アナログレコード

 春。4月。別れと出会い+引越し+新入生や新社会人…。
 連想ゲームはまだ続くが,管理人は“お上りさん”で溢れるこの時期の東京が大好きだった。管理人自身18歳で上京し,毎週毎週東京見物。エンジョイ東京ライフ!(正確には千葉県民でしたが)。ホームシックなどかかるはずもない。

 しかし,たった一度だけ長崎の田舎を思い出したことがあった。それがズート・シムズを聴き返した瞬間だった。
 ズートの“ほんわか”サウンドに“田舎の良さ”を感じたのだ。ここがミソ! ここがズート・シムズ最大の特徴であり,魅力であり,味なのである。
 思わず“昔は良かった。田舎は良かった”と口走りそうになる。都会人が失ってしまった何かが,現代ジャズが失ってしまった何かが,残されている。

 このように紹介するとズート・シムズは“相当の田舎者”に思えるかもしれないが,実はカリフォルニア州イングルウッド=「ブラック・ビバリーヒルズ」とも称される“都会派”の出身である。
 ではなぜ“やぼったい”のだろう? ズート・シムズのフレーズは,それがアドリブを吹く場合であっても“真面目にきちんと”がモットー。一言一言が明瞭で,変に自己主張しない音。この辺りの生真面目さが“やぼったさ”とつながっているのだろう。

 確かにズート・シムズは天才肌のテナー・マンではないかもしれないが,ズートの持ち味をこよなく愛する人にとっては,彼に代わるテナー・マンはいない。そう。ズート・シムズは肩肘張らないジャズ・ファンのアイドルなのだ。

 晩年,ズート・シムズテナーだけでなくソプラノアルトバリトンもプレイした。ズート・シムズテナー・マンであることを認めつつも,個人的に彼の音楽性と一番マッチするのはソプラノ・サックスだと思う。
 『SOPRANO SAX』(以下『プレイズ・ソプラノ・サックス』)がいい。全曲“癒し系”の選曲と相まってズート・シムズの持ち味が表現された一番のCDである。

 『プレイズ・ソプラノ・サックス』の別の聴き所は“音色”。ズート・シムズソプラノは,シドニー・ベシェのようにビブラートを多用したり,ジョン・コルトレーンのように表現の限界に挑むといった,ソプラノ・サックスが本来が持ち合わせている“美しい味わい”を損なうものではない。そう。ここにあるのは“自然で素直な音”。
 プレイヤーとしてのズート・シムズのテクニックは“超一流”なのである。

(1976年録音/VICJ-23598)

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