MOANIN'-1 ジャズ界には“名伯楽”が二人いる。マイルス・デイビスアート・ブレイキーである。

 勿論,二人ともプレイヤーとしても超一流ゆえ,正確には“名伯楽”とは呼べないが,優れたジャズメンを嗅ぎ分ける「嗅覚」は他のジャズ・ジャイアントの追随を許さない程,秀でたものがいる。
 「マイルス・スクール卒」&「ジャズ・メッセンジャーズ卒」のビッグ・ネームを数え挙げると切りがない。マイルス・デイビスアート・ブレイキーのバンドがリニューアルされる度に「またドエライ新人を連れてきたもんだなぁ」と,二人の“人材発掘能力”にしばしば感心させられたものである。

 しかしマイルス・デイビスアート・ブレイキーの“スカウト”の手法には大きな違いがある。
 マイルス・デイビスのコンボはいつでも“オールスター軍団”! 野球で言えば巨人軍! そう。FAで完成品をかっさらう! 一方,アート・ブレイキーのコンボは広島カープ! 有望新人を自前で叩き上げる! 現場でトコトン鍛え抜く“ど根性軍団”!

( マイルス・ファン,並びに巨人ファンの読者の皆さん,悪く言おうとする意図などありませんが,傷付けてしまったのでしたら,心から謝罪いたします。正確には,マイルス・デイビスも“無名の新人”をたくさん発掘してきましたし,アート・ブレイキーも“大物”を登用した時代がありました。目くじらを立てずに,おおまか・大体の違いってことで,サラリと読み流していただければ助かります。お許しを…。)

 さて,アート・ブレイキーの最高傑作であると同時にファンキー・ジャズの“不朽の名盤”『MOANIN’』(以下『モーニン』)が録音される前年(1957年)のジャズ・メッセンジャーズには才能豊かな“後の大物”たちが多数在籍していた。
 ざっと紹介してみると,ジャッキー・マクリーンドナルド・バードルー・ドナルドソンハンク・モブレージミー・スミスジョニー・グリフィンジョン・コルトレーンウォルター・ビショップ・ジュニアといった“驚異の面々”がズラリと並んでいる。

 ジャズ・メッセンジャーズがすでに人気コンボだったことを考えると誠に不思議であるが『モーニン』録音時には上記“大物”メンバーは一人も在籍していない。
 『モーニン』の録音メンバーは全員テナー・サックスベニー・ゴルソン繋がり。ピアノボビー・ティモンズトランペットリー・モーガンベースジミー・メリット。そう。ベニー・ゴルソン以外は,当時“まだ”無名の面々である。

 しかし“名伯楽”アート・ブレイキーの目に狂いはなかった! すでに“ファンキー”を求める土壌を見て取ったアート・ブレイキーは“新・音楽監督”にベニー・ゴルソンを任命した。ファンキー・ジャズベニー・ゴルソンが引き連れてきたこの新メンバーだからこそ音を“具現化”できたのである。

MOANIN'-2 ここでは簡単に触れておくが,ファンキー・ジャズとはジャズのルーツであるブルースやゴスペルの持つ“アーシー”な感覚を意識的に取り入れたハード・バップのこと。そう。ファンキー・ジャズの完成には“アーシー”を頭ではなく身体で理解できる「黒い」ジャズメンが必要不可欠。
 この新メンバーは全員東海岸フィラデルフィアの出身。幼少の頃からジャズはもとより,ブルースやゴスペルと共に育ってきたジャズメンなのだ。

 ついに“機は熟した”! ファンキーを求める時代の波とメンバーの高い資質がアート・ブレイキーに“理想の”ファンキー・ジャズの誕生を告げていた! その後の世界的大ブームについては改めて説明するまでもないだろう。
 ファンキー・ジャズの“不朽の名盤”『モーニン』に“新・音楽監督”ベニー・ゴルソンあり! “名伯楽”アート・ブレイキーなくしてファンキー・ジャズは語れない!

  01. WARM UP AND DIALOGUE BETWEEN LEE AND
     RUDY

  02. MOANIN'
  03. ARE YOU REAL
  04. ALONG CAME BETTY
  05. THE DRUM THUNDER SUITE
  06. BLUES MARCH
  07. COME RAIN OR COME SHINE
  08. MOANIN' (alt. take)

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-66404)
(ライナーノーツ/小川隆夫)

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