WE GET REQUESTS-1 ジャズ界を代表する「優等生」。その人がオスカー・ピーターソンである。
 オスカー・ピーターソンのレベルは相当に高い! アドリブの冴え,リズム感,ドライブ感,その他,ピアノという楽器にまつわる,ありとあらゆる項目でトップランクを軒並みGET! ジャズメンに通信簿があるならば,オスカー・ピーターソンは“オール5”の「優等生」となるだろう。

 恐らく,全てのジャズメンはオスカー・ピーターソンに“なれるものならなりたい”と思っていることだろう。オスカー・ピーターソンは,ある意味“ジャズメンの神様”的な位置にいる。
 しかし“ジャズメンの神様”の音楽が万人に愛されるかと言えば,必ずしもそうではない。頭では,聴くアルバム全部が「五つ星」であることは分かっている。しかし“心を動かされた”とか“熱烈に愛する”という感動が薄い。凄い,が即,愛聴盤とはならないのだ。

 これは“世の常”ゆえ,どうしようもないことであるが,手のかかる子ほど“かわいい”ものである。真面目な「優等生」は人気が出ない。正直,出来すぎてつまらない。
 上手でなくても“灰汁の強さ”さえあれば「何とかなる」のがジャズの世界。みんなが羨む「絶大な才能」が,却って人気の足かせとなっている。オスカー・ピーターソンにとって,この「不条理」が悲劇なのである。

 こうなったら,オスカー・ピーターソンの“底なしの素晴らしさ”を徹底的に楽しむしかないであろう。それがジャズ・マニアに残された唯一の道! 明るく開放的なジャズも聴き方によっては結構楽しめる!
 ここは自称ジャズ批評家としての腕の見せ所? オスカー・ピーターソンの“おいしい聴き方”には少々“コツ”が必要なのだ。

 『WE GET REQUESTS』(以下『プリーズ・リクエスト』)を例に挙げよう。
 オスカー・ピーターソンは,ライブでよく聴衆からのリクエストを受け付けていたそうで『プリーズ・リクエスト』は,そんなオスカー・ピーターソンからのリクエスト集にして名曲オンパレードのアンコール集である。

 実際にはスタジオでの“名録音盤”として,オーディオ通の間にその名を天下に轟かせているのだが,この質感は“ライブ盤”そのものである。このアルバムの雰囲気には,大勢の聴衆に囲まれてこそ“オーラを発揮する”オスカー・ピーターソンの本質がよく表われている。

 そしてここが聴き所であるのだが,オスカー・ピーターソンの“エレガントな”ピアノは,アドリブを奏でている時でさえ丁寧にバックに音を合わせている。
 「黄金のトリオ」「キング・オブ・トリオ」と称された“指折り”のピアノ・トリオの成功は,オスカー・ピーターソンの“音楽監督”としてのバランス感覚に負うところが大きい。

 ピアノオスカー・ピーターソンベースレイ・ブラウンドラムエド・シグベンによるピアノ・トリオの演奏には,あたかも“オーケストラとジャズが共演しているかのような”風情がある。
 オスカー・ピーターソンが“指揮”するピアノ・トリオの,繊細かつ大迫力の3人のオーケストラ! いや(聴衆の熱気がトリオに影響を及ぼすことから)ビッグ・バンドと呼んでもいい!
 そう。オスカー・ピーターソンが「優等生」として,共演者を,時には観客さえも,自分の音世界の“彩り”の一つとしてまとめあげていく!

WE GET REQUESTS-2 そんな“音楽監督”オスカー・ピーターソンが『プリーズ・リクエスト』でプロデュースしたのが“世界一のジャズピアニストオスカー・ピーターソン! ベースドラムの間隙を縫うように,協調性のあるアドリブが展開されている。

 『プリーズ・リクエスト』の音造りは“してやったり”の感無量。ピアノ・トリオをダイナミックに鳴らすには,ピアノをドライブさせるためのトリオ・フォーマットが必要であった。カルテットやクインテットではこうも自由な演奏は難しいように思う。やはり「自分を生かす術」を知るオスカー・ピーターソンは“天才”だと思う。
 ん? もしや「優等生」が“必死に隠す”計算高さ? ははぁ。

 いずれにしても,オスカー・ピーターソンは“根っからの”ジャズメンである。オスカー・ピーターソンの完璧なアドリブには“灰汁がなく”人気が出ないと分かってはいても,体質的にジャズ以外は演奏できない,100%のジャズ体質。

 非の打ち所のないジャズもいいものではないか! 明るく開放的なジャズもいいではないか! たまには薄暗い部屋を飛び出し,青空の下,オスカー・ピーターソンを聴くのもいい。
 TPOに合わせて楽しめるジャズ。これがオスカー・ピーターソンを聴く“コツ”である。

 
01. Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado)
02. Days Of Wine And Roses
03. My One And Only Love
04. People
05. Have You Met Miss Jones?
06. You Look Good To Me
07. The Girl From Ipanema
08. D. & E.
09. Time And Again
10. Goodbye J.D.

 
OSCAR PETERSON : Piano
RAY BROWN : Bass
ED THIGPEN : Drums

(ヴァーヴ/VERVE 1957年発売/UCCU-9506)
(紙ジャケット仕様)
(ゴールドCD仕様)
(ライナーノーツ/油井正一)

アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION



イザヤ書32章 王と高官たちが真の公正のために治める
小曽根真 『スターライト