2008年05月08日

キース・ジャレット / アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー4


THE ART OF IMPROVISATION 『THE ART OF IMPROVISATION』(以下『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』は“生けるアドリブ芸術”キース・ジャレット初にして(恐らく)最後のドキュメンタリーDVDである。
 正直,管理人は,この内容には満足していない。『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』は,断片的資料を継ぎ接ぎしたドキュメンタリーなので,キース・ジャレット特有の“一貫したストーリー性”が欠如している。そう。『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』は,ジャズ・ピアニストキース・ジャレット“歴史資料集”なのであって,感動ものではない。

 しかし『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』は,キース・ファンにとっては“かけがえのない夢のような宝物”である。内容不足を補って余りある“貴重品”なのである。
 管理人はこのDVDの完成を創造の神に感謝している。加えて,キース・ジャレットの「心の鍵」を開けてくれた,真摯なスタッフの努力に感謝している。このDVDには“人間”キース・ジャレットのありのままの姿が記録されているからだ。

 キース・ジャレットは,決して妥協を許さない,完璧主義者の芸術家である。だからこそ“前人未踏”の偉大な仕事を数多く成し遂げてきた。そんなキース・ジャレットのポリシーの一つが「プロモーションのためには決して演奏しない」こと。そう。キース・ジャレットというジャズメンは,決してお金では動かない。いや,動けない人なのである。
 過去において『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』と同様のフィルム企画が多数持ち込まれていたそうだが,その全てをキース・ジャレットは断わってきた。彼の信念がそれを許さなかった。そう。キース・ジャレットは「その仕事を真にやるべき価値があり,その仕事の完成を共に喜びあえる仲間とでなければ」決して仕事をしないのである。
 それゆえ,とにもかくにも,一本のドキュメンタリー作品が完成し,手元に存在しているこの事実に心から感謝している。あの気難しいキース・ジャレットからの信頼を勝ち得,出演交渉で“くどき落とす”ことなど,女優に濡れ場を演じさせること以上に困難極まりなかったに違いない。スタッフが費やした多くの時間と労力に感謝するばかりである。

 さて,そんな誠実なスタッフたちの努力の結晶である『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』は,日独英共同制作。3カ国所有の“お宝映像”が多面的に編集されている。貴重な映像資料群ゆえ(本論の流れを無視し)詰め込み過ぎた印象が残る。まぁ,散漫になるのは致し方のないことなのだろう。
 それよりも管理人の目に留まったのは,時系列を無視した編集にある。チャールス・ロイド・カルテットマイルス・デイビス・グループと来れば,次はソロ・ピアノか,アメリカン・カルテットなのであろうが,ヨーロピアンクラシック〜『スピリッツ』が先に来たので,ヤン・ガルバレクよりデューイ・レッドマンの方が印象に残ってしまった。おかげで『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』を見終わった瞬間から,アメリカン・カルテット,とりわけローズアンのハートを射止めた『フォート・ヤウ』のヘビー・ローテーションが始まっています。はい。

 ここまで『アート・オブ・インプロヴィゼーション〜キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー』の内容不足について毒づいてしまったが,唯一,慢性疲労症候群と闘っていた時のエピソードは真に感動的である。
 “生けるアドリブ芸術”キース・ジャレットは,健康を犠牲にしてまで音楽の創造に没頭してきた。その代償として支払われたのが「身体をエイリアンに乗っ取られた」と語った慢性疲労症候群による衰弱。ピアノも見れない。蓋を開ける力もない。3分以上は話しさえできない。そんなどん底のキース・ジャレットを,家族や友人みんなで慰め,励まし続けたのだ。
 そんな闘病生活の末,産み落とされた傑作が『メロディ・アット・ナイト,ウィズ・ユー』。ローズアンへのクリスマス・プレゼントである『メロディ・アット・ナイト,ウィズ・ユー』は,わずか1,2分しか演奏できない状態の中でのソロ・ピアノである。プレゼント用DATにはリボンがかけられていたそうであるが,回想しつつも感動で言葉が詰まるローズアンへのインタビューには心を打たれた。
 「病気は教師。今は作曲活動は行なっていない。演奏できるのは奇跡。演奏以外の形で音楽に関わるのは違うと思った。演奏できる奇跡だけでいい」とキース・ジャレットは語っている。
 これがインプロヴァイザーとしてだけでなく作曲家としても名を馳せた,ジャズ・ピアニストキース・ジャレットの“真実”であろう。

