WAY OUT WEST-1 世の中には“絶対音感”と呼ばれるものを持つ人がいる。ドレミファを完璧に聴き分ける能力のことだ。“無い物ねだり”で憧れたりもするのだが,当の本人たちの中には“絶対音感なんて不必要,むしろ邪魔”と述べる人もいる。なぜだろう?
 答えは「音程のずれが気になって音楽を楽しむことができない」から…。なんとも皮肉な能力である。

 この絶対音感者のやるせない気持ちは,管理人のジャズ批評にも当てはまる。時にソニー・ロリンズの“天才っぷり”が邪魔をして“並のアドリブ”では,狂喜乱舞しなくなってしまった。
 “アドリブの天才”と言えば,この人,ソニー・ロリンズの右に出る者はいないだろう。管理人にアドリブのイ・ロ・ハを教えてくれたのはソニー・ロリンズに他ならない。

 ソニー・ロリンズに関しては一時期相当聴きまくったし,ジャズ批評も読みあさった。ゆえに管理人のジャズ批評の規準は,知ってか知らずか“ロリンズと比較してどうか”になってしまった。
 これは幸いなこと? それとも不幸なこと? 読者の皆さんはどう思われますか?

 もし「それは幸福なことだ」と思われたのであれば『WAY OUT WEST』(以下『ウェイ・アウト・ウエスト』)を聴き込み“アドリブの絶対音感”を身に着けることをお奨めしたい。
 もし不幸だと思われたのであれば『ウェイ・アウト・ウエスト』はその人にとっては“劇薬”となります。決して手を出してはなりませぬ。

 さて,ジャズ・ファンの中には,なぜ『ウェイ・アウト・ウエスト』なのか? ソニー・ロリンズアドリブ名盤,定番と来れば『サキコロ』で決まり,と思った人も多いと思う。
 管理人もアドリブの最高教則は『サキコロ』だとの認識は持っている。しかし『ウェイ・アウト・ウエスト』には『サキコロ』にはない“自由度”がある分,よりジャズ的アプローチが記録されていると思うのだ。

WAY OUT WEST-2 基本的にソニー・ロリンズのプレイ・スタイルは“オンリーワンの自己完結”である。ロリンズの関心事は“いかに自分らしく楽曲の魅力を引き出すか”の1点あるのみ。

 ゆえに『ウェイ・アウト・ウエスト』での「ピアノレス・トリオ」の斬新なフォーマットを手に入れたロリンズは,正に“水を得た魚”!
 リズム隊の間を“自由なアドリブ姿”で泳ぎ回っている。この演奏こそが“天才インプロバイザー”の面目躍如である。ここが管理人の指摘する“自由度の高さ”なのである。

 “アドリブ職人”という重い鎧を脱ぎ捨てた“素”のソニー・ロリンズが聴こえてくる。朗々と軽やかに,しかも優雅さを加えてテナー・サックスを操り続ける。
 アドリブの「究極の完成形」が『ウェイ・アウト・ウエスト』にある。

 
01. I'M AN OLD COWHAND
02. SOLITUDE
03. COME, GONE
04. WAGON WHEELS
05. THERE IS NO GREATER LOVE
06. WAY OUT WEST
07. I'M AN OLD COWHAND (alternate take)
08. COME, GONE (alternate take)
09. WAY OUT WEST (alternate take)

 
SONNY ROLLINS : Tenor Sax
RAY BROWN : Bass
SHELLY MANNE : Drums

(コンテンポラリー/CONTEMPORARY 1957年発売/VICJ-23532)
(ライナーノーツ/レスター・ケーニッヒ,油井正一)

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