アナログレコード

 電話口で一声聴いて,すぐに誰からの電話か分かる人がいる。一方,親子だったり兄弟だったり「全く同じ話し方?」なので,確認しないと誰からの電話か分からない場合もある。
 後者に関しては,どんなに親しい間柄であっても,実際に一音で判別するのは難しい。「オレオレ…」の言葉を鵜呑みにし,当人と思い込んだまま別人と話し続ける…。読者の皆さん,くれぐれも「振り込め詐欺」にはご用心!

 さて,ジャズフュージョンを聴いていると,これとよく似た場面に遭遇する。一音聴いて,すぐに誰だか分かるジャズメンもいれば,CDのクレジットを見ないと,誰の音だか分からないジャズメンもいる。そして,これは嘆き悲しむべきであろうが,ジャズフュージョンに関しては,残念ながら圧倒的に後者が多い!
 「あの音色が…,あのフレージングが…」と,ジャズメンの個性を表現することが多いし,それは決してウソではないのだけれども,ジャズフュージョンの主役はあくまで楽器であり,楽器は物である。徹底した品質管理のもとで大量生産されている。だれが弾いても同じ音が出るように作られているのだ。
 判別の難しさは電話口での人声の“それ”とは次元が違う。

 では完全に判別不能なのかというと,そうでもない。少数ではあるが明確に“自分の音”を持つジャズメンは存在する。その代表格の一人が,今回紹介するマイケル・ブレッカー
 これはフュージョンサックスの第一人者=ケニー・Gの談話であるが,彼の定義によると,全世界のサックス奏者の中で“自分の音”を持っているのは,グローヴァー・ワシントンJr.デヴィッド・サンボーン,そしてマイケル・ブレッカーの3人だけ,となっている。

 だが,管理人は当初,この意見に納得できずにいた。グローヴァー・ワシントンJr.デヴィッド・サンボーンは分かるが,マイケル・ブレッカー? マイケル・ブレッカーより“個性的な音”を持つサックス奏者は五万といる! 長らくそう思っていた。
 しかしあるCDとの出会いによって,ケニー・Gの見解の正しさを悟る時がやって来た。そのCDこそ『TIME IS OF THE ESSENCE』(以下『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』)!
 
 『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』は,なにかと“話題性”のあるCDであった。
 プレス・リリースから引用すると「ミレニアム(千年期)の最後に50歳になったマイケルが,半世紀の生涯を総括する」「そこで『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』=時間(タイム)が肝心なんだ」という“熱の入れよう”であった。
 また管理人のようなメセニー・フリークにとっては“盟友”パット・メセニーの全編参加! ただそれだけで“即買い”であった。
 いや,最大の収穫とされたのは,オルガン奏者=ラリー・ゴールディングス! 確かにラリー・ゴールディングス名演が,ベースレス・カルテットを機能させている。そう。最大の“功労者”はラリー・ゴールディングスであろう。
 NO! 『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』最大のセールス・ポイントは,3人の異なるドラマーとの共演であった。マイケル・ブレッカーパット・メセニーラリー・ゴールディングスのトリオに,エルヴィン・ジョーンズジェフ・“ティン”・ワッツビル・スチュアートという“超豪華”ドラマー3人組みが,トラック毎に“絡んで”みせるのだ!

 肝心の音の仕上がりも“話題先行”を打ち消すに十分な「スイングジャーナル誌選定ゴールドディスク」受賞の“折紙付き”! 真にクリエイティブで素晴らしい出来である。気に入った! マイケル・ブレッカーテナー・サックスが気に入った! 発売当時『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』が管理人のCDプレーヤーに「常駐」していた日々を思い出す。

 「どのような編成でも,バンドにとって一番重要なのはドラムなんだ」。こちらはパット・メセニーの談話であるが,この言葉が真実であるならば『タイム・イズ・オブ・ジ・エッセンス』ほど“エキサイティング”なCDはない。そしてパット・メセニーのこの言葉は至言であるに違いない。
 確実にトラック毎に,ドラマー毎に,同じバンドとは思えない“化学変化”が生じている。しかしその中にあって,いつも音楽の中心にはマイケル・ブレッカーがいる。マイケル・ブレッカーマイケル・ブレッカーらしく“威風堂々”と主役を張っている!
 ケニー・Gが言いたかったのはこのことであった。妙に一人で納得した。「目からウロコ」の初体験。そう。今なら胸を張って公言できる! マイケル・ブレッカーは“自分の音”を持つ,素晴らしいジャズメンである!

 ただし,もう“生”マイケル・ブレッカーを拝聴することは“かなわぬ夢”となりました。訃報です。マイケル・ブレッカー氏は昨日(2007年1月13日),死の眠りにつかれました。ここに謹んで哀悼の意を表します。

(1999年録音/MVCI-24017)

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