 近年,キース・ジャレットは『レイディアンス』『カーネギー・ホール・コンサート』と,即興演奏を披露できるほど体力が回復している。キース・ジャレット・トリオの最新作『マイ・フーリッシュ・ハート』が凄すぎる。
 2008年5月,キース・ジャレットが再び日本上陸する。管理人も大阪まで乗り込む予定である。

(2005年発売/VABJ-1163)

ランキングを見てみよう!

adliblog at 23:52 │Comments(10)TrackBack(1)この記事をクリップ!DVD批評
トラックバックURL
この記事へのトラックバック
1. 慢性疲労症候群  [ 慢性疲労症候群.biz ]   2008年07月15日 21:39
慢性疲労症候群の症状について
この記事へのコメント
1. Posted by ayuki    2008年05月09日 05:49
お邪魔致します。
『演奏できるのは奇跡・・・』なにか胸を打つ言葉です。病気からの回復や音楽に限らず、人生の全ての出来事を『奇跡』と想うことができたら、もっと優しい気持ちになれるかもしれませんね。
2. Posted by セラビー    2008年05月09日 08:18
ayukiさん,コメントありがとうございます♪
人生は奇跡の連続ですが,謙虚にそう思える瞬間って少ないように思います。キース・ジャレットにとって意思伝達手段であるピアノを奪われた経験が,良い意味で「優しい気持ち」を深める結果になりました。幸福な日常に感謝です。
3. Posted by おがっち    2008年05月09日 12:42
5 素朴な質問ですが、ローズアンって誰ですか? キースの奥様ですか?
4. Posted by セラビー    2008年05月09日 13:08
おがっちさん,コメントありがとうございます♪
ローズアンとはキース・ジャレットの奥様です。説明不足でしたね。突っ込まれる前に補足しておくと,私が思うにローズアンは美人な方ですよ。DVDで確認されてください。
5. Posted by BLUE LIFE    2008年05月09日 22:38
まさかキースが演奏活動中断に追い込まれるとは思ってもみませんでした。回復して良かったと思いますが、映画のセリフで「創造するという事は、とても苦しいものだ。」というのが思い起こされます。
6. Posted by セラビー    2008年05月09日 23:04
BLUE LIFEさん,コメントありがとうございます♪
キース本人によると,キースの即興は「創造の神」の仕業ですが「創造の神」が降臨するための努力は“もがき”ですよね。キース・ジャレットは音楽界の格闘家だと思っています。
7. Posted by 和仁    2008年05月11日 10:49
ブログの方へ書き込むのは
久しぶりです。
ご無沙汰してました。

せっかくキースの記事を書いて下さってるのに、
書き込みが遅くなってしまってすみません。

このDVDは当然の様に僕も買って見ました。
実はモーツァルトの2台のピアノのためのコンチェルトをチックと共演している映像が収録されてるとの情報を受けて購入したのですが、ほんの一部分だったので、少しがっかりしました。まぁ、ドキュメンタリーDVDなんで当然といや、当然なんですけど(笑)。
8. Posted by セラビー    2008年05月11日 11:23
和仁さん,コメントありがとうございます♪
いろいろお世話様です。大阪よろしくお願いしますね。LIVEレポート掲載時は和仁さんが本文中に登場すると思いますが,よろしいでしょうか?
さて,チック・コリアとのモーツァルトの共演についてですが,あんなに大人しく座ってピアノを弾いているキースは初めて見ました。鯉沼氏とチックのインタビューを聴く限り,かなり真面目なクラシック・ピアノのようです。キースはインプロヴァイザーなので,ひらめき勝負で練習しなのかと思っていましたが…。天才の陰での努力を覗き見した思いです。
9. Posted by 和仁    2008年05月11日 16:44
ライブレポートの件、大丈夫です。
登場させてやって下さい。
10. Posted by セラビー    2008年05月11日 17:15
和仁さん,コメントありがとうございます♪
了解です。では和仁さんを「いい人」として書きますので,遅刻&欠席のないよう諸事情の調整お願いしますよ。
って冗談です。無理なさらないようにです。

PS 掲示板の書き込みも読んでみてください。
この記事にコメントする
名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Blog times
CubeClock
livedoor プロフィール
記事検索
Archives
Categories
アンケートボード

★当ブログについて望むことは?

アルバム単位で批評してほしい
同じ曲をテイク別に批評してほしい
多くのジャズメンを幅広く批評してほしい
一人のジャズメンを掘り下げて批評してほしい
超有名曲をもらさず批評してほしい
発売直後の新作を批評してほしい
初心者を意識したほんわかサイトにしてほしい
マニアを意識したニッチなサイトにしてほしい
オーディオについて批評してほしい



-Mini Vote-