせている。まるで初めからもアドリブの目的地を知らされていたかのように…。
 素晴らしいコミュニケーション。素晴らしいバンド・サウンド=イメージの共有である。

PURE MOMENT-2 哀愁の【アディオス・ノニーノ】〜純愛の【ピュア・モーメント】の流れから一転,超アグレッシブで「フィーチャリング池田達也」な【サマー・タイム】に(いい意味で)打ちのめされてしまう。
 管理人はこの出だしの3曲で放心状態。大好きな【スペイン】なのにスロー・テンポなのが頭に入らない。再びスイッチが入るのが『ピュア・モーメント』のハイライト=宇多田ヒカルの【ファースト・ラヴ】〜アール・クルーの【ドリーム・カム・トゥルー】。大胆なのに繊細で,泣きたいくらいの歓喜に包まれていく。この“センチメンタルなリリシズム”に“女盛りな”寺井尚子を感じてしまう。

 東芝EMI移籍後の寺井尚子のクオリティは高い。寺井尚子・サウンドが完成している。文句のつけようがない。その点『ピュア・モーメント』には“粗さ”がある。まだ自分自身では抑制できない“感情の起伏”がある。エロスがある。

 『ピュア・モーメント』の“じゃじゃ馬なのにお嬢様育ち”のギャップ。管理人の愛聴盤である。

  01. Adios Nonino
  02. Pure Moment
  03. Summertime
  04. Fragile
  05. Spain
  06. Estate
  07. First Love
  08. Dream Come True

(ビデオアーツ/VIDEOARTS 1999年発売/VACV-1033)
(ライナーノーツ/青木和富,中西俊博)

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)