TENDERNESS-1 『ユー・アー・ソー・ビューティフル』で,ビル・エヴァンスを完全消化し“エヴァンス派”から卒業した木住野佳子

 そんな木住野佳子の次なるテーマは木住野佳子。そう。自分自身である。『TENDERNESS』(以下『テンダネス』)で“内面の本当の自分”と真摯に向き合っている。
 有りのままの自分を見つめ直す行為は時に大変辛いものだろうが,その内省や沈潜の末に産み落とされた“己の内へ内へと向かう”独特なアドリブの魅力は言わずもがな。『テンダネス』での“抒情的な”ジャズ・ピアノはそうめったに聴けやしない“稀代の逸品”である。

 管理人には『テンダネス』を聴いて大泣きする夜がある。悲しい出来事があったわけではないのに涙に誘われる。これはせつない涙? 暖かい涙? “心から涙がこぼれる”感じで,泣き終わると“すっきり”する。
 【DANNY BOY】【TENDERMESS】【THE BLESSED WORLD】が流れ出すと,もうダメ。木住野佳子は一体いくつの恋に破れ,涙してきたのだろう? な〜んて勝手に想像してしまいます。

 木住野佳子自身にとっても,バラード集=『テンダネス』は“癒し”なのだと思う。ピアノが心に染み入ります。限りなくピュアなピアノ
 共演者たちの名演も聴き逃してはならない。演奏者全ての音色が優しく温かく響く。演奏者全員が互いが互いを癒し癒されている。バラードなのに勇気が出る。元気が出る。希望の光で満ち溢れている。

 木住野佳子ジャズ・ピアニストである。ピアノバラードを“歌っている”。
 いや,ピアノだけではない。木住野佳子は,木管で,ストリングスで,ハーモニカで,バラードを“歌っている”。

 『テンダネス』で展開するのは“リリシズム”の世界。木住野佳子は“女神”である。バラード特有の美しいメロディ・ラインをエレガントに語りかけている。透明感ある淑女の色気が漂っている。
 そう。エロスではない。ひたすら美しいのだ。それゆえ管理人は,時に救われ,時にのたうち回ってしまう。手が出せない,指一本ふれてはならない,清純な処女性を強く感じてしまうのだ。

 これは非ジャズである。そう。『テンダネス』はジャズではなく“芸術作品”である。
 大好きなはずなのに,なぜかのめりこめない。BGMとしてはいいのかもしれない。録音がきれい過ぎるのかもしれない。人間は,あるいは人間の心は,そんなにきれいなものではない。罪や悪が抹殺されている。もう少し生々しさがほしい。肉感的な部分がどうしようもなく欠落している。

 この全ては管理人のエゴである。『テンダネス』は泣ける。じわじわと心の琴線に触れてくる。心の奥深くで温かさを感じる。
 何よりも大切な歌心がある。しかしその癒しの歌声は女神の歌声であった。地上にあるものではなく大空から降り注いでいる。美しすぎる。清すぎる。そう思ったとたんに汚してしまいたくなる。ああ無常。

 『テンダネス』は,非ジャズ名盤である。あまりにも健全すぎる。不健康なジャズ好きとしては「微妙に距離を感じる」のである。木住野佳子が相手では,結婚前提でないとお付き合いできそうにない。← 当然です。
 その意味で『テンダネス』はシチュエーションを選ぶ音楽だと思う。人工的に完璧に作り上げられた美しさのBGMとして『テンダネス』以上にマッチするCDも他にないことだろう。

TENDERNESS-2 例えば,夜景の見える大都会の。ホテル最上階のラウンジ。目線の上には満天の星屑。目線の下にも街頭とテールランプ。
 例えば,チャペルでの2人きりの結婚式。永遠の愛を誓っている。美人ピアニストが2人のためだけに弾くビル・エヴァンス。ああ〜。

 さて,最後に“芸術作品”『テンダネス』を鑑賞する男性としての楽しみについて一言…。

 美人ピアニスト木住野佳子の場合,たぶんジャケ買いする人も多いのでは? 『テンダネス』の目を伏せたジャケ写にドッキリ。裏ジャケでのロングドレスと彼女の表情がまた何ともアンニュイ。
 『テンダネス』に限らず,木住野佳子アルバムを全部揃えてニヤついているオヤジたち,結構多いんだろうなぁ。

  01. Danny Boy
  02. By The Sea
  03. Feel Like Making Love
  04. Love Is Here To Stay
  05. Lost In The Dream
  06. Tenderness
  07. Air-Sul G
  08. Love
  09. Lullaby
  10. The Blessed World
  11. Stranger In Paradise

(GRP/GRP 2000年発売/UCCJ-2001)
(ライナーノーツ/木住野佳子)

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