RITES OF SUMMER-1 昔のこと,すでに時効を迎えているから書く。恥ずかしながら無知な管理人は,長年,スパイロ・ジャイラのことを“南米のラテン・フュージョン・バンド”だと思っていた。
 スパイロ・ジャイラの“ラテン・フレイバー”は本物以上に本物していたので,南米以外の可能性などゼロ! 疑うことすらしなかった。勝手にそう思い込んでいた。

 後日真実を知らされることとなるが,素直にその事実を受け入れることができなかった。これがNYのフュージョン・バンドなのか? 何かの間違いでは?
 スパイロ・ジャイラの新作を耳にする度に,スパイロ・ジャイラ=“南米のラテン・フュージョン・バンド”のイメージが頭をよぎっていた。

 しかし,ついにスパイロ・ジャイラ=NYのフュージョン・バンド説(←仮説ではなく事実)を受け入れら・れ・る日がやって来た! 忘れもしない。FMから流れ出すシティ系サウンドを紹介した「お聴きいただいたのはスパイロ・ジャイラの新作で…」の一言…。

 自分自身の耳が疑いなく,一点の曇りもなく,スパイロ・ジャイラ=NYと判断した。認識した。自覚した。この音はどう聴いても南米ではなくNY!
 それがスパイロ・ジャイラの12枚目のアルバムである“遅咲きのシティ系”『RITES OF SUMMER』(以下『ライツ・オブ・サマー』)であった。

 都会は人種のるつぼ,実質は田舎者の集まり。根っからのニューヨーカーでもラテン・フュージョンは創作可能である。しかし長い都会暮らしは確実に田舎者の“垢”をそぎ落とす。無意識のうちに時代の最先端へと押し流す。
 スパイロ・ジャイラは時間をかけて,文字通りの『ジャングル・サウンド』から『コンクリート・ジャングル・サウンド』へと変貌を遂げてきた。“熟成を重ね”大人の音楽へと進化してきた。

 この音,このテンション! これぞ“シティ系”サウンドの王道である。以前のラテン&カリプソ色が姿を消している。その代わりに台頭してきたのが,ジャズを基調にしたスリリングでシリアス志向のアドリブインプロヴィゼーションである。

 ズバリ“熱さ”の変化! 熱帯の暑さが,人工的に冷やされた都会のクーラー+ヒートアイランドの熱帯夜へと変わっている。アグレッシブでプログレッシブなロック・フュージョンである。

 折しも『ライツ・オブ・サマー』が録音された1988年,イエロー・ジャケッツも『ポリティクス』で大胆なイメチェンを果たした。イエロー・ジャケッツのそれが“突然変異的”であったのに対し,スパイロ・ジャイラには今振り返れば“予兆”があった。

RITES OF SUMMER-2 「即興性のあるポップ・ロック」がNYサウンドの特徴だとすれば,スパイロ・ジャイラの内で生じる“脱ラテン”は近年ずっと噴き出していた。『ライツ・オブ・サマー』は「出るべくして出た」シティ系である。

 もしかしたら『ライツ・オブ・サマー』以前に,このスパイロ・ジャイラの変化を嗅ぎ分けた(聴き分けた),熱心なフュージョン・ファンもいるかもしれない。しかし管理人は自分の耳を信じたい。

 いつかは世に出たでろうスパイロ・ジャイラのシティ系フュージョンであるが,事実としてスパイロ・ジャイラが「南米→ニューヨーク」へ住民票を移し終えたのは『ライツ・オブ・サマー』。
 ズバリ『ライツ・オブ・サマー』がスパイロ・ジャイラ「第2幕」の原点である。

 
01. CLAIRE'S DREAM
02. DADDY'S GOT A NEW GIRL NOW
03. LIMELIGHT
04. SHANGHAI GUMBO
05. INNOCENT SOUL
06. NO MAN'S LAND
07. YOSEMITE
08. THE ARCHER
09. CAPTAIN KARMA

 
SPYRO GYRA
JAY BECKENSTEIN : Saxophones, Wind Driven Synthesizer
TOM SCHUMAN : Keyboards
DAVE SAMUELS : Vibes, Marimba, Percussion
JULIO FERNANDEZ : Guitars
OSCAR CARTAYA : Bass
RICHIE MORALES : Drums, Percussion

(MCA/MCA 1988年発売/25XD-1090)
(ライナーノーツ/松下佳男)

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イザヤ書21章 見張り台の上で見張る
エリック・アレキサンダー・カルテット 『ニューヨークの休日