TOKYO-1 親は子供の誕生前からあれこれと名前を思案する。子供でさえペットの名付け親となるに際し熟考する。新商品の開発会議において最も時間を要するのがネーミング会議である。
 そう。名前って重要! 重要であるからこそ,多くの時間と労力をかけて,名前について熟慮を重ねるのである。

 さて,アキコ・グレースである。このアーティスト名に,あの日本人離れしたルックスとくれば,もしやハーフ? と思われるかもしれないが,アキコ・グレースとは芸名! 彼女は歴とした純・日本人。本名:岩瀬晶子さんである。
 この芸名には意味がある! メイド・イン・ジャパンの「最高傑作」としての鮮烈デビュー! この芸名は“世界進出”を見据えての“戦略”である! そう。アキコ・グレースの眼前には,デビュー前にして“世界への扉”がクッキリと見えていた。

 アキコ・グレース程の“高学歴ジャズメン”は世界的に見てもそうザラにはいない。なんてったって芸大&バークリーのW首席卒業! バークリー在学中にも2年連続の学生代表演奏。バークリー・パフォーマンス・センターでの演奏という名誉を得た。
 卒業後も快進撃は続く! SAVOY(サヴォイ)初の日本人ジャズメン! 史上初,それもデビュー1年目にして,スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】を2作連続&年間2枚獲得という離れ技! これは異例中の異例。大事件であった。
 スイングジャーナル関連で言えば「ニュースター賞」「日本ジャズ賞」を“当然のごとく”受賞したし,ミュージック・ペンクラブ賞ポピュラー部門・コンサート・パフォーマンス賞や文化庁主催芸術祭優秀賞(レコード部門)といったビックな受賞歴も多数ある。ここら辺はさらりと書き終えることにするが,よ〜く考えてみてほしい。これらの賞の“重み”はハンパではない。

 普段,アンチ・ジャズ・ジャーナリズムの管理人にここまで書かせたジャズメンはアキコ・グレースが初めてである。それだけでもアキコ・グレースの凄さが分かるってものでしょ? 「おぬしやるな〜」( ← って,そんなお前は一体何なんだって話ですけどね。全く説得力などありませぬ。いつも高飛車ですみません。)
 そう。アキコ・グレースジャズ・ピアノの前では,この類の“うんちく”など一切不要である。きっと一音聴いただけで,オッ,と思うに違いない。百戦錬磨の“通”なオヤジたちの耳をKOし,ジャズの本場でも“超一流”として渡り歩ける実力者なのである。

 さてさて,話を戻そう。“世界進出”を見据えて芸名デビューを果たしたアキコ・グレースが,実際に世界へと照準を合わせたのが,アキコ・グレースの4作目『TOKYO』(以下『東京』)である。
 デビューから続いた「ニューヨーク三部作」でJ−ジャズ界を完全制覇した勢いそのままに,と思いきや,大胆にも路線変更! これがアキコ・グレースの予想に反して不評を買った。この『東京』での失敗が響いて,過去の偉大な実績さえも“吹き飛ばされた”感さえある。正に株価の大暴落である。
 しかし,管理人は『東京』は駄盤,失敗作とは思わない。むしろ評価その逆である。最高傑作と呼ぶには忍びないまでも『東京』には「ニューヨーク三部作」では希薄であった,アキコ・グレースの“個性”が豊かに表現されているように思う。愛聴盤である。

 アキコ・グレースの個性は“陰り”である。“陽の権化”ピーターソン派を自認するアキコ・グレースとしては意外に思えるが,アキコ・グレースピアノには“陰り”がある。“閉塞感”を感じると同時に“破壊の快感”が複雑に入り混じっている。

TOKYO-2 表面的にはスマートでオシャレで洗練された“CITY系”であるが,華やかな「勝ち組」生活は多くの犠牲の上に成り立っている。創作活動=命を削る“ユンケル漬け”の毎日。
 そう。“高学歴ジャズメン”の宿命=結果を求められ続ける大きなストレスは“キャリア・ウーマン”的な“陰り”である。結果のためには,自分のやりたいスタイルを捨て,時流に乗っかる必要がある。ここがジャズメンにとって最大の“ジレンマ”であろう。

 この“ジレンマ”をアキコ・グレースは,デビュー前から抱えてしまっていた。売れて当然という,目には見えないプレッシャー,がのしかかっていた。それが無意識のうちに“陰り”という個性を作り上げてしまったのではなかろうか? 本当のアキコ・グレースとは「のだめ」なのかもしれない。

 “プライド,嫉妬,女の執念”が聴こえてきそうな“反骨精神”丸出しのピアノ・タッチが,男性では“制御不能”な強烈なエネルギーを発してくる! この“怨念の力”が日々の“閉塞感”を突き破って前進する! ここに“破壊の快感”が宿っている!
 おっと,当然ながらこれはアキコ・グレースジャズ・ピアノの特徴について述べているのであって,実際の彼女がそんな女性だと言うことでは決してありませんので,誤解なさらずに…。

 『東京』には,これまでの“しがらみ”や“ジレンマ”から全て解放されて,アキコ・グレースが真に演りたかったジャズ・ピアノの世界がストレートに表現されている。これまでの溜まりに溜まった“うっぷん”をぶちまけた「本当の自分」が表現されている。
 そう。これまで表面に表われることの少なかった,しかし確実に底流に渦巻いていた“陰り”が俄然上昇している! これこそ『東京』のテーマである“和”の追求と関連があるのだろう。

 アキコ・グレースは『東京』で自分自身の「パンドラの箱」を解き放った。もうこの「パンドラの箱」は閉じられない。アキコ・グレースと言う名に込められた“世界制覇”を完遂するその時まで…。

  01. Prelude〜Kagome Kagome (short version)
  02. 東京狂詩曲
  03. 春咲小紅
  04. 悠久の路
  05. 記憶
  06. In Front of the Skywheel
  07. Donna Lee
  08. おぼろ月夜
  09. 島唄
  10. KUROSAWA
  11. Giant Steps
  12. Calmness
  13. 最初の光〜飛翔
  14. Kagome Kagome (long version)

(サヴォイ/SAVOY 2004年発売/COCB-53128)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,菰口賢一)

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